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仮想空間でセカンドライフ

第22話 ひろし、おばあさんと笑い合う

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 魔法使いが一斉に詠唱を始めると、黒ちゃんは魔法防御薬を飲み干し、剣に着火剤をふりかけた。

 そして、魔法使い以外のメンバーに手で制止の合図を出すと、剣を構えて1人で立ち向かっていった。

 敵の魔法使いは9人。魔法使いのリーダー格は長い詠唱をさえぎられないように後ろへ下がった。

 黒ちゃんは剣を地面の岩にこすりつけて炎をまとわせると一気に走り出した。

 しかし次の瞬間、魔法によって作り出された岩の塊に氷の刃、そして大きな炎と雷が同時に黒ちゃんに襲いかかった。

 ゴォオオォォオオォォ……

 4つの属性は混ざり合うようにぶつかり合い、黒ちゃんの頭上で大爆発を起こした。

 ドゴォォォオオオオ!!

 その爆発力は凄まじく、黒ちゃんに制止されたメンバーすらHPを削られるほどだった。

 しかし爆発後の砂埃すなぼこりの中から、黒ちゃんは何事も無かったかのように全回復薬を飲みながら歩いて出てきた。

「魔法使いたちよ。そんな陳腐ちんぷな魔法でこのおれを倒せると思ったのか? 笑わせるな」

 黒ちゃんはそう言い放つと、また走り出して詠唱中の魔法使いに襲い掛かり、剣を一閃いっせんして一瞬で2人を消し飛ばした。

「でやぁぁあああ!」
 ズバッ ズバッ!

「くっ! 強い!」
「うわっ! だめだ!」

 その様子を見ていたアカネに文句を言った魔法使いは、足をガクガクと震わせて恐怖し、口をアワアワとさせた。

 そして辺りをキョロキョロと見回すと、一目散いちもくさんに逃げ出してしまった。

 ゴゴゴゴゴゴ

 するその時、急に空に暗雲が立ち込めて空に巨大な雷の塊が現れた。

 そしてその塊の下で、最高魔法の詠唱を完成させたリーダー格の魔法使いがニヤニヤしながら黒ちゃんに叫んだ。

「はっはっは! これは雷の最高魔法。これを食らって生き残ったプレイヤーはいない! さらばだリーダー! 痛い思いをして後悔するがいい!!」

 パンッ……
 ドガガガガガガガガガン!!

 巨大な雷の塊は閃光せんこうを放ちながら落雷して黒ちゃんを直撃すると、目もくらむようなに大放電を起こした。

 その大放電はどんどんと大きくなり、近くにいた魔法使いも巻き込んでいった。

「ぎゃぁあ!」
「なんで味方を!!」

 魔法使いのうち2人は、巻き添えの感電ダメージで消滅していった。

 シュゥゥゥウゥゥゥ……

 最高魔法の大放電が収まると、地上を焼き尽くした煙が静かに立ちのぼった。

 しかし直撃を受けた黒ちゃんは何事も無かったかのように立ち上がり、ゆっくりと全回復薬を飲んだ。

 その姿に驚いたリーダー格の魔法使いは黒ちゃんに大声で言った。

「なぜ死なない! あの雷はチートレベルの最高魔法だぞ!」

 それを聞いた黒ちゃんはゆっくりと炎をまとわせた両手剣を振りかぶると、リーダー格の魔法使いに力一杯投げつけた。

 ビュン!

「え?」
 ドスッ!

