上 下
30 / 43
アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす

29,ゼノとティファニア

しおりを挟む
「誰だ?」
「……」
少女は何も言わずにゼノを見つめていた。
「ここは立ち入り禁止だ。すぐに立ち去りなさい」
ゼノはそういうが、少女がなぜ何もしゃべらなかったのかを理解した。その顔は怯えきっていたからだ。
「あぁ、すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。大丈夫、私に敵意はないよ。だから安心してほしい。そうだ、飴玉でもあげよう。甘いものは好きかな?」
ゼノはポケットの中からアメを取り出し、少女に差し出した。しかし、少女は首を横に振り。
「あ、あの……。今のは……」
「今の?今のというのはどういう意味だい?」
「今のは『闇の精霊』ですよね?……どうして人間の、それもただの人間でしかないあなたにあれが倒せたんですか?」
「……先ほどのは闇の精霊というのかい?」
ゼノの瞳が怪しく輝く。
「え……?知らないで倒したのですか?」
「あぁ、知らなかった。いや、知ろうともしなかった」
「ど、どうして……?」
「わからない。ただ、本能的に察したんだ。奴は敵だと。そして、面白い存在であると。だから戦った。それだけだよ」
「そ、そんな理由で!?」
少女は信じられないものを見るような目でゼノを見た。ゼノは不思議そうに小首を傾げる。
「理由がなくては戦ってはいけないのかい?……いや、そもそも戦いに理由は必要ないのかもしれないな。戦うことに意味があるのではない。勝った方が正義なんだ」
ゼノの言葉を聞いて少女は絶句した。
この人は何を言っているんだろう?いや、人ではないのだろうけど。それでもこの人の思考回路は理解できない。この人もやはりバケモノだ。
……そして、彼こそが少女の、ティファニアの探していた人物だ。
「君の名前はなんというんだい?」
「……ティ、ティファニアです」
「ティファニア君か。いい名前だ。私の名前はゼノ。よろしく頼むよ、ティファニア君」
「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
なんて言う僥倖だろう。アーシャリアに地球に落とされたかと思ったら、その瞬間に精霊を倒すことができる人間に出会うことができた。これで自分は目的を果たすことが出来る。
「それで、君はここでなにをしていたんだい?」
「あ、はい。実は……」
「なに?君も私と同じなのか?私の場合はオカルトだが」
「え?あ、はい。オカルトというか……わたしの場合は……」
「君は先ほどの存在を闇の精霊と言っていたね。ということは何か知っているのかな?教えてくれないか?」
「えっと……その……」
ゼノに詰め寄られてティファニアは困ってしまった。
自分のことは秘密にしておきたい。なぜなら自分はまだ弱い存在なのだから。これから強くならなくてはならないのだ。そのためには自分の正体を隠しておいた方がいいと考えた。
だから嘘をついた。
「わ、私は精霊界から地球に迷い込んでしまって、その時に闇の精霊に襲われてしまったのです。なんとか逃げることが出来ましたが、その際に記憶を失ってしまったみたいで、自分が何者か、どこから来たのか、なにも思い出せないのです」
「ほう、なにやら面白そうな話だ。その闇の精霊とやらはなんのために君を襲ったんだろうな」
「そ、それはわからなくて……」
ティファニアは焦っていた。思わず闇の精霊に襲われた、なんて言ってしまったが。よく考えてみたら、精霊に襲われるということ自体が異常なことであり、普通ならありえないことだ。それなのに、つい口を滑らせてしまい、それを目の前の男に信じさせてしまう結果になってしまったのだ。
しかも、ゼノの方はティファニアの話を信じてしまっている。それがさらにまずかった。
「ふむ……。ならば、その手伝いをさせてもらってもいいかな?」
「へっ!?」
「私は君のような不思議な力を持った人が好きなんだ。君とはもっと話をしていたいし、君が望むなら君の力になりたいと思っている」
「あ、ありがとうございます!ぜひ、お願いしたいと思います!」
「そうか。それはよかった。ところで、君が今いる場所は安全かね?さっきのやつらがまた襲ってくることはないか?」
「あ……。それは、その……」
ゼノの言葉にティファニアは詰まる。地球ではティファニアは力を使うことができない。だからただの少女でしかないし、泊まる場所もないのだ。
「ふむ。どうやらあまり安全な状況ではなさそうだな。だが、私に任せてくれたまえ。私が君を守ってあげよう」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。もちろんだ。なに、心配する必要はない。私は強いからな」
自信満々なゼノを見て、ティファニアは安堵のため息を吐く。そして同時に確信した。
この人は、きっと悪い人じゃない。そして自分を裏切ったりしないはずだと。
「……っと、もうこんな時間だな」
ゼノは時間を確認する。今の時間は午前十一時だ。
「あの……。なにか用事があるんですか?」
「ああ。私はカジノで仕事をしているんだ」
「か、カジノ!?」
「そうだよ。ギャンブルだ」
「そ、そんなところに行っちゃだめですよ!」
「ん?どうしてだい?」
「だって、危ないですから……」
「大丈夫だよ。私は強いからな」
「でも、やっぱり……」
心配するティファニアの頭をゼノが優しく撫でる。
「ふぇっ!?」
「そんなに心配してくれるのかい?君は優しい子だね」
「あっ……。うぅ……」
顔を真っ赤にしながら俯くティファニア。そんな様子を見てゼノは微笑んでいた。
「心配しなくてもいいさ。私は暗殺者集団『ハウンド』の隊長をしていてね。まあ、今のボスが親から組織を受け継いだ右も左もわかっていない若造で、私はその補佐をしているから実質私が組織のボスみたいなものだがね。今働いているのはその組織が運営しているカジノだ。私はそこで働いているんだよ」
「えっ?暗殺者組織?それにボスって……!?」
ゼノの言葉にティファニアは驚く。
「どうしたんだい?」
「あ、いえ……。なんでもありません」
「そうか?ならいいが……。そうだな、ティファニア君をこんな場所に残していくのも問題がありそうだな」
ゼノはあたりを見渡した。この辺りはスラム街地区であり、ゼノはそこに身を隠していた男を殺すために来たのだ。もしもこのままティファニアを残していけば、そこら辺から視線を向けてきている男たちに攫われてしまう可能性もある。
第一、せっかく出会えた精霊なんて言うオカルトな存在について知ることのできる人間を失うのは惜しいと考えていた。
「仕方がない。私と一緒にカジノに行こうか?」
「え?でも……お仕事は……」
「大丈夫だよ。私には優秀な部下がいるからね。少しくらいサボっても問題はないだろう」
そう言ってゼノは歩き出す。その後ろ姿を見て、ティファニアは慌てて追いかけた。
「あの、どこにいくのですか?」
「私の職場だよ」
そう言ってゼノは微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~

榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。 彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。 それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。 その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。 そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。 ――それから100年。 遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。 そして彼はエデンへと帰還した。 「さあ、帰ろう」 だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。 それでも彼は満足していた。 何故なら、コーガス家を守れたからだ。 そう思っていたのだが…… 「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」 これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...