37 / 58
37
しおりを挟む
みんなと別れて彰久が向かった先はデパートの中にある装飾品売り場だ。それも若い子向けの店ではなく、ちゃんとした大人向けである。
彰久はショーケースに飾られているネックレスに視線を向けた。
「すいません。注文していたものを受け取りに来たのですが……」
「はい、少々お待ちください」
店員は彰久の姿を見て驚いた様子だったが、すぐに営業スマイルを浮かべると、奥へと引っ込んだ。そして、しばらくして戻ってくると、彰久に商品の入った紙袋を手渡す。
「こちらがご依頼されていた品になります」
「ありがとうございます」
彰久は代金を支払うと、店員から紙袋を受け取った。そして、店を後にしようとすると、後ろから声をかけられた。
「彰久、何を買ったんだよ?」
彰久が振り返ると、そこには雄介の姿があった。
「なっ!?雄介、どうしてここにいるんだ?それにみんなも……」
雄介だけではなく、千里と小百合と正志の三人もいた。
「そりゃあ気になったからに決まってるだろ?それで、彰久は何買ったんだ?」
「それは秘密だ。それより、なんで三人までついて来てるんだよ?」
「それは、みんなで彰久君を追いかけて来たからですよ」
「え?追いかけてって……」
「みんなで彰久の後をつけてたんだよ」
千里は悪びれる様子もなくそう言った。
「……マジかよ。全然気付かなかった」
「まあ、尾行なんて普通は気づかれないようにするもんだからな」
雄介の言葉に、彰久はガックリと肩を落とした。
「まあ、バレてしまったものは仕方がないか。俺が買ったのはこれだよ」
そう言って彰久が袋から取り出したのは、細長い化粧ケースだった。誰が見てもその中身がネックレスであるだろうことは容易に想像がつく。
「へえー、これってネックレスの箱じゃないか」
「ああ。だから言っただろ?頼んでたものが出来たって」
「でもさ……、どうして急にこんなものを欲しがるわけ?しかもわざわざお店で作ってもらっちゃったりしてさ」
「そりゃあ、贈り物だからだよ」
彰久の言葉に、千里は一瞬だけ目を見開いたが、すぐにいつも通りの表情に戻った。
「ふぅん。プレゼントか……。ねえ、誰へのプレゼントなのか聞いてもいい?」
「それは内緒だって」
「えー、いいじゃん。教えてよ」
千里は不満げに口を尖らせる。しかし、彰久は苦笑いをするだけで答えようとしない。すると、小百合が助け舟を出すように口を開いた。
「千里さん。あまりしつこく聞くのは良くないと思いますよ?」
「わかってるけどさ……。でも、やっぱり気になるんだよ」
「そうだよ。俺も知りたいな。一体、彰久は何を贈ろうとしているんだ?」
雄介も興味津々といった感じで尋ねた。すると、彰久は観念したかのように答え始めた。
「俺が贈ろうとしてるのは、真理姉さんにだ」
「え?そうなの?」
真理への贈り物。その言葉を聞いた千里は、どきりと胸が高鳴った。
「ああ、前に言ってただろ?自分の気持ちはちゃんと伝えた方がいい、って。だから、プレゼントと一緒に気持ちを告白しようと思ったんだよ」
「……そっか。ついに言うつもりなんだな!」
「ああ。いつまでも中途半端なままでいるのは嫌だしな」
「頑張ってね!彰久!」
雄介と正志は嬉しそうに応援した。だが、二人は知らないのだ。真理がすでに婚約をしていて、いずれは結婚をする予定があるということを。
(彰久、あの言葉を本気にしてたんだ……)
千里は複雑な心境で彰久のことを見た。確かにたきつけたのは千里自身なのだが、まさか彰久が本当に告白をするとは思ってもいなかった。
「……千里ちゃん、そんなことを言っていたんですか?」
婚約の事実を知っている小百合が、責めるように千里を睨みつける。
「あ、あれはその……」
千里はしどろもどろになって弁解しようとしたが、小百合はさらに詰め寄ってきた。
「そもそも千里ちゃんのせいでしょう!彰久君は真剣に悩んでいるんですよ!」
「わ、悪かったってば……」
「全く……。彰久君が困っていることくらいわかるでしょう?」
「う、うん……」
「まったく……。私も千里ちゃんのことは信頼していますけど……。もう少し考えて発言してくださいよ?」
「はい……。ごめんなさい……」
千里はシュンとなって謝った。そんな千里の様子を見て小百合はため息をつく。
「まあまあ、小百合。その辺にしといてやれよ。千里も反省してるようだしさ」
雄介がとりなそうとすると、小百合はキッと雄介のことを睨む。
「あなたは黙っていてください」
「は、はい……。わかりました……」
雄介は小百合の迫力に圧倒されてたじろいだ。そして、小百合は千里の方を向くと、優しく語りかける。
「千里ちゃん、もうあんな軽はずみな発言をしてはいけませんよ?」
「うん。わかったよ……」
「それならいいんです」
小百合は優しい笑顔を見せた。
その次の日。千里は目撃してしまった。そのネックレスを彰久が真理に渡し、「ずっと好きでした」と告白している姿を。真理は驚いた様子ではあったものの、悲しそうな顔を浮かべてこういった。
「ごめんなさい。私には好きな人がいます」
――そしてその日から彰久は鏑木空手道場に顔を出さなくなった。
彰久はショーケースに飾られているネックレスに視線を向けた。
「すいません。注文していたものを受け取りに来たのですが……」
「はい、少々お待ちください」
店員は彰久の姿を見て驚いた様子だったが、すぐに営業スマイルを浮かべると、奥へと引っ込んだ。そして、しばらくして戻ってくると、彰久に商品の入った紙袋を手渡す。
「こちらがご依頼されていた品になります」
「ありがとうございます」
彰久は代金を支払うと、店員から紙袋を受け取った。そして、店を後にしようとすると、後ろから声をかけられた。
「彰久、何を買ったんだよ?」
彰久が振り返ると、そこには雄介の姿があった。
