夏の終わりに

佐城竜信

文字の大きさ
上 下
27 / 58

27

しおりを挟む
小百合と雄介の交際は順調に続いている。――ように見えただろう。だがそれは小百合が雄介に嘘をついているから成り立っているものだ。
最近は小百合は毎日、雄介と一緒にいる。とはいってもいかがわしいことをしているわけではなく、八月の頭に模試があるからその勉強のために図書館に通っているのである。
「ここ、どうやって解くの?」
「ここはね……」
小百合は雄介の隣に座って、数学の問題集を教えている。
「なるほど……。そういうやり方もあるんだ」
「そうそう」
雄介は小百合の教え方を理解しようと真剣に聞いてくれる。その態度はとても嬉しかった。
「これでどうかな?」
「ん~……。惜しいけど、ちょっと違うかな」
「そっか……。じゃあこっちかな」
「そうそう。それで合ってるよ」
小百合は雄介に教えているうちに自分も理解してきたようで、問題を解くスピードも上がってきた。
「小百合って教えるのうまいよな」
「そうかな?自分ではわからないけど……」
「だってさ、俺にわかるように説明してくれてるし」
「それは雄介君の呑み込みが早いだけだよ」
「そんなことないって」
小百合は雄介に褒められると嬉しくなってしまう。そんな小百合の横顔を見ていると、雄介はふと思った。
(小百合ってやっぱり美人だよな……。綺麗だし、可愛いし、それに性格もいいし……)
雄介は小百合に見惚れていた。
「ねぇ、雄介君」
「なに?」
「さっきからどこ見てるの?顔赤いけど」
「えっ?べ、別になんでもないよ」
雄介は慌てて視線を逸らした。小百合はそんな雄介を見て、クスッと笑う。
「変なの」
小百合は楽しげに微笑んだ。
「そういえば、やっぱり千里も勝負に参加することにしたらしいよ」
小百合にそう言われて雄介は少しだけ安心した。
「そっか、よかった。あいつは負けず嫌いだからなぁ。でも、今回は彰久にも勝てるかもしれないからな!気合を入れて臨まないと!」
雄介は拳を握って意気込む。彰久は学年でも上位レベルの成績の持ち主ではあるが、空手の全国大会に出たり格闘技の大会に出たりとなにかと忙しく、まともに勉強をする時間は少ないはずだ。
「そうだね。彰久君、いつも成績トップクラスだもんね」
「まぁ、彰久のことは心配してないし。それより小百合の方だよ。小百合は成績良いんだろ?大丈夫なの?」
「私は結構自信あるよ!頑張って勉強したから!」
「すごいなぁ、小百合は。俺はテスト前になったらいつも徹夜だよ」
「無理しない方がいいよ。体調崩したら大変だし」
「うーん、でもなぁ……」
雄介は納得できないようだ。すると小百合は雄介の手を握った。
「ゆ、ゆうすけくん?」
「どうせなら一緒に頑張ろうよ!一人より二人の方が効率いいと思うよ」
「う、うん……。わかった」
小百合の積極的な行動に雄介は戸惑いながらも、しっかりと手を握り返した。
(やばい……。すげードキドキする……。って、小百合も顔真っ赤にしてるじゃんか……)
雄介は小百合の顔を見ると、小百合も顔を赤らめていることに気づいた。
(小百合も俺と同じように緊張してるのか?)
そう思うと雄介は少し緊張が和らぎ、そして勇気が出た。
(よしっ……。もっと積極的にいこう。小百合に俺のこと意識させてやる!)
そう決心すると、雄介は握っていた手に力を込めた。すると小百合もギュッと強く握り返してくる。
「なんかこうしてると恋人同士みたいだな」
「そ、そうだね……」
小百合は俯きながら答える。雄介はそんな小百合の様子にドキッとした。
(小百合ってこんなに可愛かったっけ……)
小百合の顔はほんのりと赤くなっている。
「ゆうすけくん……」
「ど、どうした?」
小百合は顔をゆっくりと上げ、そして言った。
「大好き……」
「えっ……」
突然の小百合からの告白に雄介は動揺してしまう。だがすぐに冷静になり、返事をした。
「俺も小百合が好きだ……。本当に大好きなんだよ!」
雄介は力強く言うと、小百合はニコッと笑って言った。
「ありがとう……。私も同じ気持ちだから!」
二人はお互いの顔を見て笑い合う。
(小百合……。俺はお前のことが……)
この瞬間を永遠に忘れることはないだろう。雄介は心の中でそう思った。
「な、なあ小百合。模試が終わったらデートしようぜ?」
「えっ!?デ、デート?」
「うん。嫌だったらいいんだけど……」
「全然嫌じゃないよ!行きたい!」
「じゃあさ、どこに行くか考えとくよ。あとで連絡するから」
「うん!楽しみ!」
小百合は嬉しそうに笑顔を見せた。そんな小百合の姿を見て、雄介はまた好きという感情が強くなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』  孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。  しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。  ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、 「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。  この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。  他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。  だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。  更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。  親友以上恋人未満。  これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。

処理中です...