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「初心だよねえ、雄介も。がばっ、といけばいいのに」
そんな雄介の姿を見ながら、正志は呆れたように呟いた。
「まあ、いいんじゃない?それが二人のペースなんだから」
千里は微笑ましいものを見守るような表情を浮かべていた。
「そうだよね。……って、千早!?いつからそこに!?」
「失礼ね!彰久と一緒に駆けつけたわよ!」
千里は不満そうに頬を膨らませた。
「ご、ごめんごめん!周りが見えてなかったからさ」
「まあいいわよ。許してあげる」
正志が謝ると、千里はすぐに笑顔になった。正志は千里が妙にごきげんなことに気がついた。
(もしかして彰久となにかあったのかな?)
花火大会で二人きりだったのだ。ムードに流されて、何か進展があったのかもしれない。
「ね、ねえ千里。もしかして彰久となにかあったの?」
正志が恐る恐る尋ねると、千里は嬉しそうに自分の左手の薬指を見せつけてくる。そこにはシンプルなデザインではあるが、いかにも高級そうな指輪がはめられていた。
「そ、それってもしかして……」
「そう!実は彰久にプロポーズされたの!」
満面の笑みで言う千里に対して、彰久は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めて言った。
「あまり大声で言わないでくれ……恥ずかしいじゃないか」
そういう彰久もまんざらでもない様子で、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいだった。
(おめでとう、彰久)
そんな親友の姿を見て、正志は心の中で祝福の言葉を送った。そして改めて千里に向かって言う。
「本当におめでとう!幸せになってね!」
その言葉に、千里はもちろん、彰久も力強く頷いてくれたのだった。
「えっ!?彰久結婚するのか!?」
「おめでとう、千里!」
騒ぎを聞きつけたのか、雄介と小百合も近づいてきた。
「ありがとう、二人とも!」
千里は幸せそうに微笑むと、彰久と見つめ合う。そんな二人を見ていると、こっちまで幸せな気分になってくる正志であった。
「ねえ、千里。もしかして彰久君のお家を継ごうとしているの?」
小百合が尋ねると、千里は少し考えた後頷いた。
「まだ彰吾さんたちには言ってないんだけどね。でも、継がせてもらえたら嬉しいなあって思ってる」
「そっか……じゃあ、私は応援するね!」
小百合の言葉に、千里は嬉しそうに笑う。その一方で、雄介は不満そうな顔をしていた。
「なんだよ……彰久のやつ、いつの間にか大人になりやがって……」
そんな様子を見て、正志たちは笑った。「まさか彰久、千里ちゃんをお店に繋ぎ止めておくために結婚しよう、なんて考えてないよね?」
「そうだよな。店を継ぐか継がないかで悩んでたみたいだし、そんな理由で結婚はしねえよな?」
正志と雄介の言葉に彰久は、
「そんなわけないだろ!俺は純粋に千里のことが好きだから。千里と一緒に人生を歩みたいって思ったんだ!」
と、言い切った。どうやら彰久は本気で言っているようだ。それを聞いて、千里は恥ずかしそうに俯いてしまったが、その顔はとても嬉しそうだった。
「そっか……まあ、それならいいんじゃないかな」
正志の言葉に同意するように、雄介と小百合も首を縦に振ったのだった。
(まあ、二人の様子を見てたらいずれは、って感じなんだろうな)
正志は一人、そんなことを思っていた。
その時だった。夜空に大輪の花が咲く。グランドフィナーレを飾る、今まであがっていたものよりも一際大きな花火だ。まるでこれから先の人生を祝福しているかのように、いつまでも輝き続けている。
「わあ、綺麗……」
「ほんと、すげえな」
花火を見上げる小百合と雄介の顔にも感動の色が浮かんでいた。
「私、今年の夏は忘れられない思い出になりそう」
「ああ、俺もだ」
雄介のあたたかさを隣に感じながら、小百合は花火から視線を外すことができなかった。それほどまでに、今年の夏は色々なことが起きすぎた。雄介に想いを告げられ、彰久と千里の婚約を見届け、こうして花火を見ている。
だからこそ、この夏が終わってしまうことが悲しくて。
(……引っ越したくないな)
小百合はふと、そんなことを思った。しかし、それは叶わぬ願いであるだろう。なぜなら自分はもうすぐこの町を離れることになるのだから。
小百合が寂しげな表情を浮かべていることに雄介が気づいたのは、花火が終わりに近づいた時だった。
「小百合、そんな顔するなよ!大学生になったらまた戻ってくるんだろ?そしたらさ、またみんなで花火大会に来ようぜ!」
雄介は明るく言うと、小百合の頭を優しく撫でた。その温かさに、小百合の心は少しだけ安らいだ気がした。
「雄介、ちゃんとデートにいくのも忘れないようにね!」
正志もからかい混じりに言うが、雄介は余裕そうに笑って答えた。
「わかってるよ」
そのやり取りを見ていた千里は、嬉しそうに微笑むと、そっと小百合の手を握った。
「あたしと彰久はずっとこの街にいるから、いつでも相談にのるからね」
「うん、ありがとう……」
そう言いながらも、小百合の表情はやはりどこか寂しげであった。そんな小百合の手をさらに強く握りしめながら、千里は心の中で誓う。
(あたしはいつまでもあなたの味方だからね)
夜空に咲く、大輪の花。それはまるで、夏の終わりを告げるかのように。
そんな雄介の姿を見ながら、正志は呆れたように呟いた。
「まあ、いいんじゃない?それが二人のペースなんだから」
千里は微笑ましいものを見守るような表情を浮かべていた。
「そうだよね。……って、千早!?いつからそこに!?」
「失礼ね!彰久と一緒に駆けつけたわよ!」
千里は不満そうに頬を膨らませた。
「ご、ごめんごめん!周りが見えてなかったからさ」
「まあいいわよ。許してあげる」
正志が謝ると、千里はすぐに笑顔になった。正志は千里が妙にごきげんなことに気がついた。
(もしかして彰久となにかあったのかな?)
