スノードロップの操り人形

洋海

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7. ユートピア実現計画の第二十五段階目

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 楽しい時間は早く過ぎる、という現象は実に本当であった。私の手元にはここ数ヶ月、芋づる式に LIEU DU CRIME の利用者の個人情報が手に入っていた。成敗も特にトラブルが発生することなく、何より奥原と石森がとてつもなく学習能力が高いことが好ましかった。10件を過ぎた時点で、二人の装飾にかける時間が約30分弱へと短縮しているのにも関わらず、クオリティーは相変わらず高いままであった。高い頻度で殺人を依頼していたので、二人を少し疲れさせてしまったことには多少の罪悪感が湧いたが、二人の作品への制作意欲はそれを忘れさせる程だった。警察にも特にヒントを与えること無くここまで順調に進んできたが、25件目を目前にして犯行が女性であることが判明してしまい、まあそろそろ潮時かなと感じた。そこで私は二人に最期・・のミッションを与えるべく、アカウント特定への作業へと没頭した。
 最後は、Grand.Guignol.03 というアカウントを潰す。前々から殺そうと思っていたのだが、一時的にアカウントが停止していたので死んだと思い込んでいた所、最近”レベルアップ”した状態で闇社会にルンルンで復帰しやがったのだ。
 何故私がここまで Grand.Guignol.03に対して敵対心剥き出しなのかと言うと、今まであった中で一番殺し方及び殺しの理由が糞だからだ。殺し方はアカウント名の通り、グラン・ギニョール、非現実的で、特異な世界へ向けた興味やそうした世界を味わう趣向に焦点が絞られている劇に擬えていた。劇中では、拷問や殺人や自殺などがお決まりの様式的な演出のもとで演じられ、囚われた裸体の女、顔に硫酸をかけられた男などが登場し、恐怖を演出していた―― 劇を”再現”すべく、残虐な殺害方法を趣味としていた。全く、頭のネジを何本へし折ればこのような頭脳が出来上がってしまうのか...。
 殺害理由は、前も話した通り、社会的抹消の為に利用する、ということが多いのだが、生憎 Grand.Guignol.03 は違う。敢えて善人を選ぶ、というのが Grand.Guignol.03 の象徴となっている。この前は、ノーベル平和賞受賞に一番近い日本人と言われていたあの男も容赦無く硫酸漬けにして殺していたし... とにかく極悪人で、それ以上でもそれ以下でも何でも無い。
 だが、どこまで頭が終わっていても、Grand.Guignol.03のセキュリティーガードは硬かった。”ホワイト”ハッカーが24時間監視している状態が続き、私は最終手段として、Grand.Guignol.03に対抗すべくハッカーを雇うことにした。”最終手段”というのは、外部の人間との人脈を広げることが、私たち「雇い主」にとって相当なリスクであるからだ。正直、雇った相手がいつ裏切るかが不明である。殺人用のサイトがあるように、ハッカー用のサイトも同じ系列で存在しているが、正直ハッカーは、「雇い主」の詐欺目的でアカウントを作っている人も居て、信頼できる数少ないハッカーを探すのも一苦労であった...。大人の事情を沢山潜り抜け、必要以上に犯罪を犯し、...まあ、そこまでの苦労は割愛させて頂こう。

 時は進んで早梅雨明け、ようやく二人から動画が送られてきた。動画は約25分。LYCORISの二人に私から個人情報を提供する際には、前もって素顔まで把握しているから、随分と抵抗したんだな、と醜くなった姿を見て驚くことは度々あったが、今回はハッカーに全てを任せた為、安全性を考慮した結果私を通さずに個人情報をLYCORISの二人に直接送ってもらっていた。だから、勿論事前にGrand.Guignol.03の素顔は把握していなかった。そして驚いた。動画が再生されて目に飛び込んで来たのは、連続殺人事件が多発して嫌でも目にしてきた、警察庁長官の槇村 和雄だった。
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