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桜とおじいちゃん

第176話 哲夫、気になる

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 ー 翌朝 ー

 朝早く、つむぎたちはG区画の家の庭にやってきていた。

「うわぁ、すごい綺麗な桜!」
「すごい、大きいね!」
「きれいー!」

 するとつむぎは桜の下のロッキングチェアで眠っている茂雄に気がついた。

「あ、あのおじいさん、もしかして昨日ひろじいちゃんからメッセージもらった茂雄さんかも」

 するとChocoとミッチが言った。

「あ、ルルさんもメッセージくれてたよね」

「うん、わたしたち塾の模試もしで行けなかったけど」

「でも無事でよかった」

 つむぎたちは茂雄を起こさないように静かに庭に入ると、庭の隅にリングが設置してあることに気づいた。

「あれ? これって……、強そうな人たちが戦うやつだよね」

「あ、そうかも」
「うん、ネットで見たことある」

 するとその時、つむぎの後ろで声がした。

「おはようございます」

 つむぎたちは振り返ると、茂雄が丁寧にお辞儀していた。

「あ、おはようございます」
「おはようございます」
「おはようございます」

 つむぎは気になって茂雄に聞いた。

「ええと、茂雄さんですよね」

「はい、茂雄です。はじめまして」

「「はじめまして」」

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 するとその時、ナミが釣り竿を担いでクーラーボックスを引きながら庭に入って来た。