花火大会で二人きりだったのだ。ムードに流されて、何か進展があったのかもしれない。
「ね、ねえ千里。もしかして彰久となにかあったの?」
正志が恐る恐る尋ねると、千里は嬉しそうに自分の左手の薬指を見せつけてくる。そこにはシンプルなデザインではあるが、いかにも高級そうな指輪がはめられていた。
「そ、それってもしかして……」
「そう!実は彰久にプロポーズされたの!」
満面の笑みで言う千里に対して、彰久は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めて言った。
「あまり大声で言わないでくれ……恥ずかしいじゃないか」
そういう彰久もまんざらでもない様子で、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいだった。
(おめでとう、彰久)
そんな親友の姿を見て、正志は心の中で祝福の言葉を送った。そして改めて千里に向かって言う。
「本当におめでとう!幸せになってね!」
その言葉に、千里はもちろん、彰久も力強く頷いてくれたのだった。
「えっ!?彰久結婚するのか!?」
「おめでとう、千里!」
騒ぎを聞きつけたのか、雄介と小百合も近づいてきた。
「ありがとう、二人とも!」
千里は幸せそうに微笑むと、彰久と見つめ合う。そんな二人を見ていると、こっちまで幸せな気分になってくる正志であった。
「ねえ、千里。もしかして彰久君のお家を継ごうとしているの?」
小百合が尋ねると、千里は少し考えた後頷いた。
「まだ彰吾さんたちには言ってないんだけどね。でも、継がせてもらえたら嬉しいなあって思ってる」
「そっか……じゃあ、私は応援するね!」
小百合の言葉に、千里は嬉しそうに笑う。その一方で、雄介は不満そうな顔をしていた。
「なんだよ……彰久のやつ、いつの間にか大人になりやがって……」
そんな様子を見て、正志たちは笑った。「まさか彰久、千里ちゃんをお店に繋ぎ止めておくために結婚しよう、なんて考えてないよね?」
「そうだよな。店を継ぐか継がないかで悩んでたみたいだし、そんな理由で結婚はしねえよな?」
正志と雄介の言葉に彰久は、
「そんなわけないだろ!俺は純粋に千里のことが好きだから。千里と一緒に人生を歩みたいって思ったんだ!」
と、言い切った。どうやら彰久は本気で言っているようだ。それを聞いて、千里は恥ずかしそうに俯いてしまったが、その顔はとても嬉しそうだった。
「そっか……まあ、それならいいんじゃないかな」
正志の言葉に同意するように、雄介と小百合も首を縦に振ったのだった。
(まあ、二人の様子を見てたらいずれは、って感じなんだろうな)
正志は一人、そんなことを思っていた。
その時だった。夜空に大輪の花が咲く。グランドフィナーレを飾る、今まであがっていたものよりも一際大きな花火だ。まるでこれから先の人生を祝福しているかのように、いつまでも輝き続けている。
「わあ、綺麗……」
「ほんと、すげえな」
花火を見上げる小百合と雄介の顔にも感動の色が浮かんでいた。
「私、今年の夏は忘れられない思い出になりそう」
「ああ、俺もだ」
雄介のあたたかさを隣に感じながら、小百合は花火から視線を外すことができなかった。それほどまでに、今年の夏は色々なことが起きすぎた。雄介に想いを告げられ、彰久と千里の婚約を見届け、こうして花火を見ている。
だからこそ、この夏が終わってしまうことが悲しくて。
(……引っ越したくないな)
小百合はふと、そんなことを思った。しかし、それは叶わぬ願いであるだろう。なぜなら自分はもうすぐこの町を離れることになるのだから。
小百合が寂しげな表情を浮かべていることに雄介が気づいたのは、花火が終わりに近づいた時だった。
「小百合、そんな顔するなよ!大学生になったらまた戻ってくるんだろ?そしたらさ、またみんなで花火大会に来ようぜ!」
雄介は明るく言うと、小百合の頭を優しく撫でた。その温かさに、小百合の心は少しだけ安らいだ気がした。
「雄介、ちゃんとデートにいくのも忘れないようにね!」
正志もからかい混じりに言うが、雄介は余裕そうに笑って答えた。
「わかってるよ」
そのやり取りを見ていた千里は、嬉しそうに微笑むと、そっと小百合の手を握った。
「あたしと彰久はずっとこの街にいるから、いつでも相談にのるからね」
「うん、ありがとう……」
そう言いながらも、小百合の表情はやはりどこか寂しげであった。そんな小百合の手をさらに強く握りしめながら、千里は心の中で誓う。
(あたしはいつまでもあなたの味方だからね)
夜空に咲く、大輪の花。それはまるで、夏の終わりを告げるかのように。
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