夏の終わりに

佐城竜信

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「なんか今日は楽しかったね!」
帰り道の途中、小百合は笑顔で言う。
「そうだな!俺もすげー楽しかった!」
二人とも満足した様子で歩いていく。そして分かれ道まで来たところで、小百合が足を止める。
「どうした?」
雄介が聞くが、小百合は黙って俯いている。
「小百合?どうかしたのか?」
「その……雄介君に言わないといけなことがあって……」
「えっ?」
雄介は嫌な予感がしていた。
「実はね……。私、引っ越すことになっちゃったの……」
「えっ……?」
雄介は驚き、言葉を失った。小百合は申し訳なさそうに俯きながら話を続ける。
「お父さんの仕事の都合で……。北海道に行くことになったの」
「そ、そうなのか……。いつ行くんだよ?」
「夏休みの終わり頃になると思う……」
「そんなに早くか……」
「うん……」
雄介はショックだった。だがここで落ち込んでいても仕方がないと思い、明るく振る舞うことにした。
「じゃあ、またいつでも会えるじゃんか!またすぐに電話するから!」
「うん……。ありがとう」
小百合の表情はまだ暗いままだ。そんな小百合を見て、雄介は自分の無力さを痛感する。
(どうして俺はいつもこうなんだ……。好きな女の子の笑顔すら守れないなんて……。情けねえよ……。ちくしょう……)
雄介は拳を強く握りしめる。すると、小百合は突然、何かを思い出したように言った。
「あ、そうだ!あのね、これ受け取ってほしいんだけど……」
小百合はバッグの中から小さな箱を取り出した。その大きさから中身はすぐに想像できた。
「これって指輪?」
「うん……。そんなに高くない物だから気に入ってもらえるかわかんないけど……」
小百合は不安そうな表情をしている。
「開けてもいいか?」
「うん!」
雄介はゆっくりと蓋を開ける。中にはシルバーリングが入っていた。
「おぉ……。かっこいいな!」
「本当!?良かったぁ……。頑張って選んだ甲斐があったよ」
「これってペアになってるのか?」
「そうだよ。私のは右の薬指にはめてるの」
雄介は小百合の右手を見る。そこには銀色に輝くリングがはめられていた。
「サイズぴったりみたいだな」
「うん。ちゃんと測って買ったから」
「そうか……。じゃあ俺のはこれか?」
雄介は左手の人差し指にはめた。すると、小百合は首を横に振った。
「違うよ。それは私がはめるの」
小百合は雄介の左の薬指にリングをはめた。
「はい、これで完成!」
「なんか嬉しいな」
雄介は小百合の手を優しく握る。
「小百合……。これから先、ずっと俺と一緒にいてほしい」
「えっ……?」
「まだ早いかもしれないけど、プロポーズさせてください」
「本当に……?」
「ああ」
雄介は真剣な眼差しで小百合を見つめる。
「はい……。よろしくお願いします」
小百合の目からは涙が溢れていた。雄介は小百合を引き寄せ、強く抱きしめる。
「愛してるよ、小百合」
「私も大好きだよ、雄介君」
二人の想いは通じ合い、長いキスをした。その時間はまるで永遠のように感じられた。
「あのさ、小百合にプレゼントがあるんだ」
「えっ?プレゼント?」
「うん。ちょっと待ってて」
雄介は近くの公園に行き、ベンチに座って待っている小百合のもとへ戻ってきた。
「はい、誕生日おめでとう」
雄介は小さな紙袋を手渡した。
「えっ!?覚えててくれたの?」
「当たり前だろ。ほら、中見てみ」
「うん」
小百合は袋の中に入っていたものを取り出す。
「わぁ!ネックレスだ!」
小百合の手にあったものは、イルカの形をしたペンダントだった。
「それ見てると元気出るんだってさ」
「へぇ~!凄く可愛い!」
小百合は嬉しそうに微笑んでいる。雄介はその笑顔を見て、心が癒されていくのを感じた。
「付けてあげるよ」
雄介は小百合の後ろに回り込み、首に手を回してネックレスを付けてあげた。
「どう?」
「似合ってるよ」
「えへへ……」
小百合はとても幸せそうだった。そんな小百合を見ていると、雄介も幸せな気持ちになる。
(小百合が喜んでくれてよかった……。でも、これで終わりじゃないぞ……。本番はここからだ)
「小百合」
「ん?」
雄介はポケットからあるものを出した。それは綺麗に包装された四角い小包だった。
「これは俺からのプレゼント」
雄介はそれを手渡す。すると、小百合の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「うぅ……。ありがどう……。うぐっ……。ゆうすけぐん……。うわぁぁぁん……」
小百合は泣きじゃくりながら、雄介に抱きついた。
「おいおい……。そんなに泣くなって」
「だって……。だって……、こんなに素敵なものを貰ったら泣いじゃうよ……」
小百合は嗚咽しながら話す。雄介は小百合の背中をさすりながら、落ち着くのを待っていた。
「もう大丈夫?」
「うん。ごめんね……」
「謝らなくていいよ」
そう言って微笑む雄介の瞳からも一筋の涙が流れた。その姿を見て、小百合は一つの決心をした。
「雄介君。私、大学生になったらまたここに戻ってくるよ」
「えっ……?」
「そして今度は私が雄介君に会いに行く」
「マジで!?」
「うん!約束!」
小百合は満面の笑みで答える。
「おう!絶対来てくれよな!」
雄介も笑顔になり、二人は再びキスを交わした。
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