夏の終わりに

佐城竜信

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少し前にさかのぼって、千里からの電話を切った小百合は雄介に振り返った。
「千里は何て?」
「うーん……。たぶん私と雄介君を二人きりにするために、気を遣ってくれたんだと思う」
「そっか。じゃあ小百合、せっかくだから二人で花火を見ようぜ!」
雄介が笑顔でそう言うと、小百合も笑顔を浮かべて頷いた。
「そうだね!でも……せっかくだから、人が少ないところで見たいな」
「えっ?あっ……」
そこでようやく雄介は自分が何を言ったのか理解したようだった。そして顔を赤くしながら頭を掻いている様子を見て、小百合はクスクスと笑った。
「別に雄介君となら、どこだっていいんだけどね?」
小百合がそう言うと、雄介はさらに顔を赤くしながら慌てていた。その様子を微笑みながら見ていた小百合は、急に真面目な顔になると彼に話しかけたのだった。
「……ねえ、雄介君」
「ん?どうした?」
雄介がそう聞き返すと、小百合は恥ずかしそうに頬を赤らめながら口を開いた。
「あの……さ。その……」
そこまで言って、彼女は言葉を詰まらせてしまう。そしてしばらく躊躇ったあと、ようやく続きを口にした。
「手を、繋いでくれませんか……?」
そんな予想外のお願いに、雄介は驚き目を見開いた。しかしすぐに嬉しそうに笑うと小百合に手を差し出す。
「うん……。繋ごっか」
「……!うんっ!」
小百合は満面の笑みを浮かべながら、彼の手を握り締めたのだった……。
「そういえばこの近くに神社があったよな。小さいところだけど。もしかしたらそこだったら人がいないかもしれないから、行ってみようぜ」
「そうだね!行ってみよう!」
雄介の提案に、小百合は笑顔で答えるのであった。
空に割く花火を見ながら、見物客の後ろを通って神社へと向かう。小百合と繋いだ手に、雄介は幸せを感じていた。
「花火綺麗だね!」
「ああ、そうだな」
そんな会話をしながら、二人はゆっくりと足を進める。そして少し経つと、ようやく神社にたどり着いた。案の定そこには誰もおらず、二人は安堵して腰を下ろしたのだった。
「ここならゆっくり見れそうだね……」
小百合がそう言うので、雄介は頷いた。そして空を見上げると、一際大きな花火が上がったところだった。
「わあっ!今のすごかったね!」
小百合が興奮したように声をあげる。そんな彼女の横顔を見ながら、雄介は口を開いた。
「そういえばさ……俺、小百合と初めて会った時のこと覚えてるよ」
「えっ?本当?」
小百合は驚いてそう聞き返した。雄介は苦笑しながら答える。
「ああ、本当だよ。……確か俺が高校に入学してすぐだったよな」
「うん。そうだね。高校に入ってすぐに千里と仲良くなって」
「そうそう。俺もすぐに彰久と仲良くなって、あの二人が縁で俺たちも仲良くなったんだよな。本当に懐かしいよ」
雄介はしみじみとした調子でそう言ったあと、小百合の方に顔を向けたのだった。花火に照らされる小百合の横顔は、とても美しかった。
「俺さ、高校一年の春から今までずっと小百合のことが好きだったよ」
雄介がそう言うと、小百合は驚いた表情になったあと、頬を赤らめて嬉しそうに微笑んだ。そして彼女も静かに口を開くのだった。
「……実は私もね、雄介君のことが好きだったんだ。でも、ずっと言えなかった」
「そっか……。じゃあ俺たち、似たもの同士で遠回りしてたのかもなあ……」
そう言って雄介は笑ったが、すぐに真剣な表情になると小百合を見つめ返したのだった。彼女もまた、そんな雄介と視線を交わして静かに微笑むのであった。
「……ねえ、雄介君」「あのさ……」
二人が同時に口を開く。お互いに譲り合ってしまい、結局二人で笑い出す。そして二人は見つめ合うと、どちらからともなく顔を近づけていき、やがて唇が重なり――
その時だった。
「おうおう、お二人さん。お熱いねえ!」
「ひゃあっ!?」
「うわっ!?」
そんな声が、突然二人の耳に飛び込んできた。二人は慌てて顔を離すと、声のした方向を見つめる。するとそこにはニヤニヤした顔でこちらに向かってくる二人の男性の姿があった。二人は髪を金色に染めており、いかにもな不良といった見た目をしている。
「な、なんだよあんたら!」
雄介がそう言うと、男たちは笑いながら答えた。
「いやあーごめんごめん!二人があんまりにも初々しいもんだからさあ、つい見入っちゃって」
そんなことを言いながら、二人は小百合の横に腰を下ろした。そしてそのまま彼女の肩に手を回すと、耳元で囁くように言う。
「でも、彼氏より俺らと遊ぼうぜー?」
「そうそう、そんな冴えないやつほっといてさ」
そう言って二人はゲラゲラと笑った。小百合は不快そうな表情を浮かべて、その手を振り払う。
「ちょっと、気安く触らないでよ」
しかし男たちは変わらずニヤニヤしながら続ける。
「えーいいじゃん別にぃ」
そう言いながら、今度は小百合の太ももに手を伸ばす。その瞬間、彼女は嫌悪感を露わにして叫んだ。
「やめてって言ってるでしょ!!」
そう言って男たちの手を払いのけると、キッと睨みつけた。しかし男たちは怯むどころか、逆に楽しんでいるようであった。
「へえ……強気じゃん」
「いいね、そういう子好きだぜ」
そう言って彼らは再び小百合に手を伸ばすと、今度は強引に抱き寄せようとする。それを見た雄介は慌てて立ち上がったが、遅かったようだ。
「きゃっ!?」
小百合が悲鳴を上げると同時に、彼女が男の一人に押し倒されてしまった。そしてもう一人の男が、すかさず彼女の上に馬乗りになる。
「ちょっ、何すんのよ!離してっ!!」
小百合が抵抗するように手足をばたつかせるが、男はビクともしない。それどころか逆に彼女の両手を片手で掴むと頭の上で押さえつけてしまった。
「おい、離せよ!」「うるせえな」
雄介が叫ぶように言うと、もう一人の男が彼の腹を思い切り殴りつけた。
「うっ……」
痛みでその場に蹲ってしまうと、小百合の上に馬乗りになっている男がニヤニヤしながら口を開いた。
「お前さあ……この女の彼氏?なわけないか!」
そう言って笑い出す男たちに、雄介は怒りが込み上げてくるのを感じた。そしてなんとか立ち上がろうとするが、力が入らない。
「まあ、大人しく見てな」
そう言って男は小百合の方に視線を向ける。彼女の顔は恐怖と嫌悪感が入り混じったような表情をしており、目には涙が浮かんでいた。
「ほら、こっち向けよ」
そう言って男が小百合の顎を掴むと、強引に自分の方へと顔を向けさせた――
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