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花火を見つめる彰久の横顔は、とても綺麗だった。普段はあまり見られない真剣な表情。その横顔に、千里は思わず見惚れてしまう。
「なあ」「ねえ」
二人の声が重なる。お互いに目を合わせると、笑いあった。
「ごめん、先いいよ」
彰久がそう言うので、千里は先に発言することにした。
「あのさ……その……」
(どうしよう……なんて言おう?)
自分から誘っておいて、いざとなったら恥ずかしくなってしまう自分に嫌気がさす。そんな千里の様子を、彰久は何も言わずに待ってくれていた。
「……花火大会、一緒に行ってくれてありがとね!」
千里がなんとかそれだけ言うと、彰久は一瞬ぽかんとしていたが。すぐに笑顔になると、優しく言葉を返してくれた。
「こっちこそな!……なあ、千里。その……」
彰久はそこで言い淀むと、恥ずかしそうに頭をかきながら言葉を続けた。
「千里に渡したいものがあるんだ」
「え?なに?」
千里がそう尋ねると、彰久は自分のバッグの中から小さな小箱のようなものを取り出した。その箱の中には……綺麗な指輪が入っていた。
「……えっ!?」
予想外の展開に、千里は驚きの声を上げてしまう。そんな反応を見てか、なぜか彰久も恥ずかしそうにしていた。
「あのさ、千里……。千里が俺の実家の酒屋を継いでくれるって言ってくれた時、マジで嬉しかったんだ。だから、その……俺もちゃんとけじめをつけるべきだと思ったんだ」
そう言って、彰久は片膝をついて千里を見上げる姿勢を取った。そしてゆっくりと話し始める。
「俺さ、今まで誰かと付き合ったこともないし、正直、恋愛ってなんなのかよくわからなかったんだよ。でもな……」
そこで言葉を区切ると、彰久は千里の目をしっかりと見つめながら言った。
「千里のこと、好きになってたみたいだ。だから……俺と結婚を前提に付き合ってほしい」
突然のプロポーズに、千里は頭が真っ白になっていた。状況を理解するのに数秒かかり、そしてようやく理解できた時には嬉しさが込み上げてきて、思わず涙を流してしまった。
「ごめん、泣くほど嫌だったか……?」
そんな彰久の言葉に、千里は慌てて首を振った。
「ち、違うよ!これは嬉し涙だから!」
千里の言葉を聞いて、彰久はホッとした表情を浮かべる。そして立ち上がり、千里の手を取った。
「それなら良かった……。それで返事の方は……?」
そう聞かれると、答えを急かしているようにも聞こえるかもしれないだろうが……彼は真剣な瞳でこちらを見つめながら、答えを待っているように見える。
(そんなの、決まってるよ)
千里は小さく深呼吸してから、口を開いた。
「喜んで」
そう言うと、今度は彰久が泣き出してしまった。そんな姿を見て、千里は微笑みながら彼の背中に手を回し、そっと抱きしめたのだった。
「ねえ、彰久。どうして彰久はあたしを選んでくれたの?」
彰久に抱きしめてもらいながら、千里はそんなことを尋ねた。すると彼は少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「正直さ……自分でもよくわからないんだよ」
そう答える彰久の顔は、困ったような笑顔だった。
「ただ……きっと千里が俺以外の男に笑顔を見せてたら、嫉妬してたんだろうなって思うんだ。真理姉が婚約した時は何も思わなかったけどさ、でも……。もしも千里が誰か他の人を好きになったとしたら、俺はきっと今の関係のままじゃ、満足できない気がする」
そこで言葉を区切ると、彰久は千里の髪を撫でた。
「ごめんな。もし俺のことが嫌なら……」
「ううん!嬉しいよ……。ありがとう、彰久」
そう言って千里は微笑み返すと、彰久も優しく微笑み返してくれた。
「……正直ね、彰久があたしと同じ高校二はいってくれるってなった時、すごく嫌だったの」
「えっ!?そうなのか?」
彰久が驚いたように声を上げる。千里はそんな彰久の胸に、頭をぐりぐりと押し付けながら言った。
「当たり前じゃん!だって、彰久はあたしなんかと違って頭もいいしスポーツだってできるし。それに、顔もかっこいいし……」
そこまで言ったところで、急に恥ずかしくなってしまった。彰久の顔を見ることができないまま、千里は話を続ける。
「なんか……あたしが足を引っ張ってる気がしてさ。あたしがいなかったら彰久はもっと自由にできるのに、あたしのつまらないわがままで彰久を縛ってるような気がして。なんだか申し訳なかったんだよ……」
そこまで言ったところで、急に千里は腕を引っ張られて抱き締められた。千里は思わず目を見開きながら彼のことを見つめると、そこには……とても真剣な表情を浮かべた彼の顔があった。
「千里のせいじゃないさ」
彼はきっぱりと言い切った。
「俺がこの学校に来たのは、千里と同じ高校に行きたいっていう自分の意志だ。それに……俺は自分が自由に生きてると思ってるぞ?だってこれだけやりたいことをやらせてもらってるのに、誰からも文句も言われてないしな!」
そう言って彼は笑った。その笑顔を見ると、千里までつられて笑ってしまった。
「そっか……そうだよね!あははっ」
ひとしきり笑い合ってから。
「でも、彰久と婚約かぁ……。まだ実感が湧かないなぁ……」
千里がそうぽつりと呟くと、彰久は苦笑しながら答えた。
「まあ……婚約って言っても、まだ法律上は他人同士だしな」
「そうだよね!でも、なんか嬉しいかも……」
そう言って千里は笑うのだった。
そんな時、突然大きな音とともに空に花火が上がった。
「わあ、綺麗!……ねえ、来年もまた一緒に花火を見ようよ」
「ああ……。もちろんだよ、千里」
今度は彰久が、千里の頭をぽんぽんと撫でるのであった。そして二人はそのまま顔を近づけていき、徐々に距離が近づいていくにつれて自然と目を閉じていくのだった。
(やば……!どうしよう!)
