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老兵は消えず、ただ戦うのみ

第101話 ドラちゃん、はむっ

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 山頂付近で敵の魔法陣に狙われた山口は、走って逃れながら周りを見回して魔法使いを探したが見つからなかった。

「くっ! 伏兵か!」
 
 山口は魔法陣から逃れるように藪の中を走った。しかし、

 ザザッ!

「しまった、崖か!」

 なんと山口の目の前は断崖絶壁だんがいぜっぺきがけだった。

 ヒュォォォオオ……

 するとその時、崖の下にドラちゃんが低空飛行でやってきた。

 山口はドラちゃんとアイコンタクトすると、がけのほうへ走っていった。

 ダダダダダダダダ……

 魔法陣はどんどん帯電して大きな雷の塊が出来ると、一気に大放電を起こして雷の魔法が放たれた。

 ガガァァァァァン!!

 ダッ!!

「ドラゴン殿!!!」

「はっはっは! お任せを!」

 山口は崖から飛び降りた。

 バサッ バサッ バサッ 

 はむっ!

 ドラちゃんは素早く滑空して追いつき、山口をくわえて飛び上がった。

 そしてドラちゃんは高い高度まで飛び上がると、頭を背中へひねって山口を背中に乗せた。

「さすがですドラゴン殿!!」

「はぁーっはっはっは! あとで洋子様にこの武勇伝ぶゆうでんを報告してください! もちろん詳細かつスリリングに!!」

「もちろんですともドラゴン殿! 助かりました!」

「はっはっは! お安い御用です!」

 ドラゴンに乗った山口が空から戦況せんきょうを見ると、敵プレイヤーたちの一部がモービルで北西の山へ向かっているのが見えた。

 そして北西の山の山頂付近では、弓部隊が奮闘ふんとうしているのが見えた。

「ドラゴン殿、山の上の敵兵はだいぶ減っていますが、このままでは背後を取られてしまいます。ドラゴン殿は炎を吐いたりは……」

「もちろん、残りの弓兵くらいなら殲滅せんめつできる破壊力の炎を吐けますが、炎を吐いたら寝るでしょう。はっはっは!」

「わかりました。では作戦を切り替えましょう」

 山口は弓の弓部隊のメンバーとボイスチャットを繋いだ。

「みなさん! 今からドラゴン殿の炎で敵を殲滅せんめつします! すみやかに退却して、モービルに分乗し、各々の分隊へ戻ってください!」

「「はい!!」」

 弓部隊は防御魔法を展開しながら走って退却を始めた。

 ダダダダダダダダ……

 それを見た敵の弓使いたちは弓部隊が逃げ出したと思い、歓喜かんきいた。

「よっしゃー! 敵は退却したぞ!!」

「「おおーーー!!」」

「はっはー! オレたちの力を見たか!」
「弓で負けるわけには行かねぇんだよ!」
「あぶねぇ所だったが俺らの勝ちだな!」

 ズゥゥウウン

「「え?」」

 そこへ夜空からドラちゃんが現れて着地した。

「はっはっは! きみたちはもう、死んでいる」

 キィィ…………

 ブォォォオオオアアアアアア!!!

「「うわぁーーーー!!」」

 ドラちゃんが青白い超高温の炎を吐くと、北西の山の山頂が明るく輝いた。

 ヒュゥゥウウゥウ……

 そしてドラちゃんが炎を止めた時には残りの弓使いは全て消滅していた。

「はっはっは! 私はもう寝るでしょう!」

 するとドラちゃんはどんどん小さくなり、そのまま寝てしまった。


 ー 敵本陣 ー

 その頃、敵本陣ではプレイヤーたちが慌てていた。

「ベンドレ様! 北西の山の狙撃隊は全員消滅! リーダーも倒されました!」

「なに!?」

 すると、リスポーンした弓の狙撃隊のリーダーがベンドレにボイスチャットを繋いだ」

「ベンドレ様、申し訳ございませんでした。敵は圧倒的な強さな上に、ドラゴンで空からやって来ました」

「ドラゴンだと!?」

「しかも相手は手練てだれです。全く気配のないところから正確に頭を射抜かれました」

「なんだと!? 弓の狙撃隊のリーダーがヘッドショットを食らってどうするんだ!」

「誠に申し訳ございません、ベンドレ様!」

「もういい!」

 ベンドレはボイスチャットを切ると、参謀のルルに言った。

「ルル、やれるか? 先に何台かモービルで行かせている。加勢してやってくれ」

「はーい。じゃあ、ちょっと行ってくるね。だれかモービル出して」

「はい! 私がお連れ致します」

 ボン!

