上 下
144 / 200
土の国編

運命

しおりを挟む

土の国 ライラス


日中、ライラスの北門に2人の男性がいた。
金髪のオールバック、貴族服の男はこの町の領主であるゾルディア・ゼビオル。
もう1人は、大きな屋根付き荷馬車の前に立つ少年リオンだった。

「お世話になりました!」

「こちらこそ、感謝している」

そう言うとゾルディアはリオンに手を伸ばした。
リオンは戸惑いながらもその手を取り握手した。

「ああ、そうだあとこれを」

ゾルディアは左手に持っていた本をリオンに渡した。
その本は分厚く、読み切るまでとなると相当な時間を要しそうだった。

「あ、あのこれは?」

「学生時代、私が読んでいた土の魔法の本だ。君へのお礼だ」

「お礼ならもう頂いてます……」

「いや、紹介状は"魔拳"のために書いた。これは是非君に受け取ってもらいたい」

リオンは少し涙目になりながら、その本を受け取った。
見た目通り、その本はとても重かった。

「また来るといい。彼も治ったら一緒にね」

「ありがとうございました!」

リオンは深々とお辞儀すると荷馬車に乗り込む。
屋根付きの荷台にはアルフィスが寝ていた。
あれから数日経つが起きる気配は全く無かった。

ゾルディアは砂漠地帯をゆっくり進む荷馬車を、それが見えなくなるまで見つめていた。


____________



ゾルディアが屋敷に戻ると、門の前にはクロエがいた。
不機嫌そうに腕組みをして目を閉じていた。
それを見たゾルディアはため息をつく。

「なにかあったのかい?随分と機嫌が悪そうだ」

「いいえ、別になんでもない。ただもっと高く買い取ってもいいんじゃないかと思っただけよ」

ゾルディアは首を傾げた。
クロエが誰に何を売ったのかわからないが、恐らく商人にぼったくられたんだろうと思った。

「それより、この前の話しだけど」

「ああ。ここに来るメイヴへの使いのことか。それならいい考えがある」

「へー。さすが優等生」

クロエの馬鹿にしたような口ぶりには耳を貸さず、ゾルディアと2人で屋敷の書斎へ向かった。


____________


書斎は散らかっていた。
今までメイヴが好き放題使っていたせいだ。
真ん中のテーブルの上には手紙が乱雑に置かれ、本は床に散らばる。

「汚いわね」

「勘違いしないでもらいたいね。私は綺麗好きだよ」

クロエはテーブルの前に行くと散らばった手紙を手に取り読んだ。
それは全てグランド・マリアから届けられたものだった。

「手紙の日付を見るにもうすぐここに使いがくるだろう。私の魔法で上手く誤魔化して、君を連れて行ってもらう」

「いい考えね」

そう言って、次々とテーブルの手紙を見ているクロエは一つの手紙で手を止めた。

「なるほど……やはり魔女が……」

「どういうことだ?」

首を傾げるゾルディアにクロエはその手紙を渡した。

「これは……君達がメイヴと戦った時の作戦か?」

そこに書かれていたのはメイヴと戦う時に、アルフィスとリオン、クロエの3人が宿で話し合った作戦が書かれてあった。

「未来を予知する能力を持つ人間がいるとなると、こちらの作戦も筒抜けだろう……君がその町に辿り着けるとは到底思えん」

「最後を見て」

「ん?」

ゾルディアは手紙の最後を読んだ。

「なんだこれは……"勝利するのはライラスの女王"だと!? どういうことだ……」

「魔女は嘘をついたのよ」

「なぜそんなことを?」

「彼女達は自分達の都合のいいように未来を改変している」

「改変?」

「ええ、もしこの手紙に真実が書かれていたとするなら、メイヴは私達と戦ったかしら?」

ゾルディアは少し考えた。
確かに手紙に"戦ったら負ける"と書いてあったらメイヴは戦わなかったかもしれない。

「だが、それは結果論でしかないだろう」

「でも少なくとも、この一文でわかることは、魔女は私達の敵ではないということ。恐らく私は問題無くグランド・マリアに入れるわ」

「確かに……」

「このまま、あなたの作戦でグランド・マリアまで行く」

クロエの真剣な眼差しに、ゾルディアは心動かされていた。
さらにクロエに対しても借りがある。

ゾルディアはクロエの決意に応えるように、無言で頷くのだった。


____________


土の国 


太陽がちょうど中央に差し掛かる昼下がり、シリウスの馬車はもう少しでセントラルに到着しようとしていた。
ここまでほとんど休憩がなかったため、護衛の聖騎士達も疲れが顔に出ていた。

4人いた護衛は1人減っていた。
その1人は"マイアス"という町に残してきたのだ。

馬車から外を眺めるシリウスの表情は晴れやかだった。
こんなに清々しい気持ちは何十年ぶりだろうか……と思っていた矢先、いきなり馬車は止まった。

「また魔物か……」

シリウスはため息をつきながら馬車のドアを開けて降りる。
聖騎士達が2人、馬に乗って横に並んでいた。
シリウスが乗る馬車の御者を務める聖騎士も手綱を握る手が強張る。

数メートル先に向かい合うように3人の男性が立っていた。
その男性達は二台の馬車を横にし通行を妨げていたのだ。

「貴様ら!何者だ!」

馬に乗る聖騎士が声を荒げた。
だがそんな威嚇はお構いなしに真ん中に立つ銀髪の男は笑みを溢す。

その男は長髪で銀髪。
黒いロングコートを着用し、血色の悪い細身の男だった。
横に並んでいるのは薄黒い緑色のローブを着た魔法使いでフードを頭まで被って顔は見えない。

「シリウス・ラーカウの馬車とお見受けする」

銀髪の男のその言葉に、聖騎士達は一気に緊張感が増した。
そして馬に乗りながらも腰に差した剣のグリップを握る。
これはさらなる威嚇のためだった。

「それならどうした?こんなことをして……死にたいのか?」

「ちょっとしたファンでね。話しかけちゃダメかい?それとも熱狂的すぎるかな?」

銀髪の男は再び笑みを浮かべる。
その優しい口調とは真逆の不気味な笑顔に聖騎士達は息を呑む。

馬車から降りたシリウスは馬に乗る聖騎士達より前に出た。

「これはこれは。ワシも君のファンじゃよ」

「ん?僕を知ってるのかい?これは光栄だね」

砂漠地帯に風が吹く。
妙な空気感だった。
シリウスが言ったことに聖騎士達は困惑してる。

「名前は知らないが、"ナンバー"だけは知っとるよ」

「……」

銀髪の男の笑みは消えた。
そしてシリウスを鋭い眼光で睨む。
先ほどまでの優しそうな雰囲気はそこには無かった。

「"ファースト・ケルベロス"……」

「まさか……僕とナンバーを結びつける……魔女か……」

「古い友人じゃよ。それより君の目的はなんだ?」

「その友人の魔女から聞いてないのかい?」

「それは話さなかったな」

「この国の宝具をもらっていく」

「使えんじゃろ……おぬしには……」

「僕は使えないね」

シリウスはその言葉に引っかかった。
その口ぶりからは使える人間が組織にいるというように聞こえる。

「僕は"ナンバー"や"強さ"に興味はない。言ってしまえば宝具にもね」

「王に匹敵する力を持っていてもか?」

「それになんの意味がある?」

銀髪の男はただ無表情だった。
この男が言ってることは嘘ではない。
強さが全てのこの世界で自分と同じ思考の人間は珍しいとシリウスは思った。

「もう少し違う出会い方をしたかったものじゃな」

「そんなのは言うだけ無駄さ……僕達は戦う運命にあったんだ。宝具はもらっていく」

銀髪の男はロングコートのポケットに手を入れながら、ゆっくりと前に歩き出した。
シリウスは後ろの聖騎士に下がるように命じる。

「全員で来た方が得策じゃないのか?」

「いや"ワシ"だけで充分じゃよ」

シリウスのこの言葉には深い意味があった。
自分自身がその発言を噛み締めるように、左腰から"小さなステッキ型"の杖を抜き、前に構えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!

まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。 ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。

ザ・聖女~戦場を焼き尽くすは、神敵滅殺の聖女ビームッ!~

右薙光介
ファンタジー
 長き平和の後、魔王復活の兆しあるエルメリア王国。  そんな中、神託によって聖女の降臨が予言される。  「光の刻印を持つ小麦と空の娘は、暗き道を照らし、闇を裂き、我らを悠久の平穏へと導くであろう……」  予言から五年。  魔王の脅威にさらされるエルメリア王国はいまだ聖女を見いだせずにいた。  そんな時、スラムで一人の聖女候補が〝確保〟される。  スラム生まれスラム育ち。狂犬の様に凶暴な彼女は、果たして真の聖女なのか。  金に目がくらんだ聖女候補セイラが、戦場を焼く尽くす聖なるファンタジー、ここに開幕!  

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

処理中です...