上 下
2 / 81
出会いの章『異世界アヴァロンヘイム』

2 これが所謂、異世界転移ってやつか?

しおりを挟む
 ~遡ること数分前~

 ……はっ!?
 ネワオンはどうなって……る?
 いや、ここどこだよ。

 何と言う事だろうか。
 気付けば、目の前に広がるのはだだっ広い草原だった。

 どうしてこうなったのか何もわからない。
 一つわかるのは、結局あの後俺は意識を失ってしまったのだろうと言う事だ。
 あれ以降の記憶が全く無いことからもほぼ確実と言って良いはず。

 だがそんなことよりも……だ。
 おかしい。そう、おかしいのだ。
 俺は確かに自分の部屋でベッドに倒れ込んだんだ。どう考えてもこんな草原にいるはずが無い。
 
 可能性があるとしたらあれか……? 
 以前テレビ番組で見た、寝ている人間を全く別の場所に運んで寝起きの反応を見るドッキリ……。
 って、そんなことをする奴に心当たりは無いし、そもそも俺にそんなことをする利点も無いだろう。
 
 なら改めて一体これは何なんだ……!
 くそっ、薄い望みも消えたせいで異常事態であることが余計に際立っただけじゃないか!

「……」

 頬をなぞる風は微かに冷たく、それでいて生きた草の匂いを感じさせた。
 こんなにリアルな夢は見たことが無いし、あまりにも鮮明過ぎるそれらはこれが夢では無いことを物語っていた。
 であればなおのこと疑問が増えるばかりだ。これで夢オチと言う線も消えてしまった。

 っと、そう言えば体がやけに軽いような……?

 気付けばいつも感じていた首の痛みも、肩のこりも、常に頭を悩ませていた腰の違和感すらも無い。
 え……俺、もしかして死んだ?
 ここは死後の世界だったりするのか?

 だとすれば確かにこの目を疑うような美しい景色も、体が異様に軽いのも納得できる。
 きっと仕事による過労とネワオンのサ終によるショックでぽっくりいってしまったんだろう。

「……?」

 そんな時、ふと視界に映り込んだものが気になった。
 それは金色で、サラサラで、風が吹くたびに揺れている。

 その物体には見覚えがある。そう、髪の毛だ。
 今ではもう見る影も無いが、俺も若い時には伸ばしている時期があった。
 その時の視界が似たような感じだったのを思い出す。

 いや、それはおかしいだろ。
 だって今の俺にはもう……いや、辛くなるからそれは置いておくとしよう。
 重要なのは、それが今の俺には無いはずだと言う事だけ。
 ……ああ、うん、それを言ったら結局変わらないな。

 まあそれはいい。
 そもそもの話、それ以上に気になることがある。だからそんなことは忘れてしまおう。
 そんなことよりも、絶対にありえないとんでもない異常があるじゃないか。

 下を向けば、そこにあったのは大きく柔らかそうな物体。
 そう……紛れもなく、おっぱいである。
 言わずもがな、俺は男だ。
 こんなに大きく魅力的なそれが、男の俺にはあるはずが無いのである。

「嘘だろ……ってうわ何だこの声!?」

 思わず声を出した瞬間、今度は強烈な違和感に襲われた。

「この声、どう考えても俺のものじゃないよな……?」

 そう、声だ。
 俺の声ではないものが、俺の口から発せられている訳だ。
 どう考えてもおかしい。ああもう、さっきからおかしいこと続きだ。

「あー、あー」

 確認のために再び声を出す。
 透き通るように清楚可憐で、それでいてどこか妖艶……。
 今までの俺のよくあるおっさんボイスとは似ても似つかないものだった。

「まさか……」

 嫌な予感……と言うかもはや確信があった俺は近くの水面へと顔を写した。

「やっぱり……」

 水面を見ると、そこには予想通りとんでもない美少女が映っていた。
 長く美しいサラサラの金髪に、色白で整った顔立ちが目を奪う。

「凄いな……」

 つい見惚れてしまい、思わずそう声に出していた。
 それほどのとんでも美少女なんだから仕方がないだろう。

「ん……? これって……」

 そんな時、耳がとがっていることに気付いた。
 所謂エルフ耳と言うものだろう。見慣れているからこそ、すぐにわかった。

 何故見慣れているのか? 
 それは俺のネワオン内でのプレイヤーキャラがハイエルフだからだ。
 昔からエルフが好きだったからな。まあ癖の話は一旦置いておこう。

「さて……どうしたものか」

 俺が気になるのは自分が超絶美少女になっている事ではない。いや気になりはするが、それよりももっと大事なことがある。
 もう薄々わかっていると思うが、この姿は俺のネワオン内での姿と完全に一致しているのだ。
 キャラ名は『ステラ・グリーンローズ』。ハイエルフの王族と言う設定でロープレをする予定だったから苗字はファンタジー世界の貴族っぽい感じになっている。

 しかしまあ……どうしてそんなことになっているのかは皆目見当が付かない。
 だが一つ、一つだけ言えることがある。

「やはり、おっぱいが、デカい……!」

 下を見た途端、視界に大きく映りこむはこれでもかと言う程のデカパイ!
 それが体を揺らせばその度にぶるんぼるんと激しく揺れるのだ。

「おぉ……」

 キャラクリ時に後先考えず出来るだけ大きくした結果がこれだ。
 それ以外にもこのステラというキャラには俺の癖が詰め込まれている。

 手の平いっぱいで揉んでも余りあるそのサイズはまさにダイナマイトボディ!
 尻は大きく、太ももは太く!
 まさに、俺の考えた最強のむっちむちバインバインなドスケベエロ女と言う訳だ……!!

「……」

 となれば、自然と手が動いてしまうのもまた男の定め。
 ……まあ今の俺の体は女の子だけども。
 許してくれよ俺の体。これはそう、運命。抗えぬ運命なのだ。

「やるんだな!? 今……ここで!」

 無意識に伸びていた手を止めることなく、俺はそう叫んでいた。
 こんな状況で乳を揉まない男がいるだろうか?
 いやいない。
 
 それを抜きにしてもこれはあくまで自分の体なのだ。
 自分の体を好き勝手にしてしまうのはいけないことでしょおーか~!?

 ……それからと言う物、俺はしばらくの間、これでもかと俺自身の乳房を楽しんだ訳だ。
 言葉にすると色々と終わっているが、そう表現するしかないのだから仕方がない。

「ふぅ……」

 さて、満足したので一旦冷静に考えてみよう。
 え? それよりもどんな感じだったか教えろって?
 いや、無理だよ。ここじゃ書けないくらい濃厚シングルプレイをしたんだぜ?

 まあそう言う事だから、まずは一旦整理だ。
 
 まず、何故俺はこんな場所にいるのか。答え……わからない。
 では何故、俺はゲーム内のキャラの見た目をしているのか。答え……これもわからない。
 そもそもここはどこなのか。答え……当然のごとくわからない。

 結論……何もわからない。

「……駄目だこれ」

 お分かりの通り、とにかく今の俺には情報が無かった。
 何を判断するにしても、それに関する情報が皆無ではどうしようもないのだ。
 
 ああ、いや訂正だ。
 ここがどこなのかは今持っている情報だけで推測出来る。
 何故かって?
 遠くの方に見えるデカくてぶっとい木には見覚えがあるんだ。

 ネワオンにはプレイヤーたちが口を揃えて最終ダンジョンと呼んでいる超高難易度ダンジョンがある。
 事実上のエンドコンテンツであるそのダンジョンの名は『アヴァロンヘイムの木』。
 アヴァロンヘイムと言うのはネワオン内の世界のことで、その全てを統括する木と言う設定があったからこの名なのだろう。

 で、その木と瓜二つのものが遠くに生えている訳だ。
 さらに俺の姿はゲーム内キャラのそれ。
 この二つがあればここがネワオンの世界……及びそれに類するものであるということは容易に推測できる。

 もっともそれがトンチキな推測でしかないのは理解しているし、仮にそうだとして今俺がここに居る理由にはならない訳だけど。
 だが限られた情報から導き出せたにしてはかなり信憑性があるとは思わないだろうか。
 少なくとも状況証拠的にはこの推測は間違っちゃいないはずだ。

 つまるところ、俺はネワオンの世界に異世界転移してしまった……と言う訳だな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

異世界生活研修所~その後の世界で暮らす事になりました~

まきノ助
ファンタジー
 清水悠里は先輩に苛められ会社を辞めてしまう。異世界生活研修所の広告を見て10日間の研修に参加したが、女子率が高くテンションが上がっていた所、異世界に連れて行かれてしまう。現地実習する普通の研修生のつもりだったが事故で帰れなくなり、北欧神話の中の人に巻き込まれて強くなっていく。ただ無事に帰りたいだけなのだが。

【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
【ファンタジーカップ参加作品です。清き一票をお願いします】 王国の忠臣スグエンキル家の嫡子コモーノは弟の死に際を目前に、前世の記憶を思い出した。 自身が前世でやりこんだバッドエンド多めのシミュレーションゲーム『イバラの王国』の血塗れ侯爵であると気づき、まず最初に行動したのは、先祖代々から束縛された呪縛の解放。 それを実行する為には弟、アルフレッドの力が必要だった。 一方で文字化けした職能〈ジョブ〉を授かったとして廃嫡、離れの屋敷に幽閉されたアルフレッドもまた、見知らぬ男の記憶を見て、自信の授かったジョブが国家が転覆しかねない程のチートジョブだと知る。 コモーノはジョブでこそ認められたが、才能でアルフレッドを上回ることをできないと知りつつ、前世知識で無双することを決意する。 原作知識? 否、それはスイーツ。 前世パティシエだったコモーノの、あらゆる人材を甘い物で釣るスイーツ無双譚。ここに開幕!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

元四天王は貧乏令嬢の使用人 ~冤罪で国から追放された魔王軍四天王。貧乏貴族の令嬢に拾われ、使用人として働きます~

大豆茶
ファンタジー
『魔族』と『人間族』の国で二分された世界。 魔族を統べる王である魔王直属の配下である『魔王軍四天王』の一人である主人公アースは、ある事情から配下を持たずに活動しいていた。 しかし、そんなアースを疎ましく思った他の四天王から、魔王の死を切っ掛けに罪を被せられ殺されかけてしまう。 満身創痍のアースを救ったのは、人間族である辺境の地の貧乏貴族令嬢エレミア・リーフェルニアだった。 魔族領に戻っても命を狙われるだけ。 そう判断したアースは、身分を隠しリーフェルニア家で使用人として働くことに。 日々を過ごす中、アースの活躍と共にリーフェルニア領は目まぐるしい発展を遂げていくこととなる。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

処理中です...