 プレイヤーの1人が前に出ると、バギーのモービルを出現させた。

 ルルは助手席に乗り込むと、車を北西の山へ向かわせた。

「ルルさん、北西の山に到着したら私が護衛します」

「いいわ、1人で行くから」

「え?」

「わたしが得意なのは暗殺なの。1人のほうが都合いいから。あはは」

「はぁ、なるほど」

 するとルルは、ピッタリとした真っ黒のジャンプスーツに服を変更した。

「昔ね、イークラトでベンドレと一緒にプレイヤーを狩りまくったの。楽しかったなー」

「そ、そうなんですか?」

「ベンドレが正面から行ってー、わたしが後ろから暗殺。あはは、最高だったなー」

「なるほど……」

 運転手は北西の山に向かってモービルを走らせていると、ルルは運転手に車を止めさせて言った。

「ここで止めて待ってて」

「はい、承知しました!」

 ルルは車から降りると、北西の山を素早く登っていった。

 そして、少し遠目から弓部隊が見えるところまでやって来ると、双眼鏡で状況を覗いた。

「あーあ。敵さんモービルで逃げるつもりだわ」

 ルルは双眼鏡を動かすと驚いて手を止めた。

「え? あれは……、イリューシュ……。しまった、こっち見た!」

 ルルは急いで岩陰へ飛び込んだ。

 ドッ!

「いたっ」

 しかし、1本の矢がルルの足に刺さった。

 ルルは慌てて岩陰に隠れると矢を抜きながら呟いた。

「これ、オロチの矢の1本よね。やっぱりイリューシュだわ。相変わらず頭おかしい腕前ね」

 するとルルは岩陰から全速力で走ってモービルへ向かった。

 ドッ!

「いたっ、やっぱ狙われてる」

 イリューシュの矢は再びルルの足を射抜いたが、ルルはそのまま山を滑り降りた。

 そして、急いでモービルに戻ると助手席に乗り込んで車を出させた。

「車を出して! ヤバいのに狙われてる!」

「は、はい!」

 ブゥゥゥウウン!

 運転手は急いでモービルを加速させた。


 その頃、株式会社イグラアの社長と専務の大谷は南東の山の上から密かに状況を見守っていた。

「社長、これは大きな戦いになりそうですね」

「そうだな」

「報告では、このグループは窃盗や詐欺を行っているようです。そろそろ取り締まる手段も必要かと」

「とうとう、そんな時期が来てしまったか……」

「どこの世界にも悪人がいますが、さすがに勢力が大きくなるのも困ります」

「そうだな。わたしはゲームの世界だからこそ、多少の悪人に出会って現実世界で気をつけてもらいたいと思ったのだが……」

「そうですね、私もその考えには賛成です」

「この戦いで我らのがエージェントのいるグループが負けてしまったら、考えなければならないな」

「はい。できれば自浄作用じじょうさように期待したいところです」

「うむ、そうだな」

「しかし社長、ここからではあまり見えませんでしたが、ドラゴンが居ましたね」

「そのようだな。誰かがイークラトのドラゴンの魔法使いの封印を解いたんだな」

「まさか、あのドラゴンの封印を解くプレイヤーがいるなんて」

「開発チームが、解放できる確率は2%以下だと言っていたな」

「はい。まさにレアな眷属けんぞくです」

「もしかしたら解放したプレイヤーも、レアな性格の持ち主かもしれないな」

「そうかもしれませんね、社長」


 ー おばあさんたちが待機している通路入り口 ー

「はっくしょん! あら、ごめんなさい、みなさん。だれか噂でもしているのかしら」

 おばあさんは戦いに備えてアイテムを確認しながら急にクシャミをした。

 するとその時、マユのボイスチャットに山口から連絡が入った。

「北西の山、制圧完了! 各部隊、中央へ向かって前進を開始してください!!」

 マユは連絡を聞くと、立ち上がってみんなに言った。

「連絡きた! 前進してって!」

 全員が慌てて戦闘準備を整えると、ロビたちが前に出てみんな言った。

「みなさん、わたしたちが先陣を切りますので、後方から支援をお願いします」

 ミツとゆぅも武器を装備すると、みんなに頭を下げた。
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