80 / 101
80 温泉
しおりを挟む
宿が誇る自慢の温泉に入った二人は窓から見える絶景に驚いていた。
初代となる日本人の男の意向により、庭には出来るだけ日本の木々に似ている見た目のものが集められているのだ。
そうした木々の奥にそびえ立つ火山はまるで富士山かのように見えていた。
そうまでして日本を意識した作りになっているのだ。その景色に二人が圧倒され、懐かしさを感じてしまっても無理も無かった。
たった数週間。されど数週間。
全く違う異世界に放り出されてしまったと言うのは、それだけ心に大きな影響を与えるのである。
「……私たち、帰れるのかな」
懐かしさのある光景を目の前にしてセンチメンタルになってしまった桜はふとそう呟いてしまった。
勇者として召喚される際に元の世界への執着は弱められるものの、それが完全に無くなる訳では無いのだ。
桜のその一言はとても短いものの、その中には色々な感情が込められているのだった。
「……今のところこれと言った方法は無いらしいけど、探していけばいつかは見つかるかもしれないね」
そんな彼女の言葉に対して、咲はそう返した。
それはどこまで行っても、結局のところはただの希望的観測にしかならないのかもしれない。
だがそれと同時に、この世界にはまだ見ぬ何かがあるのもまた事実であった。
要するに一切帰る方法が無いのだと確定している訳でもないのだ。
「うん……そうだね。ありがとう咲ちゃん」
桜もそれは理解しているため、それ以上話を続ける訳でもなく、隣にいる咲に肌を密着させるのだった。
「……」
「……」
黙ったままの二人を湯煙が包み込み、湯から出ている部分をもゆっくりと温めていく。
そのせいか、はたまた別の要因があるのか、いつの間にか二人とも頬を赤く染めていた。
チラチラと互いの顔や体を見るものの、何をするわけでも無い二人。
しかしその時だった!
とうとう我慢の限界を迎えてしまった桜は咲を襲ってしまったのである!
「さ、桜……!?」
「ごめんね咲ちゃん、最近全然発散出来て無かったから……私、もう限界で……」
彼女の眼はまさしく野獣と言うべき捕食者のそれであった。
フェーレニアを出てからというもの、行商人の馬車の護衛をしている間はそう言った事を出来る雰囲気では無かったし、匿ってくれた金銀姉妹の屋敷でおっぱじめるだなんてそれこそもってのほかだったのだ。
その結果、抑圧されていた全ての欲望が解放されてしまった今、彼女は二度と止まらぬ暴走機関車と化してしまった訳である。
「ハァ……ハァ……咲ちゃん……!!」
「ま、待って桜……! ひとまず落ち着こう!?」
荒い息のまま体を押さえつけてくる桜に向けて咲は慌てた様子でそう叫んだ。
「私はおち、おちつついてるよ」
「駄目だこれ早く何とかしないと……!」
咲は暴走した桜をどうにかして鎮めようとするものの、残念ながら時既に遅し。
哀れな子羊である咲は捕食者たる桜に容赦なく食われてしまう……。
……と、思われたその時。
「ふえぁ……」
桜は気の抜けた声を漏らし、意識を失ってしまったのだった。
――――――
「ごめん、咲ちゃん……」
頭を冷やした桜は開口一番、これでもかという程に真剣な声と表情で咲への謝罪の言葉を口にした。
「ううん、私こそもっと早く気付くべきだったから」
金銀姉妹の屋敷でのこともあり、咲は彼女が湯あたりしやすい体質だと言うことは知っていた。
しかしまさかここまでとは思っておらず、完全に油断していたのだった。
「……お水飲む?」
咲はそう言って未だ頬を染めたままの桜に水の入ったカップを手渡した。
「うん、ありがとう……」
それを受け取った桜はゆっくりとその水を飲み始める。
「んくっ……ぷはっ」
そんな桜の姿を咲は黙って見つめていた。
「……」
同時に彼女もまた頬を染めてしまう。
しかし温泉で上がった咲の体温はとっくに元に戻っていた。
では何故こうなったのだろうか?
