夏の終わりに

佐城竜信

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「そうだ、みんなでプールに行こうよ!」
そう提案したのは正志だった。
「プール?」
突然の提案に、彰久や千里たちは首を傾げる。
「そう!夏祭りに行くことは決まったけど、それ以外にも小百合ちゃんと思い出をたくさん残さないとダメだよ!それに、みんなでプールで泳いだ思い出は一生忘れないと思うんだ」
「おおー、いいねえそれ!」
正義が興奮した様子で言う。雄介もうんうんと頷いている。
「確かに、それはいいかもな」
彰久がそういうと、正義も雄介も嬉しそうに笑った。小百合はというと……
(プールか……水着を用意しないと)
そんなことを考えていたのだが、表情からするとまんざらでもなさそうだ。特に異論はないらしい。その様子を見た彰久は、
「よし、それじゃあ次の土曜日にでもみんなでプールにいくか!」
と提案した。全員から賛成の声が上がる。
「小百合の水着楽しみだなー」
そんな雄介のつぶやきを耳にしながら、小百合は少し恥ずかしそうな表情を浮かべていたのだった。


そしてみんなでプールに来たわけだが。水着に着替えている彰久は集まってくる視線に気が気ではなかった。
(なんか……ものすげえ見られてるな)
どうして自分が見られているのかわからずに、隣にいる正志に尋ねた。
「なあ、正志」
「ひゃっ!ひゃいっ!?」
突然声を掛けられたことで、正志は驚きの声を上げる。周りの視線も彰久たちに集まってきて、少し気まずい雰囲気になる。だが、
「どうして俺が注目されてるんだ?」
と尋ねたことで、逆に周りにいた全員が安堵した表情になった。
「どうしてって、そりゃあ……ねえ?」
正志は助けを求めるように、隣にいる雄介に視線を向ける。
「いや、そこで俺に振るのかよっ!ま、まあそうだな……。だって彰久の身体、引き締まってて綺麗だからな」
「なっ……!?」
思わぬ言葉に、今度は彰久が驚いてしまう。まさか褒められるとは思っていなかったのだ。だが雄介の言う通り、彰久の腹はきれいなシックスパックに割れており、引き締まった体形をしていた。それに背も高く顔も整っており、周囲からは「イケメン」だと思われている。それがさらに視線を集める原因になっていたのだ。
「さすがインターハイベスト4だよね。体の出来が違うよ」
「そ、そうか?自分じゃあんま分かんねえけどな……」
正志の言葉に、彰久は頰を書きながら照れ笑いをする。そんな様子を見て、雄介と正志の二人は顔を見合わせて笑ったのだった。
(それにしても、やっぱり彰久って目立つよね)
正志はそんなことを思う。彰久はアマチュアの格闘大会で優勝を勝ち取った経験があるうえに、もうすぐプロ格闘家になる有名人だ。そんな彰久に正志は憧れているし、尊敬している。だからこそこうやって一緒にいられることが嬉しいのだ。
「……っと、そんなこと言ってないで早く着替えちゃおうぜ!小百合ちゃんだって待ってるしよ!」
雄介はそう言って、彰久の背中をポンと叩く。
「お、おう!」
彰久は元気よく頷くと、着替えの続きを始めたのだった。
着替えを終えてプールへと出ると、空からは暑い日差しが降り注いでいた。周りを見渡すと、たくさんの人が思い思いにプールで楽しんでいる様子が見える。いかにもなプール日和だ。
「んで、女子の二人は?」
雄介はきょろきょろと周りを窺いながら尋ねる。
「まだ更衣室から出てきてない」
正志がそう答えると、彰久も言った。
「まあ、女子は男よりも時間かかるからな。どうする?先に遊んでるか?それとも、二人が出てくるまで待つか?」
その問いに、雄介と正志は顔を見合わせる。そして。
「ま、待ってようぜ」
「うん、やっぱり二人は待っとかないとね!」
そんな二人の答えを聞いて彰久は大きく頷いた。せっかくみんなで遊びに来たのだから、なるべく一緒にいたいのだろう。
「そうだな!んじゃ、三人で待ってるか!」
こうして三人は女子二人が更衣室から出てくるのを待つことにしたのだった。
「……にしてものどかわいたなー」
日差しが照り付けるプールサイドで、雄介が伸びをしながらそんな声を漏らす。
「確かにそうだねー」
正志も汗をぬぐいながら同意した。
「それなら、飲み物でも買ってきてやろうか?」
彰久がそう尋ねると、二人から口々に感謝の言葉が返ってくる。
「いいのか?悪いな」
「うん、ありがとー!」
そんな二人に向かって頷き返すと、彰久は早速近くの自販機へと向かったのだった。
「さて、何を買おうか……」
そんなことを呟いた時だった。
「あのー、おひとりですか?」
突然、見知らぬ女の子に声を掛けられた。その少女は大学生くらいの年齢で、とてもかわいらしくて優しそうな雰囲気を持っている。
「よかったら、私たちと遊びませんか?」
その少女の隣には、同じような年齢と思われる少女がいる。二人とも少し照れたような表情を浮かべており、どこか初々しい雰囲気が漂っている。
「あ、えーと……友達と来てるんですけど……」
彰久が困惑した表情で答えると、その少女は残念そうな顔をした。
「そうですか……でももう少しお話ししてもいいですか?」
……どうやら引く気はないらしい。
「すみません、先約があるので……」
きっぱりとそう言って立ち去ろうとすると、その少女が食い下がってきた。
「でも私たちの方がちょっと早く声かけたしぃ……一緒に遊びたいんです!」
そんな少女の様子を見て彰久は困ってしまったが、それでもはっきりと断らないといけないと思って口を開こうとした時だった。
「あっ、彰久!遅いから迎えに来たよ!ほら、ジュース買って早くいこっ!」
千里がそう言いながら駆け寄ってきた。その後ろからは、雄介と正志、小百合も歩いてくるのが見える。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
千里が申し訳なさそうにそう言うと、彰久は慌てて首を横に振る。
「いや、大丈夫だったよ!」
そう言ってからもう一度先ほどの少女の方へと向き直ったのだが……二人はすでにいなくなっていたようだ。
「あれ?さっきの女の子たちは?」
彰久がキョロキョロと周りを見渡していると、千里が答えた。
「なんか、『先約があるみたい』とか言ってどこかに行っちゃったよ。なに、彰久……ナンパされてたの?」
「ち、違うよ!ただ声を掛けられただけだ!」
そう言って慌てて否定すると、千里は少し驚いた様子を見せてからニヤニヤとした表情を浮かべた。
「へぇー?そうなんだぁ」
そんな反応をされると、何だか妙に恥ずかしくなってしまう。
「まあ、彰久って格好いいからね。逆ナンされてもおかしくないと思……って、彰久?顔が真っ赤だけど大丈夫?」
「こ、これは……暑いからだよ!」
(くそっ……恥ずかしいな)
そんなやり取りをしていると、後ろから雄介たちの声が聞こえてきた。
「お!彰久がナンパされてたのか!?」
そんなことを言いながら駆け寄ってきた二人に向かって、彰久は「違う!」と叫んだ。そして、
「もう行くぞ!ほら、飲み物!みんなのも買ってきたからな!」
そう言ってジュースを全員に配るのだった。そんな様子を見て、正志や千里たちは笑い声を上げる。
(なんか……幸せだな)
そんな気持ちになりながらも、彰久は先に行って待っている二人の元へと向かったのだった。
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