スノードロップの操り人形

洋海

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6. 市街地で死骸、血... ははっ

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 タイトルから察せる通り、俺は現在進行形で非常に疲れている。曜日の感覚はもうだいぶ前に消え失せ、カレンダーの日にちを仕切る縦線が居なくなってしまったような感覚だった。最初の会議からざっくり二ヶ月ほどは経ったのではないだろうか。新芽が生え始め、世の中はしっかり春のムードで包まれている、気がする。時間が随分と経った理由?それは、ほとんど記憶が無いのに加えて、著しく言いたいことが無かったからだ。最近はまともにぼーっとする時間が与えられておらず、久しぶりにこうやって自分の脳内のどこかに住んでいるであろう天使と悪魔という名の視聴者に一人で喋りかけているのだ。

 事件の進展?あぁ、犯人は相当喜んでいるだろうな。捜査の進展は全く無いのにも関わらず、事件だけは沢山起きちまっている。それも、廃墟で行われるが故発見されるのが遅いのも多く、余計現場からヒントが得られない状況が続いている。やたらと花に詳しくなっていく日々が続き、次の事件で何の花が利用されるかを当てる物騒な賭け事がおっさんたちの中で流行り始めていた。
 俺は今仮眠室で今日n杯目のブラックコーヒーを飲みながら、きっとこの状況で飲料会社も喜んでいるだろうとふと思った。某ウイルスの次は、カフェイン依存症が警視庁内で流行ってしまいそうだった。現在、庁内の缶コーヒーやエナドリの消費量が多すぎて、近所のコンビニや自動販売機から売り切れが多発し、一日に何度かある休憩の際に車を10分程度走らせてスーパーに会に行く新米刑事の新たな雑用が増えてしまった程にだ。一刻も早く事件を解決して、有給をたんまり獲得した後、動物園に行って地球温暖化促進の罪を償うべく、シロクマとペンギンに謝ろうと誓った。
 情報も相変わらず乏しく、過去の事件との関連性を調べている俺は...何一つ成果を上げられずにいた。そこで被害者の過去と各々の関連性を調べる班に開始早々移動になってしまったのだが、そこでも特に新しい発見は得られずにいた。強いて言うなら、ターゲットは全員金銭的に裕福であることだった。しかし、皆の金銭の源は様々であり、もし犯人がただお金持ちを狙った反抗を繰り返しているのであれば、全国の高額納税者が最後の一人になるまで、次のターゲットを絞ることができないだろう。
 正直検察官であるという理由で何か特別役に立つという訳でも無く、班をたらい回しにされているような気もしたが、何もないのにふらっと畑中先輩のところに戻ったら給料全額没収だけでは済まないだろう。
 そして良くも悪くもだが、警視庁内の人間に沢山の仲間が増えた。本当は皆で焼肉屋で仲良く夕飯を食べたりしたいところだが、ほぼほぼ毎日庁内に泊まり込んでいて外食の時間が無いのに加え、日に日に会議室に増えていくご遺体の写真を見る度に、今日の夜食もコンビニのコーンサラダにしようと心に決めるのであった。
 結局、俺はなんだかんだこの物騒な事件解決本部に染まりきってしまったのだ。
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