その理由はただ一つ。桜のその姿があまりにも煽情的過ぎたのである。
上気した顔に、どこか虚ろな目。そして乱れた服のまま、嬌声にも似た声をごくごくと水を飲むたびに漏らしているのだ。
つい先程襲われそうになったばかりの咲にとってそれらは抗いがたい誘惑であり、同時に劇毒でもあった。
「桜……」
無意識の内に、咲は桜に向けて両手を伸ばしていた。
もはや彼女自身ですら自分が何をしているのかわかっていない様子である。
「咲ちゃん? ……ふふっ、いいよ」
咲のその行動の意味を理解したのか、桜は優しく微笑み肯定の意を示した。
そして両手を広げて彼女の次の行動を待つ。
「……ごめん」
しかし咲は彼女に触れる直前でその手を引っ込めてしまった。
あろうことかこの土壇場で我に返ってしまったのである。
また真昼間からおっぱじめることに抵抗を持っているのも事実であった。
「……咲ちゃんの意気地なし」
そんな咲を見ながら桜は彼女に聞こえない程の声量でそう呟くのだった。
初代となる日本人の男の意向により、庭には出来るだけ日本の木々に似ている見た目のものが集められているのだ。
そうした木々の奥にそびえ立つ火山はまるで富士山かのように見えていた。
そうまでして日本を意識した作りになっているのだ。その景色に二人が圧倒され、懐かしさを感じてしまっても無理も無かった。
たった数週間。されど数週間。
全く違う異世界に放り出されてしまったと言うのは、それだけ心に大きな影響を与えるのである。
「……私たち、帰れるのかな」
懐かしさのある光景を目の前にしてセンチメンタルになってしまった桜はふとそう呟いてしまった。
勇者として召喚される際に元の世界への執着は弱められるものの、それが完全に無くなる訳では無いのだ。
桜のその一言はとても短いものの、その中には色々な感情が込められているのだった。
「……今のところこれと言った方法は無いらしいけど、探していけばいつかは見つかるかもしれないね」
そんな彼女の言葉に対して、咲はそう返した。
それはどこまで行っても、結局のところはただの希望的観測にしかならないのかもしれない。
だがそれと同時に、この世界にはまだ見ぬ何かがあるのもまた事実であった。
要するに一切帰る方法が無いのだと確定している訳でもないのだ。
「うん……そうだね。ありがとう咲ちゃん」
桜もそれは理解しているため、それ以上話を続ける訳でもなく、隣にいる咲に肌を密着させるのだった。
「……」
「……」
黙ったままの二人を湯煙が包み込み、湯から出ている部分をもゆっくりと温めていく。
そのせいか、はたまた別の要因があるのか、いつの間にか二人とも頬を赤く染めていた。
チラチラと互いの顔や体を見るものの、何をするわけでも無い二人。
しかしその時だった!
とうとう我慢の限界を迎えてしまった桜は咲を襲ってしまったのである!
「さ、桜……!?」
「ごめんね咲ちゃん、最近全然発散出来て無かったから……私、もう限界で……」
彼女の眼はまさしく野獣と言うべき捕食者のそれであった。
フェーレニアを出てからというもの、行商人の馬車の護衛をしている間はそう言った事を出来る雰囲気では無かったし、匿ってくれた金銀姉妹の屋敷でおっぱじめるだなんてそれこそもってのほかだったのだ。
その結果、抑圧されていた全ての欲望が解放されてしまった今、彼女は二度と止まらぬ暴走機関車と化してしまった訳である。
「ハァ……ハァ……咲ちゃん……!!」
「ま、待って桜……! ひとまず落ち着こう!?」
荒い息のまま体を押さえつけてくる桜に向けて咲は慌てた様子でそう叫んだ。
「私はおち、おちつついてるよ」
「駄目だこれ早く何とかしないと……!」
咲は暴走した桜をどうにかして鎮めようとするものの、残念ながら時既に遅し。
哀れな子羊である咲は捕食者たる桜に容赦なく食われてしまう……。
……と、思われたその時。
「ふえぁ……」
桜は気の抜けた声を漏らし、意識を失ってしまったのだった。
――――――
「ごめん、咲ちゃん……」
頭を冷やした桜は開口一番、これでもかという程に真剣な声と表情で咲への謝罪の言葉を口にした。
「ううん、私こそもっと早く気付くべきだったから」
金銀姉妹の屋敷でのこともあり、咲は彼女が湯あたりしやすい体質だと言うことは知っていた。
しかしまさかここまでとは思っておらず、完全に油断していたのだった。
「……お水飲む?」
咲はそう言って未だ頬を染めたままの桜に水の入ったカップを手渡した。
「うん、ありがとう……」
それを受け取った桜はゆっくりとその水を飲み始める。
「んくっ……ぷはっ」
そんな桜の姿を咲は黙って見つめていた。
「……」
同時に彼女もまた頬を染めてしまう。
しかし温泉で上がった咲の体温はとっくに元に戻っていた。
では何故こうなったのだろうか?
その理由はただ一つ。桜のその姿があまりにも煽情的過ぎたのである。
上気した顔に、どこか虚ろな目。そして乱れた服のまま、嬌声にも似た声をごくごくと水を飲むたびに漏らしているのだ。
つい先程襲われそうになったばかりの咲にとってそれらは抗いがたい誘惑であり、同時に劇毒でもあった。
「桜……」
無意識の内に、咲は桜に向けて両手を伸ばしていた。
もはや彼女自身ですら自分が何をしているのかわかっていない様子である。
「咲ちゃん? ……ふふっ、いいよ」
咲のその行動の意味を理解したのか、桜は優しく微笑み肯定の意を示した。
そして両手を広げて彼女の次の行動を待つ。
「……ごめん」
しかし咲は彼女に触れる直前でその手を引っ込めてしまった。
あろうことかこの土壇場で我に返ってしまったのである。
また真昼間からおっぱじめることに抵抗を持っているのも事実であった。
「……咲ちゃんの意気地なし」
そんな咲を見ながら桜は彼女に聞こえない程の声量でそう呟くのだった。
13
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
【完結】黒の魔人と白の魔人
まるねこ
恋愛
瘴気が溢れる毒の沼で生まれた黒の彼と白の私。
瘴気を餌に成長していく二人。
成長した彼は魔王となった。
私は地下に潜り、ダンジョンを造る日々。
突然、私の前に現れた彼は私にある頼み事をした。
人間の街にダンジョンを作ってほしい、と。
最後の方に多少大人な雰囲気を出しております。ご注意下さい。
Copyright©︎2024-まるねこ
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる