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桜とおじいちゃん

第178話 ひろし、次の試合を決める

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 黒ちゃんはイークラトに到着したが「けやきの棒」は売ってなかったので「くぎバット」と「モリブデンの大盾おおたて」を買って戻ってきた。

 黒ちゃんは転移魔法で戻ってくると、走ってリングに上がってベンドレに言った。

「いやぁ、すみませんでした。お願いします!」

 黒ちゃんは頭を下げると「くぎバット」と「モリブデンの大盾」を装備した。

 2階からそれを見ていたアカネは笑いながら大熊笹に言った。

「ははは! 黒ちゃん、悪党みたいだね!」

「はっはっは、そうですな」

 リングの上の黒ちゃんは盾を前に出して釘バットを構えると、妙にしっくり来て思わずつぶやいた。

「な……、なんだろうか、この遠い昔から知っているかのような安心感とフィット感……」

 黒ちゃんが驚いているとベンドレが黒ちゃんに言った。

「黒ちゃんさん。どうぞ、いつでもかかってきてください」

「は、はい!」

 ダダダッ!

 黒ちゃんはベンドレに突進すると、素早く釘バットを振り下ろした。

「うぉぉおおお!」

 ブンッ!

 ベンドレは前に踏み込みながら釘バットをけると、体を回転させて水平斬りを放った。

 ガオン!!

 しかし黒ちゃんは咄嗟とっさに盾で受けると、そのまま盾を前にしてタックルを放った。

「おぉぉおおお!」

 ドガン!!

「くっ」

 ベンドレは慌てて剣で受けたが、HPを減らしながら後ろへ飛ばされた。

 ベンドレはヨロけながらも冷静に体勢を立て直すと、瞬時に体を低く構えて素早い突きを放った。

 ガン! バキョッ!!

