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26 迷子の猫探し

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 色々とあった二人だが、無事に冒険者登録を終えることが出来たのだった。
 桜の能力を測定した時に超級治癒の事が周囲にバレるやいなやこれまたお祭り騒ぎとなったのだが、なんだかんだあって事は収まり今に至るわけである。

「見習いか……まずは薬草の採集にでも行ってみようか?」

 咲は登録時に渡された冒険者としての証明書を兼ねた首飾りを眺めながらそう言う。
 見習い冒険者が出来る依頼と言えば薬草などの採集や探し物の捜索など、そう言った危険度の低いものがほとんどだった。

「そうだね。ひとまずは安全そうな依頼を受けてみようか」

 桜のその返答を聞いた咲は大量の依頼書が張ってある掲示板の前へ行き、自分たちが受けられそうな依頼が無いか探し始めた。

「ワイバーンの討伐にグレートウルフの討伐……この辺は今の私たちには無理……か」

 そこに張られている依頼の多くは魔物の討伐依頼であり、見習いである二人が受けられるものでは無かった。

「あっ」

 しかし端っこの方に張られていた紙を見た咲はそう声を漏らす。

「迷子の猫探し……これなら危険も無いし私たちでも受けられる」

 その依頼書の内容は迷子になってしまった猫を探して欲しいと言うものだった。
 依頼の受注可能ランクは見習いからであり、街の中で探す分には危険と言う危険も無い。
 それは今の二人にとっては十分すぎる条件の依頼だった。

 そんな依頼を逃すはずもなく、二人は早速初めての依頼を始めることにした。

「……で、どうやって探そうか」

 しかしそうは言っても二人に猫探しのノウハウがあるはずもなく、二人揃って途方に暮れてしまう。
 そんな時だった。咲は何かを思いついたのかいきなり立ち上がり、ベルトを呼び出したのだった。

「何か手があるの?」

「うん、確かここに……あったあった」

 咲はベルトの横に付いているケースから恐竜の模様が描かれている指輪を取り出す。
 そしてそれを手慣れた様子でベルトに装着した。

『チェンジライズ! パラサライザー!』

 ベルトがそう叫ぶのと同時に咲の周りに青白い粒子が舞い、それは恐竜型のアーマーとなって彼女の体を包み込んだ。
 この世界に来てからも何度か行ったカルノライザーへの変身……だが今回はその姿が大きく違っていた。
 それまでは肉食竜の頭を模したアーマーだったはずのカルノライザーは今、全く別の恐竜の頭部を模したアーマーを装着しているのだ。

「咲ちゃん、その姿は……?」

 見慣れた姿とは違うカルノライザーに驚いた桜は思わずそう尋ねていた。

「この形態はパラサライザーって言ってね。このパラサソナーで探し物をするのが得意なの。戦闘能力は通常の状態とあまり変わらないから確か人前だと使ったことは無いかな?」

 桜がその姿を見たことが無いのも当然だった。
 この形態のカルノライザーは探索特化型であり、基本的にヒーローとしてドラゴラゴンと戦っている際にこの姿になることはほとんど無かったのだ。

「と言うことはその姿を見たのは私が初めてってこと?」

「少なくともこうやってはっきり見たのは桜が初めてなんじゃないかな」

「えへへっ、それじゃあカルノライザーの……咲ちゃんの初めて貰っちゃったってことだね」

 桜は頬を染め、さぞかし嬉しそうな笑みを浮かべてそう言った。

「じゃあ猫を探そうか」

 そう言うと咲はパラサソナーを起動して猫の反応を探し始めた。
 
「あ、いた」

 その探索範囲はかなり広く、あっという間に猫の反応が示し出されたのだった。
 それからは難しいことも無く、迷子になっていた猫の元に向かい保護したのだが……。

「酷い怪我……」

 猫の足には大きな裂傷があり、大量に出血してしまっていた。
 恐らく二人が来るのがもう数時間遅ければその命は無かっただろう。

「このまま依頼主に渡して終わり……って言うのはちょっと気分が良くないね」

 あくまで二人の受けた依頼は迷子の猫の保護だけであり、その状態については問われてはいなかった。
 猫がどんな怪我を負っていたとしても二人には責任は無い訳である。
 しかし、だからと言ってそのまま放って置けるはずもなかった二人は猫の傷を治すことを選んだ。

「コアヒール……!」

 咲が暴れようとする猫を抑え、その間に桜が回復魔法をかけた。
 彼女の使用したコアヒールは回復箇所を一部分のみに絞ることでその効果を跳ね上げることができる回復魔法である。
 その効果は凄まじく、先程まで中の筋肉まで見えてしまっていた猫の足は奇麗さっぱり元通りになり、数秒後には立って歩ける程になっていた。

「傷も治ったことだし、依頼主の所に行こうか」

「そうだね。早く会いたいだろうし」
 
 二人は猫を連れて依頼主の元へと急ぐ。

「その猫は……!」

「はい、依頼の猫ちゃんはこの子で間違いないでしょうか」

「ああ……間違えるはずが無い。大事な家族なんだからな……! ありがとう、本当に!」

 依頼主は桜から猫を受け取り、目に涙を浮かべながら二人に感謝の言葉を述べた。

 その後依頼主と共に二人はギルドへと行き、依頼の達成を報告するのだった。

「大事な猫ちゃんが見つかってよかったね」

「うん。やっぱり人助けは気持ちいい」

「き、君たち! 少しいいかね!?」

 そうやってギルドから出た二人が話しながら街を歩いていると、突然後ろから声をかけられた。
 その声の主は全身を鎧で固めた騎士であり、今にも走り出しそうな程にその身を慌ただしく動かしている。

「……何か用ですか?」

 騎士の慌てた様子からただ事ではないと言うことを理解した咲はそれまでの和気あいあいとした雰囲気はどこへやら、一瞬にして真面目な顔で話を聞く用意をしていた。

「こちらから尋ねておいてすまないが詳しいことは言えんのだ。だがそれでも聞いて欲しい」

 騎士はそう前置きを行った後、懐から一枚の紙を取り出す。
 そこには今朝ギルドで受付嬢と喧嘩をしていたあの少女の顔が描かれていた。

「この子が今朝から行方不明なんだ。君たち、見習い冒険者なんだろう? 彼女の事について何か知ってはいないだろうか」

「……そう言えば」

 咲は今朝の事を騎士に話す。
 すると騎士の様子が急変したのだった。

「ホブゴブリンだって……!? 不味い……お嬢様の身に危険が!!」

 そう言いながらその騎士は勢いよく二人の元から去って行った。

「な、なんだったんだろうね?」

「さあ……。けど、ただ事じゃないのは確かだと思う」

 騎士が去ってしまったため二人にはそれ以上の事はわからず、結局その日はそのまま宿へと戻ったのだった。
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