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33話 青春

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 「――それでは、始めっ!」

 
 ユーリの鋭い掛け声と同時に、私とベリタスは動き出した。

 ベリタスは他の子達に比べて体術が上手い。体術バカになったレオよりも、だ。
 彼は空中に飛び上がり、私の頭目掛けて蹴りを繰り出した。動きの流れを見て、私は彼の下へと潜り込んだ。

 
 「っぅぐ……!」

 
 頭上にいるベリタスを蹴り上げれば、彼は咄嗟に腕でそれを受け止め、距離を取る。


 ――今のは当たると思っていたんだけどな。
 私は少しだけ驚いたまま、少し離れた距離に着地したベリタスを見る。彼の顔は相変わらず長い前髪に隠れていて、相変わらずどんな顔をしているのか読み取れない。

 
 ベリタスは体術が上手い。
 それは、ただ単に上手いだけじゃない。センスがずば抜けているのだ。

 今の動きだってそうだ。普通、飛び蹴りなんてすれば、相手は左右によけるなり後退するなりすると予想するはずだ。
 しかし、私はあえて前進……というより、ベリタスの下に潜り込んだ。それを彼は一瞬で見切って自分の身を守るという判断をした。

 ――末恐ろしいな。
 ベリタスは私とは違ってがない。それなのに、こんな動きをするのだ。大人になったらどうなる事やら、と考えると少し鳥肌が立った。


 「? リリア、どうかした?」

 「……なんでもないよ。ベリタスってやっぱりすごいんだなって思っただけ」

 「なにそれ、手を抜いておいて良く言うよ」

 「ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど」
 

 私の返事に呆れた様な声を漏らし、ベリタスは体を構えの姿勢へと戻した。


 「悔しいからさ。リリア、ちょっと本気見せてよ」

 「本気で言ってる?」

 「何? 俺じゃ、リリアの相手にならないって言ってんの?」

 「……なんか今日、妙に好戦的じゃない?」

 「俺も男だからね。ずっと女の子に手を抜いてもらう訳にはいかないでしょ?」


 そう言うとベリタスは、顔の中で唯一見える唇の両端を上げた。

 私はベリタスの提案に少しだけ狼狽し、はぁっと溜息を吐いた。
 ――ベリタスが望むのなら、やってしまおう。
 
 覚悟を決めた私は構えた。向こうにいるベリタスがピクリと体を震わせた。


 「行くよ、ベリタス」

 「ああ。どこからでも来てよ!」


 私の言葉にベリタスの口角が歪んだ。それを見届けて、私は動いた。

 脚全体に魔力を纏わせ、ベリタスとの距離を詰める。……それは一瞬の出来事だった。顔がくっついてしまいそうな程の至近距離の私に、ベリタスは息を飲みながら距離を置こうとする。
 しかし、今の出来事に慌てた様子のベリタスは隙だらけだ。

 
 「っ、ハッァ”……!」


 距離を取ろうとするベリタスの腕を引き、私はその体を背負い投げした。
 ベリタスは受け身を取る事もできずに地面へと叩きつけられ、苦痛に満ちた声を漏らした。

 ベリタスは「あ~」と唸りながら大の字に体を広げた。
 

 「クッソ……っ! リリア、なんでそんなに強いの?」

 「強い師匠がいますから。それより、大丈夫?」


 久々に見るベリタスの子供じみた言動に私は少し笑い、その顔を覗き込んだ。……そして、息を飲んだ。


 「ベ、ベリタス……?」

 「? 何、リリア。人の顔、ジロジロ見て――」

 
 言いかけて、ベリタスはハッとしたような顔をして前髪を整えた。……そう。
 ハッとした彼に釣られ、私も思い出したかのように動き出す。ベリタスに手を差し伸べ、彼が上半身を起こすのを手伝った。

 ――ベリタスの顔って。
 そんな事を思いながら、私は彼を見つめる。前髪で隠れてしまった彼の瞳は、赤かった。私と同じくらい赤くて、そして私以上に美しかった。

 
 「ねぇ、ベリタス」

 「聞きたくない」

 「いや聞いてよ」

 「嫌だ」

 「なんで」

 「……今まで目の事で嫌な事しか言われなかったから。リリアがそういう事言わない女の子だって知ってるはずなのに、何言われるんだろうって思って怖い」


 いつもより低いトーン、いつもより少しだけ震えた声で説明をするベリタスに「……なるほど」と返せば、彼は「なるほどってなんだよ」と少し笑った。
 
 ベリタスはきっと、赤い瞳のせいで色々と嫌な目に遭っていたのだろう。その想像は、私にとっては容易い。


 『見て、黒い髪に赤い瞳よ』
 
 『本っ当、気味悪いわよね』


 昔、アロウと出会う前。忘れかけていた馴染みのある罵倒が脳裏に浮かんで、じくりと胸が痛んだ。――あの村の人達に言われた事、ベリタスも言われてきたのだろうか。

 私は息を吸って、吐き出した。


 「ベリタス」

 「……何」

 「……ベリタスって、性格だけじゃなくて顔もイケメンなんだね」

 「…………は?」

 
 私の言葉に、ベリタスは気の抜けた声を出した。思わず私を見上げた動作で、長い前髪の隙間から赤い瞳がきらりと光る。

 赤い瞳は広い二重幅と長いまつ毛に彩られ、両目の間から伸びる鼻は高く細い。いつも見えている唇は少し薄めで、どのパーツもまるで芸術家が描いたかのように均整が取れている。顔だけじゃなくて体つきもそうだ。ここ数年で彼の体はすっかり男性らしい筋肉質なものになった。

 ――うーん、これはモテるぞ。
 私はじっくりと観察するため、地面に膝をついてその美しい顔を覗き込む。「うっ」という声が聞こえたが、気にしない。


 「ベリタス。ベリタス、めっちゃかっこいいよ」

 「うっ」

 「髪切らない? もっとかっこよくなると思うんだけど」

 「あ、え」

 「いや、見れば見る程、綺麗な顔してるね本当……芸術品みたい」

 「う、あ」

 「……あの、リリア? そこら辺にしておいてあげたら?」

 「え?」


 突然頭上から聞こえた声に顔を上げると、そこにはユーリがいた。その顔はなぜか苦々し気なもので。


 「ベリタス、死にかけてるからさ」

 「……えっ!? ちょ、ベリタス!? どうしたの!?」


 ユーリの言葉にベリタスへ顔を向ければ、その顔は真っ赤になっていた。目なんて焦点が合っていない。
 私はそのガッシリとした両肩を掴み、揺らした。ベリタスからは弱々しい「だいじょうぶ……」という声が聞こえた。


 「ベリタス、ベリタス!」

 「いやぁ、青春だねぇ」

 「あの、ユーリ先生? ベリタス君、早く助けてあげた方が……」

 「あ? ベリタスがどうかしたか?」

 「君達は何も気にしなくて良いの。……いやぁ、青春だねぇ」
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みんなの感想(1件)

mikel0w0l
2024.05.14 mikel0w0l

スキルスキル言ってるけど、どんなスキルがあるのかが全く出てきてないので、気になりますね!
魔法があるんだからいいじゃない!
むしろ魔法が使えるんだからいいじゃない!
はあ、ほんと、辛いですねえ……。


友情も、どうなってしまうのか、ハラハラしてます。
何か洗脳されちゃってる??
また皆で笑えますように……。

解除

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