「なっ!?雄介、どうしてここにいるんだ?それにみんなも……」
雄介だけではなく、千里と小百合と正志の三人もいた。
「そりゃあ気になったからに決まってるだろ?それで、彰久は何買ったんだ?」
「それは秘密だ。それより、なんで三人までついて来てるんだよ?」
「それは、みんなで彰久君を追いかけて来たからですよ」
「え?追いかけてって……」
「みんなで彰久の後をつけてたんだよ」
千里は悪びれる様子もなくそう言った。
「……マジかよ。全然気付かなかった」
「まあ、尾行なんて普通は気づかれないようにするもんだからな」
雄介の言葉に、彰久はガックリと肩を落とした。
「まあ、バレてしまったものは仕方がないか。俺が買ったのはこれだよ」
そう言って彰久が袋から取り出したのは、細長い化粧ケースだった。誰が見てもその中身がネックレスであるだろうことは容易に想像がつく。
「へえー、これってネックレスの箱じゃないか」
「ああ。だから言っただろ?頼んでたものが出来たって」
「でもさ……、どうして急にこんなものを欲しがるわけ?しかもわざわざお店で作ってもらっちゃったりしてさ」
「そりゃあ、贈り物だからだよ」
彰久の言葉に、千里は一瞬だけ目を見開いたが、すぐにいつも通りの表情に戻った。
「ふぅん。プレゼントか……。ねえ、誰へのプレゼントなのか聞いてもいい?」
「それは内緒だって」
「えー、いいじゃん。教えてよ」
千里は不満げに口を尖らせる。しかし、彰久は苦笑いをするだけで答えようとしない。すると、小百合が助け舟を出すように口を開いた。
「千里さん。あまりしつこく聞くのは良くないと思いますよ?」
「わかってるけどさ……。でも、やっぱり気になるんだよ」
「そうだよ。俺も知りたいな。一体、彰久は何を贈ろうとしているんだ?」
雄介も興味津々といった感じで尋ねた。すると、彰久は観念したかのように答え始めた。
「俺が贈ろうとしてるのは、真理姉さんにだ」
「え?そうなの?」
真理への贈り物。その言葉を聞いた千里は、どきりと胸が高鳴った。
「ああ、前に言ってただろ?自分の気持ちはちゃんと伝えた方がいい、って。だから、プレゼントと一緒に気持ちを告白しようと思ったんだよ」
「……そっか。ついに言うつもりなんだな!」
「ああ。いつまでも中途半端なままでいるのは嫌だしな」
「頑張ってね!彰久!」
雄介と正志は嬉しそうに応援した。だが、二人は知らないのだ。真理がすでに婚約をしていて、いずれは結婚をする予定があるということを。
(彰久、あの言葉を本気にしてたんだ……)
千里は複雑な心境で彰久のことを見た。確かにたきつけたのは千里自身なのだが、まさか彰久が本当に告白をするとは思ってもいなかった。
「……千里ちゃん、そんなことを言っていたんですか?」
婚約の事実を知っている小百合が、責めるように千里を睨みつける。
「あ、あれはその……」
千里はしどろもどろになって弁解しようとしたが、小百合はさらに詰め寄ってきた。
「そもそも千里ちゃんのせいでしょう!彰久君は真剣に悩んでいるんですよ!」
「わ、悪かったってば……」
「全く……。彰久君が困っていることくらいわかるでしょう?」
「う、うん……」
「まったく……。私も千里ちゃんのことは信頼していますけど……。もう少し考えて発言してくださいよ?」
「はい……。ごめんなさい……」
千里はシュンとなって謝った。そんな千里の様子を見て小百合はため息をつく。
「まあまあ、小百合。その辺にしといてやれよ。千里も反省してるようだしさ」
雄介がとりなそうとすると、小百合はキッと雄介のことを睨む。
「あなたは黙っていてください」
「は、はい……。わかりました……」
雄介は小百合の迫力に圧倒されてたじろいだ。そして、小百合は千里の方を向くと、優しく語りかける。
「千里ちゃん、もうあんな軽はずみな発言をしてはいけませんよ?」
「うん。わかったよ……」
「それならいいんです」
小百合は優しい笑顔を見せた。
その次の日。千里は目撃してしまった。そのネックレスを彰久が真理に渡し、「ずっと好きでした」と告白している姿を。真理は驚いた様子ではあったものの、悲しそうな顔を浮かべてこういった。
「ごめんなさい。私には好きな人がいます」
――そしてその日から彰久は鏑木空手道場に顔を出さなくなった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい
四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』
孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。
しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。
ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、
「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。
この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。
他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。
だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。
更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。
親友以上恋人未満。
これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる