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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす

11,ナナシという男〈前編〉

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「ちょっといいかな?」
ハクタケが挙手をしながらナナシに話しかけると、ナナシは不思議そうな表情を浮かべる。
「どうかしたのかい?坊や」
「いや、さっきからずっと気になってたことがあるんだよね」
「ほう?言ってごらん」
「今のゲームが終わってテーブルを見たんだけど……全員のチップが最初と変わってないように思えるんだよ」
ハクタケの発言を聞いてナナシ以外の全員が驚くと同時に警戒する。確かにテーブルの上のチップは最初に全員に配られた枚数と同じだった。
(まさか、俺たちの目を欺きながら全てのゲームをノーリスクで終わらせたとでもいうのか?)
カロンは冷や汗を流しながらナナシのことを観察する。
(いや、流石にそれは不可能か。だとしたら、こいつはどうやって――)
「ふふっ、なかなか面白いことを言うじゃないか」
ナナシは余裕の笑みで全員を見渡す。そして――
「それじゃあ、答え合わせといこうかね」
「……少し待ってくれ」
ナナシが宣言した瞬間、ゼノはナナシの前に立ち塞がり、ナナシに質問をする。
「ナナシと言ったな。貴様は先ほどからイカサマをしていると言っていたが、その方法がわかったかもしれない」
ゼノの発言に一同は驚きの表情を見せる。
「本当か!?ゼノ!」
ゴルディは目を輝かせてゼノに尋ねるが、ゼノは首を横に振る。
「まだ確証はないが、おそらく間違いないと思う」
「へぇ……。じゃあ、聞かせてもらおうかね」
ナナシは不敵な笑みを浮かべるとゼノに説明を求める。
「……だが、こんなことはありえないはずだ。もし、これが事実ならば、君の才能は常軌を逸していることになる」
「いいから早く話してくれないかねぇ?」
ナナシが苛立った声で急かすと、ゼノはゆっくりと口を開く。
「……君は最初にシャッフルをした際にすべてのカードを君の決めた通りの順番に並べたんじゃないか?その後は捨てる手札の枚数を調整させ、最後に出来上がる役を操作すればイカサマの完成というわけだ」
ゼノが推理を披露すると、ナナシは拍手をする。
「素晴らしい!正解だよ!いやぁ、よく気づいたね」
「ええっ!?いや、そんなの不可能だろ?」
ゴルディは信じられないといった表情で否定する。
「そう言われてもねぇ……。なら、実際に見せたほうが早いかな」
ナナシはテーブルの上に表にしてカードを並べて全員に見せる。その順番はバラバラでなんの規則性も見られなかった。
「この並び方にも秘密があるのか!?」
「いや。そんなものはないよ。ただカードの順番がバラバラだということを見せたかっただけだ」
「はあ?どういう意味なんだ?さっぱりわかんねえぞ」
ゴルディは困惑した表情で呟く。
「これが私の手にかかるとだね」
ナナシはカードをシャッフルする。全員がその挙動に注目するが、その動きにはなんの違和感もなかった。
そして再びナナシは表にしてカードを並べて見せる。最初にハートのA~Kと並び、次にスペードのA~Kが。その次にはダイヤのA~Kが並び、最後にはクローバーのA~Kが並んだ。
「なんだよこれ……。どういうことだ?」
「これは……」
ゴルディは混乱しており、クロエは何かに気がつき始めているようだったが、カロンは未だに理解していなかった。ハクタケとゼノも同じようで頭を抱えている。そんな中――
「なるほど……。そういうことか……」
唯一カロンだけが納得していた。他の四人はカロンのことがわからないらしく、カロンに視線を集める。
「おい、カロン。お前はわかったみたいだけど、俺にはさっぱりだぜ」
「だから、ナナシはカードをシャッフルする時に自分が好きな順番で並べることができるってことだ!」
自信満々にカロンが言い放つ。その姿にクロエはため息をつく。
「はぁ……、あんた本当にわかってるの?ナナシはカードをシャッフルする際に必ず自分の指定した通りに並べているってことでしょ?つまり、ナナシはカードの位置を記憶できるってことじゃない」
「まあ、その通りだよ。これでわかっただろう?私がどんなイカサマをしたのかが」
ナナシは笑顔のまま全員の顔を見る。
「……加えて言うなら、ナナシはそんなことをしていたうえで全員がかけるチップの枚数までコントロールしてたってことだよね。……もう、絶対勝てないじゃん」
「……ああ、そうだな」
ハクタケの言葉にゴルディも同意すると、ナナシは笑顔で答える。
「安心しなよ。私はそこまで計算高くないからねぇ。今回は運が良かっただけさね」
ナナシはそう言い残すと席を立つ。
「さあ、そろそろお開きの時間だ。今日は楽しかったよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
ナナシが部屋から出て行こうとすると、クロエが慌てて呼び止める。
「どうしたんだい?お嬢ちゃん?」
「このまま帰すつもりなんてないわよ!」
「……ほう?」
ナナシは興味深そうに振り返り、クロエのことを見つめる。
「おやおや、お嬢さんは随分とお転婆みたいだねぇ」
「ふん!私だっていつまでも子供じゃないのよ!今度こそあなたに勝つんだから!」
クロエはそう言い放つとナナシは笑い出す。
「あっはっはっは!!いやいや、実に愉快だ。……いいよ、その勝負受けてあげよう」
「言ったわね?絶対に後悔させてやるんだから!」
「ふふふ……。楽しみにしているよ」
「ナナシ。もしもあたしが負けたら何でも言うことを聞いてあげるわ。その代わりあたしが勝ったらあんたが何者なのか教えなさい!」
クロエの提案にカロンたちは驚くと同時に不安そうな表情を浮かべる。だが――
「いいとも。約束しよう」
(……あの爺さんは何を考えてるんだ?)
カロンはその言葉を聞くとナナシを睨みつける。だが――
「さて、それでは始めようか」
ナナシは余裕の笑みを浮かべながら全員を見渡すのであった。
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