夏の終わりに

佐城竜信

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模試の結果が返ってきたのは、模試を受けてから一週間が経った時だった。その結果を見せ合うために、彰久たち五人はデパートのフードコートに集まっている。
「じゃあ、千里も参加するってことでいいんだよな?」
雄介にそう聞かれ、千里は大きくうなずいて見せる。
「うん、もちろん!」
「結構な自信があるみたいだな。でも、俺だって小百合に勉強を教わってるから、かなり点数上がってるはずだぜ」
「うん。雄介君、毎日頑張ってたもんね」
小百合はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。雄介と小百合は付き合っている。そして付き合い始めたばかりだからか、二人の仲は以前よりもずっと良くなっていた。
「それに彰久は勉強する時間なんて作れなかっただろ?今回は俺の勝ちだな」
「いや、それはどうかな?」
「はぁ?どういう意味だよ?」
「確かに最近は時間が取れなかったけどな、それでも今までの積み重ねでなんとかなるもんだよ」
彰久はにやりと笑って見せた。それを見た雄介はムッとする。
「なら勝負しようぜ!」
そう言って雄介は自分の成績表をテーブルの上に出した。そして、そこに書かれている偏差値を指さす。
「俺の総合偏差値は60もあるんだ!そうそうこれに勝てるわけがないだろ!」
ふふん、と雄介は得意に鼻息を出した。すると彰久は自分の成績表を出した。まだこの瞬間まで確認していなかったのか、封筒の口を開いて中に入っている紙を取り出している。
「おい、早く見ろって」
「ああ、分かってるって」
彰久はゆっくりと結果に目を通した。そして、しばらく無言になる。その沈黙に耐えられなかった雄介が話しかける。
「おーい、彰久さんやーい。聞こえていますかー?」
「……」
「彰久さーん?もしもーし?」
「……」
「ダメだこりゃ」
雄介は諦めて、他の三人の方を見る。
「なあ、みんなは俺と彰久どっちの方が上だと思う?」
「うーん、そうだな……。僕は彰久のほうがよかったんじゃないかと思うよ?」
正志は雄介の質問に対して、そう答えた。
「私も、さすがに雄介が彰久よりも成績がいい、なんてことはないと思うかな」
「ごめん、雄介君。彰久君の方がたぶんよかったんじゃないかなって思うよ」
雄介の予想に反して、千里と小百合も彰久の方がいいと言う。その予想外の反応に、雄介は動揺した。
「な、なんでだよ!俺のどこが悪かったっていうんだ!」
「いや、全部じゃない?」
「ええい、そんなこと言うなら彰久の結果を公表してやるよ!」
そう言うと雄介は彰久の成績表を奪いとり、テーブルの上に広げた。
「さあ、お前らの感想を聞かせてもらうぞ!」
「……」
「彰久、お前は黙るなよ!」
「……いや、本当に凄いなと思って」
「そんなに凄いか?正直、俺もここまでとは思ってなかったんだけどな」
彰久の結果はすべての教科が偏差値70を超えており、総合教科については72という好成績をたたき出していた。その点数を見て、雄介は開いた口が塞がらないようだ。
「マジかよ……。こんなに差があるのか?」
「偏差値72、っていうと……。大学だったら早稲田か慶応、ってところかな」
正志はそう言いながら自分の成績表をテーブルに差し出した。千里と小百合もそれに続く。
「なんだ、正志は偏差値56か。俺の勝ちだな!」
雄介は嬉しそうに正志の成績を見た。正志は悔しそうに顔を歪めているが、すぐに気を取り直すようにため息をつく。
「はあ……。そうだね。僕が雄介に勝てるところなんて一つもないよ」
「いやいや、正志は俺なんかより全然頭がいいからな。そこは胸を張っていいと思うぜ。それで、小百合はどうだった?小百合だったら彰久に勝てそうな気がするけど」
「ううん、残念だけど私の偏差値は67だった。さすがに彰久君には敵わないよ」
「そっか……。じゃあ、千里はどうだったんだよ?」
「…………」
雄介に話を振られた千里は無言のまま成績表を差し出す。それを受け取った雄介は千里の顔を見ながら言った。そこに記されている偏差値は54だった。
「うわっ、千里もなかなか低いな。てっきりもっと高いと思ったんだけど」
「うるさいな。私だって頑張って勉強してるんだけど、どうしても苦手な科目は上手くいかないんだよ」
「ああ、そういうことなのか。でも、千里は数学の問題は結構解けてたじゃん」
「あれはたまたま解き方が分かっただけだから、運が良かっただけなんだよ」
千里はそう言ってため息をついた。そんな千里の様子を見て雄介はにやりと笑い。
「それじゃあ、千里の負けってことでいいんだよな?」
「……そうね。わかってるわよ。その代わり彰久、私に勉強を教えて。その……。将来彰久と同じ大学に行くためには、今から勉強しておく必要があるから」
「ああ、もちろんいいぞ。でも、千里の志望校って東大とか早稲田みたいなレベルの高いところでいいのか?」
「東大!?それに早稲田って……。彰久、そんなにレベルの高いところに行こうとしてたの?」
「うん、まあな」
彰久の答えに千里は唖然としているようだった。そんな千里に正志が笑いかける。
「彰久と一緒に大学に行きたいなら、まずは千里ちゃんが頑張る必要があるってことだね」
「うん、そうみたいだね……。私、絶対に頑張ってみせるから!」
「その意気だね。応援してるよ」
「ありがとう、小百合ちゃん!」
千里は満面の笑みを浮かべていた。それを見ていた雄介も笑顔を見せるが、なぜか少し寂しそうな表情をしていた。
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