花火の音と歓声によって、周りの人々は誰も千里たちのことを気にしていないように見えるが……それでもやはり人前でキスするのは抵抗がある。
そんなことを考えているうちに、あと数センチで唇が触れ合うというところで。スマホから着信音が鳴り響いた。
「きゃっ!?」「うわっ!?」
二人の驚きの声が重なると同時に、思わずお互いに顔を背けてしまう。そしてスマホを確認すると、正志からの着信だった。
「もしもし?どうした?」
千里がそう聞くと、正志は慌てた様子で言ってきた。
『助けて彰久っ!雄介と小百合ちゃんが不良に絡まれてるっ!』
「なんだって!?」
彰久は驚きの声を上げると、すぐに走り出そうとした。しかし千里がそれを引き留める。
「待って彰久!あたしも行くから!」
『え?でも……』
「あたしだって二人の友達だよ!大丈夫、彰久の邪魔はしないから!」
千里の真剣な言葉に、彰久は渋々頷いた。
「わかった、千里を信じるよ」
その言葉に、千里は力強く頷いた。そして二人は人混みの中をかき分けるようにして歩き始めたのだった。
「なあ」「ねえ」
二人の声が重なる。お互いに目を合わせると、笑いあった。
「ごめん、先いいよ」
彰久がそう言うので、千里は先に発言することにした。
「あのさ……その……」
(どうしよう……なんて言おう?)
自分から誘っておいて、いざとなったら恥ずかしくなってしまう自分に嫌気がさす。そんな千里の様子を、彰久は何も言わずに待ってくれていた。
「……花火大会、一緒に行ってくれてありがとね!」
千里がなんとかそれだけ言うと、彰久は一瞬ぽかんとしていたが。すぐに笑顔になると、優しく言葉を返してくれた。
「こっちこそな!……なあ、千里。その……」
彰久はそこで言い淀むと、恥ずかしそうに頭をかきながら言葉を続けた。
「千里に渡したいものがあるんだ」
「え?なに?」
千里がそう尋ねると、彰久は自分のバッグの中から小さな小箱のようなものを取り出した。その箱の中には……綺麗な指輪が入っていた。
「……えっ!?」
予想外の展開に、千里は驚きの声を上げてしまう。そんな反応を見てか、なぜか彰久も恥ずかしそうにしていた。
「あのさ、千里……。千里が俺の実家の酒屋を継いでくれるって言ってくれた時、マジで嬉しかったんだ。だから、その……俺もちゃんとけじめをつけるべきだと思ったんだ」
そう言って、彰久は片膝をついて千里を見上げる姿勢を取った。そしてゆっくりと話し始める。
「俺さ、今まで誰かと付き合ったこともないし、正直、恋愛ってなんなのかよくわからなかったんだよ。でもな……」
そこで言葉を区切ると、彰久は千里の目をしっかりと見つめながら言った。
「千里のこと、好きになってたみたいだ。だから……俺と結婚を前提に付き合ってほしい」
突然のプロポーズに、千里は頭が真っ白になっていた。状況を理解するのに数秒かかり、そしてようやく理解できた時には嬉しさが込み上げてきて、思わず涙を流してしまった。
「ごめん、泣くほど嫌だったか……?」
そんな彰久の言葉に、千里は慌てて首を振った。
「ち、違うよ!これは嬉し涙だから!」
千里の言葉を聞いて、彰久はホッとした表情を浮かべる。そして立ち上がり、千里の手を取った。
「それなら良かった……。それで返事の方は……?」
そう聞かれると、答えを急かしているようにも聞こえるかもしれないだろうが……彼は真剣な瞳でこちらを見つめながら、答えを待っているように見える。
(そんなの、決まってるよ)
千里は小さく深呼吸してから、口を開いた。
「喜んで」
そう言うと、今度は彰久が泣き出してしまった。そんな姿を見て、千里は微笑みながら彼の背中に手を回し、そっと抱きしめたのだった。
「ねえ、彰久。どうして彰久はあたしを選んでくれたの?」
彰久に抱きしめてもらいながら、千里はそんなことを尋ねた。すると彼は少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「正直さ……自分でもよくわからないんだよ」
