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Scene 10

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 あれから30年が経った。

 暖炉の中で組まれた3本の丸太が、音を立てて燃えていた。

 じんわりと温かい空気が流れてくる。

 心に染み入る暖気が、真美の心を柔らかくしていた。

 暖炉の中で薪が立てる、ぱちっ! ぱちっ! という音に、真美の心が重なった。



(最近、

   よく渡辺君の夢を見る。

           フラッシュのように、

                  見つめ合った時の眼差しが、

鮮明に脳裏で点滅する。

           パシャッ! 

                    パシャッ! て……)



 真美は暖炉の中の薪を見つめた。



(もう、

        語ってもいいかな? 

                   何十年も前の

『ラブ・ストーリー』にならなかった『ラブ・ストーリー』を……。

              どうしているのだろうか? 

                           探してみようか……)


 
 封印していた秘密を、渡辺と同じN高校出身の親友に話した。

 彼は親身になって消息を調べてくれた。

 でも……。高校生時代の実家の住所までしか辿れなかった。

 17歳。

 渡辺の消息は、あのプラムを食べていた時の眼差しを最後に失われていた。



あれほどに……、

     中学生時代、

          何度も何度も横に並んだのに……、

              一度として、ふたりの人生が交わることはなかった。



(もし、

     ふたりの人生が交わっていたら……。

              きっと今とは全く違った人生を、

                         歩んでいただろう)


 何となく後悔がにじみ出る……。

        渡辺君と一緒に歩いてみたかった……、

                           と……。

でも、分かっている。

           真美と渡辺の人生は、

                けっして交わらない「運命さだめ」だったのだ。


真美は、暖炉の近くに置いたロッキングチェアに座って、本を読んでいる娘を見つめて微笑んだ。



(これで……、

       よかったんだ……)




 彼女の中に住まう

            15歳と17歳の渡辺との

「ラブ・ストーリー」にならなかった「ラブ・ストーリー」は、

きっと

      歳を重ねるごとに

            冴えた美しさを増しながら、

                       凍結し続けていくのだろう。


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