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土の国編

最強のシックス・ホルダー(2)

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土の国 中央道


馬車の前に聖騎士が4人、抜剣し横に等間隔に並んでいた。
目の前には大きな砂埃が舞い、目を凝らすと、その中には巨大な黒い蛇がうねるのがわかる。

聖騎士の後ろに立ったシリウスは左手に持つ、竜の尻尾のような形をした杖を構えた。

アインはその真後ろにいたが、聖騎士が言ったように、この老人がシリウス・ラーカウだとするなら大変なことだった。

大賢者シリウスは滅多に人前に姿を見せないと言われている。
アインにはそれがなぜなのかはわからなかったが、そんなことよりも、魔法使い達の憧れで、最強のシックス・ホルダーと言われる"大賢者シリウス"と一緒にいるというだけで心臓が高鳴った。

「この程度の相手なら"ブラッド・オーラ"の発動は必要無いだろう。わしの魔法が漏れたら追撃を頼もうかの」

「了解しました!」

シリウスの言葉に聖騎士達は剣を強く握り、巨大な蛇を睨んだ。

シリウスは構えた杖を地面に打ち付けると、シリウスの足元に巨大な赤い魔法陣が展開したと同時に周囲に四つ赤い球体が現れる。
そしてその球体が割れると四体の火の竜が生まれ、一気に砂埃が舞う方向へ突撃した。

「ドラゴン・フォース……これで終わってくれればいいが……」

それを見たアインは息を呑んだ。
確かに火の魔法には水の魔法と同じく"竜"を作り飛び道具として放つ魔法はあるが、せいぜい一匹だけ。
火の魔法というだけで魔力を大量に消費するが、さらに上位の"ドラゴン・フレイム"という魔法で四体同時に発生させて放つというのはありえなかった。

「な、なんという魔力……しかしシリウス様は火の魔法使いだったのか……」

大賢者シリウスは謎が多かった。
どの属性の魔法使いなのかすら知ってる者は少ない。
アインはそれを知れただけでも涙しそうなくらい感動していた。

火の竜は砂埃の中へ入り、黒蛇に着弾する。
燃え盛る黒蛇はその痛みからか、うねうねと地面に体を擦り付けていた。

それを見ていた聖騎士達は安堵するが、黒蛇は燃えながらも砂埃から一瞬で這い出した。
そして猛スピードで聖騎士達へ向かった。

「そんな……シリウス様の魔法でも倒せないのか……」

アインは唖然としていた。
さらに聖騎士達は黒蛇の姿形と、その殺気に後退りする。
凄まじいスピードの黒蛇は聖騎士の一人に口を開けて襲いかかろうとしていた。

「ほう。なかなか」

それを見たシリウスはニヤリと笑うと、もう一度、ドンと杖で地面を叩いた。

すると今度はシリウスの足元に茶色の魔法陣が展開する。
それと同時に砂の竜が地面から突き上がり口を開けて黒蛇の喉に噛み付く。
砂の竜はそのまま伸び、黒蛇を一気に数十メートル空中まで連れて行った。

その魔法を見たアインは驚いていた。
それはありえない光景だったからだ。

「つ、土の魔法!?一人の人間が二属性も魔法を使えるなんて聞いたことないぞ……」

砂の竜に噛みつかれた黒蛇は空中でうねる。
シリウスはさらに杖で地面を叩くと、砂の竜が消え、今度は黒蛇より上空に"風の渦"が発生した。

「ま、まさか……冗談だろ……」

空中の黒蛇を見ていたアインはすぐさまシリウスが立っている場所を見ると、巨大な緑色の魔法陣が展開していた。
そして再度アインは空中を見ると、現れた"風の渦"は破裂し、それは特大で無数の風の刃に変わり黒蛇へ襲いかかる。
黒蛇はその風の刃で切り刻まれバラバラになった。

そしてバラバラになった黒蛇の胴体は次々に落ちてくる。
さらに黒蛇からの出血で、竜血も大量に降ってきていた。

シリウスはさらに地面を杖で叩く。
するとシリウスが立つ場所に青い小さな魔法陣が展開すると周囲に雨が降り始め、ドス黒い竜血を浄化していった。

「癒しの雨……ありえない……四属性全て使える魔法使いなんて存在するのか……」

シリウスは竜血の浄化を見届けると振り向き、笑顔でアインを見た。

「アイン君、先を急ごうか」

「は、はい!」

剣を構えていた聖騎士達は唖然としていたが、ハッと我に返る。
そしてアインと一緒に馬車に乗り込む笑顔のシリウスを見て聖騎士達は息を呑んだ。

馬車は何事もなかったかのように、中央ザッサムを目指して走り出した。


____________



馬車で向かい合って座る、アインとシリウス。
アインは老人がシリウスだということを知り一気に緊張した。

「あ、あ、あ、あの、まさか大賢者シリウス様と知らず、ご無礼を……」

アインはシリウスに頭を下げていた。
シリウスはそんなアインを見て笑った。

「いやいや、いいんじゃよ。皆、わしがシリウスと知ればかしこまる。わしはそれがあまり好きではない」

「は、はぁ……」

「わしだって人間じゃ。大したことはないのさ」

「いえ!そんなことはないです!大賢者シリウスといえばこの世界で最高の魔力を持つと言われる魔法使い。魔法使いの憧れの存在ですし!」

アインは興奮気味に語るが、その言葉にシリウスは真顔で窓の外を見た。
アインにはシリウスが少し表情を曇らせていたようにも感じた。

「魔力なぞ高かろうが低かろうが生きるうえでは関係ない。高いから幸せか?低いから不幸なのか?そんなものはどっちでもいいんじゃよ」

「……」

「人は皆死ぬ。わしは仲間が死ぬのを何度も見た。それは魔力が高かろうが、低かろうが一緒。わしは運良くここまで生きただけで、あと数年すればこの世界からいなくなる」

「す、すいません……なにをおっしゃりたいのか……」

「アイン君、わしがここまで生きてきてわかったことは魔力の高い低いなぞ大した問題ではなということじゃ。"ただ強い心で人生を楽しめるかどうか"……それだけじゃよ」

アインはシリウスの言葉を聞いて少し考えていた。
確かにシリウスが言うとおり、魔力が高いから幸せかどうかと言われれば答えはNOだ。
現にアインは魔力が高いせいで厳しい家庭で育ち、期待され、その重圧で胃に穴が空きそうになったこともあった。
アインはここまで来るまでに、何度この環境から逃げ出したいと思ったかわからなかった。

「わしは別に望んで魔力が高く生まれてきたわけではない。こんなもの欲しくもなかった」

「え……」

「すまん、すまん。こんなことを言ったら、他の魔法使いから怒られてしまうの」

シリウスは笑顔でアインを見た。
だが、その笑顔はどこか悲しそうな表現だった。

アインは、もしかしたら"大賢者シリウス"という人物は自分と似た境遇なのかもしれないと思った。
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