 しかしなんと黒ちゃんは体が勝手に動くように反応し、素早くベンドレの突きをくぎバットで叩き落とした。

「なにっ!」

 だが、その衝撃でくぎバットはぷたつに折れてしまった。

 黒ちゃんは折れたくぎバットを投げ捨てると、新しいくぎバットを出現させながらつぶやいた。

「さすがに剣を叩けば折れるか……。しかし何故なぜか体が勝手に反応する……。ベンドレさんの剣の気配が分かるぞ……」

 ベンドレをそれを見ると、笑顔になって黒ちゃんに言った。

「黒ちゃんさん、やはり棍棒こんぼうと盾が良さそうですね」

「はい! まさか、こんなに相性の良い武器があるとは!」

「黒ちゃんさん、今日はここまでにしましょう。しばらく棍棒と盾に慣れてからまた練習しましょう」

「はい、ありがとうございます! またお願いします!」

 黒ちゃんがベンドレに頭を下げると、2階のアカネが黒ちゃんに大声で言った。

「おーい、黒ちゃーん! 次は朝練だよー!」

「おう!! 今行く!!」

 黒ちゃんはリングを降りて見学していた茂雄と哲夫に頭を下げると、家に入って2階の道場へと向かった。


 ー その日のお昼すぎ ー

「はぁはぁはぁ……、勝てたぞ……。くぎバットでも戦えるじゃないか」

 なんと黒ちゃんは1人でイークラトへ行き、くぎバットでホワイトドラゴンを討伐していた。

 黒ちゃんは耐久値がほとんど無くなったくぎバットを投げ捨てると、近くで隠れて見ていたプレイヤーたちがザワめいた。

 見ていたプレイヤーたちはホワイトドラゴンと少しだけ戦ったが全く歯が立たず、岩陰いわかげに隠れていた所に黒ちゃんが現れたのだった。

 プレイヤーたちは黒ちゃんの戦いを見て驚きながら話した。

「あの原始人みたいな人、くぎバットでホワイトドラゴンをなぐり倒したな……。まじか……」

「あ、ああ。めっちゃ殴ってたな」

「ドラガもちょっと引いてたよな」

「ああ、完全にビビってた。だってあの人、くぎバットで殴ってから盾で殴って頭突きしたら背負投げしたからな」

「いっその事、両手にくぎバット持ったら良いんじゃないか」

「ぶはは、それな! ……あっ、やばい! あの人、こっち来るよ!」

「ええっ、まじで!?」

 すると黒ちゃんが大声でプレイヤーたちに声をかけた。

「話がある!!」

「「うわぁあ!!」」

「やべぇ、話聞こえてたのか?」
「い、いや、あの距離で……」
「どっちにしろヤバい! 殴り殺されるぞ!」

 プレイヤーたちが全員驚いて逃げようとすると、黒ちゃんがさらに大きい声で言った。

「待て!!」

「「はいっ!!」」

 黒ちゃんの声にプレイヤーたち全員が驚いて立ち止まると、黒ちゃんはプレイヤーたちに言った。

「わたしが拾えないホワイトドラゴンの素材がある。どうやら君たちの分のようだ」

 プレイヤーたちが驚くと、黒ちゃんの足元にたくさんの折れたくぎバットとホワイトドラゴンの素材が落ちていた。

「ええっ!!」
「いや、でもステータスポイント入らなかったんで」
「そうそう! おれら隠れてたんで」

 すると黒ちゃんが答えた。

「確かにクエスト中、あまりにも貢献度の低いプレイヤーにはステータスポイントは入らないようだが、どうやら素材は別のようだな」

 黒ちゃんの言葉にプレイヤーたちは驚くと口々に言った。

「やば! これが噂に聞くラッキー討伐!?」
「やった! ちょっとでも攻撃しておいてよかった」
「うそ、まさにラッキーじゃん!」
「ありがたい!」

 黒ちゃんは笑顔になると、優しくプレイヤーたちに言った。

「良かったな。ラッキーな事にレアな目玉も落ちている。ちょっとした武器は作れるだろう」

 それを聞いたプレイヤーたちは全員笑顔でお礼をした。

「「ありがとうございます!」」

「いやいや、礼には及ばぬ。ではまた、どこかで会おう」

 黒ちゃんはそう言い残すと、G区画の家へ転移していった。

 プレイヤーたちは喜んで素材を拾いに行くと口々に言った。

「あの人、めっちゃ紳士!」
「やば、れるかも」
撲殺紳士ぼくさつしんし?」
「あ、それ! ほんと、それな!」
「確かに!」

 こうして黒ちゃんはイークラトの地で新しい伝説を作ったのだった。


 ー G区画の家 ー

 ブゥー……ン

 黒ちゃんが転移してきて家に入ると、おじいさんたちが何かを話し合っていた。

「こんにちは」

「「こんにちはー」」

 するとアカネが黒ちゃんに言った。

「黒ちゃん遅いよ! で、いつヒマ?」

「え? ヒマ?」

 するとイリューシュが黒ちゃんに説明した。

「頂上決戦の2回戦の日程です。午後お暇な日はありますか?」

「え、あ、はい。いつでも大丈夫です。有給消化中ですので……」

 するとアカネが嬉しそうに言った。

「じゃあ、明日の日曜だね!」

「え? お、おう。わたしは大丈夫だアカネ」

「じゃあ、明日で決定ね! じぃちゃん日曜でおねがい!」

「はい。では明日日曜で決定しますね。お昼過ぎてよろしいでしょうか」

「「はーい!」」

 おじいさんは希望日を日曜に設定して、みんなに言った。

「明日の日曜に設定しました。……あ、もう承認されました。明日14時から開始です」

「え、まじで? 早っ!」

 するとめぐがアカネに言った。

「だって希望日出すのウチらがあとだもん」

「あ、そっか」

「少し緊張しますね」
「わたしはけやきの棒を手に入れねば」
「ふふふ、楽しみですね」

 おじいさんたちは明日に2回戦が決まると、特に準備する事もなく、ララ助やタッちゃんと遊びながら美味しいお菓子とお茶を楽しんだ。
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