そう答える彰久の顔は、困ったような笑顔だった。
「ただ……きっと千里が俺以外の男に笑顔を見せてたら、嫉妬してたんだろうなって思うんだ。真理姉が婚約した時は何も思わなかったけどさ、でも……。もしも千里が誰か他の人を好きになったとしたら、俺はきっと今の関係のままじゃ、満足できない気がする」
そこで言葉を区切ると、彰久は千里の髪を撫でた。
「ごめんな。もし俺のことが嫌なら……」
「ううん!嬉しいよ……。ありがとう、彰久」
そう言って千里は微笑み返すと、彰久も優しく微笑み返してくれた。
「……正直ね、彰久があたしと同じ高校二はいってくれるってなった時、すごく嫌だったの」
「えっ!?そうなのか?」
彰久が驚いたように声を上げる。千里はそんな彰久の胸に、頭をぐりぐりと押し付けながら言った。
「当たり前じゃん!だって、彰久はあたしなんかと違って頭もいいしスポーツだってできるし。それに、顔もかっこいいし……」
そこまで言ったところで、急に恥ずかしくなってしまった。彰久の顔を見ることができないまま、千里は話を続ける。
「なんか……あたしが足を引っ張ってる気がしてさ。あたしがいなかったら彰久はもっと自由にできるのに、あたしのつまらないわがままで彰久を縛ってるような気がして。なんだか申し訳なかったんだよ……」
そこまで言ったところで、急に千里は腕を引っ張られて抱き締められた。千里は思わず目を見開きながら彼のことを見つめると、そこには……とても真剣な表情を浮かべた彼の顔があった。
「千里のせいじゃないさ」
彼はきっぱりと言い切った。
「俺がこの学校に来たのは、千里と同じ高校に行きたいっていう自分の意志だ。それに……俺は自分が自由に生きてると思ってるぞ?だってこれだけやりたいことをやらせてもらってるのに、誰からも文句も言われてないしな!」
そう言って彼は笑った。その笑顔を見ると、千里までつられて笑ってしまった。
「そっか……そうだよね!あははっ」
ひとしきり笑い合ってから。
「でも、彰久と婚約かぁ……。まだ実感が湧かないなぁ……」
千里がそうぽつりと呟くと、彰久は苦笑しながら答えた。
「まあ……婚約って言っても、まだ法律上は他人同士だしな」
「そうだよね!でも、なんか嬉しいかも……」
そう言って千里は笑うのだった。
そんな時、突然大きな音とともに空に花火が上がった。
「わあ、綺麗!……ねえ、来年もまた一緒に花火を見ようよ」
「ああ……。もちろんだよ、千里」
今度は彰久が、千里の頭をぽんぽんと撫でるのであった。そして二人はそのまま顔を近づけていき、徐々に距離が近づいていくにつれて自然と目を閉じていくのだった。
(やば……!どうしよう!)
花火の音と歓声によって、周りの人々は誰も千里たちのことを気にしていないように見えるが……それでもやはり人前でキスするのは抵抗がある。
そんなことを考えているうちに、あと数センチで唇が触れ合うというところで。スマホから着信音が鳴り響いた。
「きゃっ!?」「うわっ!?」
二人の驚きの声が重なると同時に、思わずお互いに顔を背けてしまう。そしてスマホを確認すると、正志からの着信だった。
「もしもし?どうした?」
千里がそう聞くと、正志は慌てた様子で言ってきた。
『助けて彰久っ!雄介と小百合ちゃんが不良に絡まれてるっ!』
「なんだって!?」
彰久は驚きの声を上げると、すぐに走り出そうとした。しかし千里がそれを引き留める。
「待って彰久!あたしも行くから!」
『え?でも……』
「あたしだって二人の友達だよ!大丈夫、彰久の邪魔はしないから!」
千里の真剣な言葉に、彰久は渋々頷いた。
「わかった、千里を信じるよ」
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