ライバル宣言返上求む

ななし

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敵→ライバル

第5話 彼女の守りたいもの

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「はぁ!?販売店のエロおやじに口説かれてるだぁ!?」
「ちょっと!」

叫んだ俺の頭を容赦なく理沙子がはたいた。

「声でかい上に、色々デリカシーない男ね。ほんと。」
「いや、お前なんでそんな冷静なんだよ」
「冷静に見える?むかっぱらがたって仕方がないわよ。」

ぐいっとジョッキを煽って、はぁーっと理沙子が深いため息をついた。

「掌なでなでされるだけで気持ち悪いってのに、あの男!露骨に体の関係持ったら、今度の企画口利きしてあげるよって、ふざけてんの……!」

こみ上げてくる怒りを押さえつけられないのか、ぎりぎりと理沙子はこぶしを握り締めて宙を睨んでいる。だが、そこにはどこか悲しみや不安がのぞいていて、それを怒りでごまかしているようにも見える。

「悪い…で、お前どうするつもりなんだよ。」
「とりあえず適当に誤魔化して、今度の企画だけは通してくるつもり。」

予想外の回答に俺は目をむいた。

「馬鹿、お前そんなんあぶねぇだろ。課長に事情話して誰か同行頼めよ。」

理沙子の顔が途端に曇った。

「だって、そしたらまたこれだから女はって顔するじゃない」
「んなこと言ってる場合か。」
「…………」
「お前がそういうつもりならいい。俺が課長に言って、代行する。」

そんなエロ親父のところに、理沙子をいかせられるか。なんとしてでも俺がなんとかしてやる。息まいて立ち上がろうとした俺を、理沙子が強い力で引きとどめた。

「嫌よ!せっかく、ここまでこぎつけたのに!」
「馬鹿かお前は!」

頭に血が上って俺は叫んでいた。

「……っ」

ぐっと理沙子が唇をかんだ。恐らく自分でも無謀だとはわかっているのだ。こいつはそこまで馬鹿な奴じゃない。

「わりぃ……」

少し涙目になった理沙子を見て、一気に頭が冷える。座席に座りなおして、息をつく。

「自分でもバカだって思うわよ、でも」
「頼れよ、こういうときの同期だろ。俺が嫌なら、尾瀬でも誰でもいい。海外営業部の木崎だっていい。だから、一人で抱え込むんじゃねぇよ。」

ほんとは、俺を頼ってほしいけど。

「樹……」

弱弱しくうつむいた理沙子の肩は細く、頼りなく見えた。

―――なんとかしてやりたい。

夜遅くまでこいつがその企画を通すために努力をしてきたことを俺は知っている。だからこそ代行、という形ではなく、違う方法で企画を通してやりたかった。
俺にできることは何かないか。直近の取引先とのやりとりを振り返り、はたと思い至る。

「待てよ、そこの販売店なら俺もなんとかできるかもしれない。」
「え……」
「騙されたと思って、俺に任せてみろよ。」
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