 炎をまとった両手剣は一直線にリーダー格の魔法使いへ飛んでゆき、体を貫いた。

「ぎゃぁぁあああ!」

 リーダー格の魔法使いは慌てふためきながら剣を抜こうとしたが抜けず、火纏ひまといのスリップダーメジがどんどん蓄積ちくせきしていった。

「はぁああ、いやだよぅ! 痛いのはいやだよぅ! はぁぁあああ!」

 シュゥゥウウウ……

 しかし抵抗虚ていこうむなしく、リーダー格の魔法使いは顔を歪ませながら消滅していった。

 残された3人の魔法使いたちは恐怖のあまり、その場で動かなくなった。

 それを見た黒ちゃんはチームのメンバーに言った。

「魔法使いたちは攻撃しないで解放してやれ」

「「はい!」」

 魔法使いたちはそれを聞くとお互いに目を合わせ、全員走って逃げていった。

 黒ちゃんは剣を納めながら振り返ると、残りのチームメンバーに大声で言った。

「帰るぞ!」

「「「はい!」」」

 チームメンバーたちは黒ちゃんの号令ごうれいで次々と転移魔法でTo The Topの家へと帰って行った。

 黒ちゃんは全員が居なくなった事を確認すると、突然ガックリと両手をついて大声で呟いた。

「あぶなかったーー! なんだあの雷魔法! HP残り2だったわ! 全回復薬買っといて良かったーーー!」

 間接的に、おばあさんは黒ちゃんとチームメンバーを救ったのであった。


 その頃、G区画の家ではアカネとめぐが英語の授業を受けていた。

「ですから、人を説明するときはwhoを使って説明します。例えば、An old man who lives with his son. ですね」

「あー、なるほど」
「うんうん」

「関係代名詞の後ろの動詞は、先行詞が三単現の場合はsが付きますから忘れないでくださいね」

「「はーい」」

 おじいさんは横の和室で授業の様子を見ながらお茶を飲んでいた。

 そしてハート型の模様がついた急須を眺めながら呟いた。

「あぁ、今日も楽しいなぁ」

 そしてお茶をすすると、用意してもらった筆を取って墨をつけ、半紙に「感謝」としたためた。


 その頃おばあさんは、女の子たちとカフェでケーキパーティーをしていた。

「洋子ちゃん、今日は本当にありがとね! いっぱい売れたよ」

「いえいえ、お役に立てて嬉しいわ」

 すると、おばあさんの視界に文字が現れた。

『マユさんから5560プクナが送金されました』

 おばあさんは驚いてマユに言った。

「まあまあ、どうしてこんなにお金を?」

「洋子ちゃんがキノコ教えてくれた分だよ」

「あらあら、それではみなさんの分が無いじゃないですか」

「今日は洋子ちゃんの初仕事だったし、普通の回復薬も売れたから大丈夫」

「でも、こんなに頂けないわ。お返ししても良いかしら」

 するとマユたち3人は顔を見合わせ、マユがおばあさんに話した。

「洋子ちゃん、じゃあ残ってる全回復薬が売れたらお店の貯金にしていい?」

「もちろんですよ! 明日も森にキノコをとりに行きましょ。たくさん売ってお店の貯金増やしましょう!」

 その時、恥ずかしがり屋のナミが初めておばあさんに話しかけた。

「洋子ちゃん、ぁりがとぅ」

「ナミさん、ありがたいのは私のほう。楽しい時間を、ありがとうございます」

 ナミはそれを聞くと嬉しそうに笑った。

 おばあさんと女の子たちは、しばらくカフェでお喋りすると、明日また会う約束をしてログアウトしていった。

 ◆

 おばあさんが現実世界に戻ってくると、おじいさんがテーブルで書道の練習をしていた。

「あら、急にどうしたんです?」

「あぁ、明日書道を教えるんだ。ゲームの中で」

「あの若い女の子たちですか?」

「そうなんだ、課題が……あれ? おばあさん何で知ってるんだい?」

「うふふふ」

「そうか。きっと、おばあさんに見られてたんだな。ははは」

 すると、おばあさんは台所へ行って夕飯の支度したくを始めながら尋ねた。

「おじいさん、今日はどこかへ行きましたか?」

「あぁ、メインクエストの1章を終わらせてもらったんだよ。わたしは見てただけだけどね。ははは」

「あら、すごいですね」

「おばあさんは、何かやったかい?」

「わたしはお友達と海へ行って、それから森で薬草やキノコを集めてたんですよ」

「へぇ、そんな事もできるんだなぁ」

「ええ。わたし、あの子たちの力になりたくて。お友達のお店を助けたいんです」

「あぁ、それはいいな」

 すると、おじいさんは書道道具を片付けながら、おばあさんに話した。

「こんなに会話するのなんて、何年ぶりだろうか」

「そうですね。ゲームのおかげですね」

「あぁ、そうだな。ははは」

 おじいさんとおばあさんは一緒に笑顔になった。
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