「ぉはよぅございます」

「「おはようございます!」」

「つむぎちゃん、これ」

 ナミは手に蝶々のアサギマダラを出現させた。

「あっ! それはレアなアサギマダラ!」

「ぅん、海にぃた。ぁげる」

「いいんですか!?」

「ぅん」

 ナミはそう言うと、庭の花畑に放した。

「ナミさん、ありがとうございます!」

「ぅぅん。また捕まえたら、ぁげる」

 するとナミは茂雄にも話しかけた。

「しげおさん。このつむぎちゃんは、ひろしおじいさんのぉ孫さん」

「おお、そうでしたか! つむぎさん、お祖父様じいさまには大変お世話になっています」

 茂雄はつむぎに深々と頭を下げた。

「え、あ、いえ、よ、よかったです」

 つむぎも慌てて頭を下げると、今度はルルとベンドレがやって来た。

「「おはようございます!」」

「「おはようございます!」」

 すると、つむぎの友達のミッチはルルに尋ねた。

「ルルさん、売上はどうでしたか?」

「それが……、ぜんぜんで……」

「そうですか……」

 すると、さらにルルの後ろから声がした。

「売上がどうかしましたか?」

 ルルが振り向くと、なんと哲夫がいた。

「あ、哲夫さん」

「何かの売上が悪いのでしょうか?」

「ええ、そうなの。あたし、花と虫を集めて売ってるんだけど開店初日から売れなくて……。値段は安いはずなのに」

「なるほど。私はスーパーヨクヨの創始者です。何かお役に立てるかもしれません」

「「ええっ!!!」」

 ルルは驚いて哲夫に言った。

「哲夫さん、あたし毎日マンションの1階のヨクヨさんにお世話になってるわ。びっくり!」

「これはこれは、ありがとうございます!」

「哲夫さん。もしご迷惑でなければ、お店を見てもらえませんか? もう私は何をして良いか分からなくて……」

「はい喜んで。これは腕が鳴りますな!」

 こうしてルルたちはお店へ、ナミはララガたちにご飯をあげに大広間へ向かった。

 茂雄は静かにロッキングチェアに腰掛けると、桜を見上げながら稽古けいこに来る予定のタマシリを待った。

 ◆

 哲夫はルルたちと一緒にルルのお店に到着すると、腕を組みながらルルに話し始めた。

「ルルさん、このお店は見た目がオシャレで高級そうですが、安売りの赤札が目立ちますな」

「え、だめなの? 開店セールなんだけど」

「はっはっは! これでは高級志向のお客様も低価格志向のお客様もさそいこめません」

「ええっ!?」

 哲夫は店の中に入ると、さらにルルに言った。

「この高額の『岩の花110万プクナ。残り5個あります』というのは勿体無もったいないですな」

「もったいない?」

「『岩の花110万プクナ。在庫限り』としたら、いかがでしょうか」

「たしかにそうね……。実際ウソじゃないし、無くなるかもって思って買いたくなるわ」

「このお店の商品は赤札が付いていても全体的に高額ですが、ストーリーが見えませんね」

「ストーリー?」

「はい。例えば、この小さな黄色い花は、どんな花ですか?」

「どんな??」

 すると、会話を横で聞いていたつむぎが答えた。

「それはオンシジュームという花で、花言葉に『可憐かれん』や『清楚せいそ』という言葉があります。プレゼントにも良いと思います」

 それを聞いた哲夫は笑いながら言った。

「はっはっは、それですよ! それがストーリーです」

「ええっ!?」

「商品には必ず、その商品にまつわるお話、すなわちストーリーがあるんです。それを売るんです」

 ルルは驚きながらも納得して言った。

「な、なるほど。確かにお店にそう書いてあったら欲しくなるわね……」

「あ、それと赤札は外してください。このお店の価格帯は高めですから富裕層ふゆうそうを狙いましょう」

「え、だ、大丈夫かしら。昨日も売れてなくて」

「おそらく花を買うくらいですから、この世界にも家をもっているはずです。となると、プクナにも余裕があります」

「確かにそうだわ」

「現実世界でも富裕層であれば課金していて、この世界に家くらい持っているでしょう」

「そ、そうね。鋭い読みだわ」

「いえいえ、ははは。このお店の商品にはプクナと仮想通貨の両方の値段がありますね」

「ええ、仮想通貨か電子マネーの送金ならプクナの1/5の値段です」

「おそらく5000プクナの花の場合、富裕層のプレイヤーならば手間を考えて1000円払ったほうが早いと考えるでしょうね」

「確かに。5000プクナ集める手間を考えたら1000円払うかもしれないわ。そうなれば現金が集まるわね……」

「それと、このお店は無人のセルフ販売方式を採用していますね」

「はい。そのほうが効率がいいかと思って」

「今日から、しばらく対面接客をしてみましょう」

「ええっ!?」
「いいですね!」

「えっ!?」

 なんと、つむぎが対面接客に賛成した。

 ルルは驚いたが、つむぎは笑顔で哲夫に話した。

「このお店のお花は素晴らしいお花ばかりなんです。できればしっかり説明したいんです」

 するとその時、元ベンドレのメンバーでルルの花を売る仕事に賛同したプレイヤーがレアな花を持って現れた。

「ルル様、こちらを持って参りました」

「あ、ありがとう! 現金販売のほうね。売れたら60%を振り込んでおくわ」

「はい。ありがとうございます」

 するとその時、つむぎが花を持ってきたプレイーヤーに話しかけた。

「あ、それは、ヘリコニアですね! とってもレアな花ですよね。どこで見つけたんですか? すごいです!」

「あ、ああ。レスカカルの密林にあるんです。でもレスカカル・タイガーという強い敵を倒さないと手に入らなくて……」

 つむぎは話を聞くと目を輝かせながら言った。

「すごい! わたし弱くてレスカカルに行けないから初めて見ました!」

「いやぁ、ははは。また、すぐ持ってきますよ」

「ありがとうございます! 頼もしいです!」

「え、あ、いやぁ。ははは」

 花を持ってきたプレイヤーは嬉しそうにして店を出ると、急いでまたレスカカルへと転移していった。

 つむぎはヘリコニアを眺めながら笑顔になるとChocoとミッチも嬉しそうに言った。

「すごくキレイ!」
「ほんと!」
「きれいな赤だねー」

 それを見ていた哲夫はルルに言った。

「価格の60%を回収してきた人に報酬として与えるのは良いアイディアですな」

「ええ。あたし1人じゃ花や虫を集められないから……」

「ルルさん。あなたは花の仕入れだけして、お店はあの3人に任せてみてはいかがですか?」

「ええ?」

「あの3人にポップ(商品の説明書きをフレンドリーに書いたもの)を書かせてみてください。きっと売れますよ」

「ほんとうですか? じゃあそうしてみます!」

 こうして哲夫はルルの店でアドバイスを終えると、満足そうな笑顔でG区画の家へ戻っていった。
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