10 / 10
Scene 10
しおりを挟む
あれから30年が経った。
暖炉の中で組まれた3本の丸太が、音を立てて燃えていた。
じんわりと温かい空気が流れてくる。
心に染み入る暖気が、真美の心を柔らかくしていた。
暖炉の中で薪が立てる、ぱちっ! ぱちっ! という音に、真美の心が重なった。
(最近、
よく渡辺君の夢を見る。
フラッシュのように、
見つめ合った時の眼差しが、
鮮明に脳裏で点滅する。
パシャッ!
パシャッ! て……)
真美は暖炉の中の薪を見つめた。
(もう、
語ってもいいかな?
何十年も前の
『ラブ・ストーリー』にならなかった『ラブ・ストーリー』を……。
どうしているのだろうか?
探してみようか……)
封印していた秘密を、渡辺と同じN高校出身の親友に話した。
彼は親身になって消息を調べてくれた。
でも……。高校生時代の実家の住所までしか辿れなかった。
17歳。
渡辺の消息は、あのプラムを食べていた時の眼差しを最後に失われていた。
あれほどに……、
中学生時代、
何度も何度も横に並んだのに……、
一度として、ふたりの人生が交わることはなかった。
(もし、
ふたりの人生が交わっていたら……。
きっと今とは全く違った人生を、
歩んでいただろう)
何となく後悔がにじみ出る……。
渡辺君と一緒に歩いてみたかった……、
と……。
でも、分かっている。
真美と渡辺の人生は、
けっして交わらない「運命」だったのだ。
真美は、暖炉の近くに置いたロッキングチェアに座って、本を読んでいる娘を見つめて微笑んだ。
(これで……、
よかったんだ……)
彼女の中に住まう
15歳と17歳の渡辺との
「ラブ・ストーリー」にならなかった「ラブ・ストーリー」は、
きっと
歳を重ねるごとに
冴えた美しさを増しながら、
凍結し続けていくのだろう。
暖炉の中で組まれた3本の丸太が、音を立てて燃えていた。
じんわりと温かい空気が流れてくる。
心に染み入る暖気が、真美の心を柔らかくしていた。
暖炉の中で薪が立てる、ぱちっ! ぱちっ! という音に、真美の心が重なった。
(最近、
よく渡辺君の夢を見る。
フラッシュのように、
見つめ合った時の眼差しが、
鮮明に脳裏で点滅する。
パシャッ!
パシャッ! て……)
真美は暖炉の中の薪を見つめた。
(もう、
語ってもいいかな?
何十年も前の
『ラブ・ストーリー』にならなかった『ラブ・ストーリー』を……。
どうしているのだろうか?
探してみようか……)
封印していた秘密を、渡辺と同じN高校出身の親友に話した。
彼は親身になって消息を調べてくれた。
でも……。高校生時代の実家の住所までしか辿れなかった。
17歳。
渡辺の消息は、あのプラムを食べていた時の眼差しを最後に失われていた。
あれほどに……、
中学生時代、
何度も何度も横に並んだのに……、
一度として、ふたりの人生が交わることはなかった。
(もし、
ふたりの人生が交わっていたら……。
きっと今とは全く違った人生を、
歩んでいただろう)
何となく後悔がにじみ出る……。
渡辺君と一緒に歩いてみたかった……、
と……。
でも、分かっている。
真美と渡辺の人生は、
けっして交わらない「運命」だったのだ。
真美は、暖炉の近くに置いたロッキングチェアに座って、本を読んでいる娘を見つめて微笑んだ。
(これで……、
よかったんだ……)
彼女の中に住まう
15歳と17歳の渡辺との
「ラブ・ストーリー」にならなかった「ラブ・ストーリー」は、
きっと
歳を重ねるごとに
冴えた美しさを増しながら、
凍結し続けていくのだろう。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。
そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。
真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。
彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。
自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。
じれながらも二人の恋が動き出す──。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
女子アナを攻略した男
龍太郎
恋愛
織田俊平、38歳。女性にプロポーズしたが断られ、北九州を離れて埼玉県への転勤を志願した。福岡空港のロビーで、出発までの時間を喫茶店で過ごすことにした。4人掛けのテーブルにひとり座っている男性に声をかけ、席を空けてもらう。なつみはジェイ・ルービンの「村上春樹と私」という本を取り出して読み始めた。ルービンはアメリカの日本文学翻訳家で、村上春樹の翻訳に加え、芥川龍之介や夏目漱石の翻訳でも有名な存在である。なつみは目次を見てページをめくろうとするが、どうにも集中できない。目の前に座る男性が気になって仕方ないのだ。その男性は少しイケメン風で、流行の眼鏡をかけているが、もしかしたらメガネ量販店で3,000円のフレームを買ったのかもしれない。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる