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風の国編
一騎打ち
しおりを挟む今にも雨が降りそうな曇り空。
アゲハとレノは闘技場に辿り着いた。
闘技場は円形の作りで、大勢の観客を収容できる観客席があった。
試合する場所は中央の円形の石造りの壇上だった。
アゲハとレノはその目の前に立つ。
その壇上の中央には黒い鎧の騎士が後ろを向いて立っていた。
「先生……」
アゲハはそう呟くと黒騎士は振り向く。
顔は冑で隠されて見えなかった。
「アゲハ様……」
アゲハはゆっくりその騎士に近づいた。
壇上へ向かうアゲハの後にレノも続いた。
「先生……なぜ?なぜこのようなことを!」
「申し訳ありません……私はあなたと戦わなければならない」
アゲハはその言葉に驚く。
やはり目の前にいるのは自分の師匠であるカゲヤマリュウイチだった。
「なぜですか!」
「それが……私が帰る条件なのです……」
「そんな……ですが、なぜ魔法使いを殺めていたのですか!先生はそんなことをする人ではない!」
アゲハが目に涙を溜めて叫んだ。
その言葉にカゲヤマはゆっくり冑を取った。
その冑の下の長い白髪で年老いた姿を見たアゲハは絶句した。
見た目は老人だが、確かにカゲヤマリュウイチの面影はあった。
そこにレノはため息混じりで口を開く。
「デメリットか……」
「デメリット……?」
「魔剣レフト・ウィングのデメリットは"老化"だ。その様子だとかなり使ったな」
レノの言葉に笑みをこぼすカゲヤマはさらに上半身の鎧も脱いだ。
その上半身には体一面、びっしりとエンブレムが刻まれており、それは指の先まで描かれていた。
「そ、そんな……それは一体……」
「魔法使いがやったのです。ラムザの指示ということはわかってました。だが、そんな指示を受けた魔法使いは嫌がるどころか興味津々でしたよ」
カゲヤマはエンブレムを刻まれた時のことを思い出しているのか、悲しげな表情をしていた。
そしてそれを見たアゲハの目からは涙が落ちた。
「だが、その時、魔法使いが何人か魔人になってそれを私とラムザで殺したんです。恐らくその時に、私の中の何かが壊れたのでしょう」
「……」
「計画はもう少し早く完結するはずだったのですが、ようやく今日でそれが終わる」
「私は戦いたくありません……」
カゲヤマは目を閉じてため息をついた。
そして間を開けて意を決したように口を開いた。
「後ろの子供は魔法使いでしょう?その子を殺す。エンブレム……」
「カゲヤマ先生!!」
カゲヤマの体から光が放ち、展開したエンブレムは闘技場を包み覆った。
そしてゆっくりアゲハへ近づく。
上半身は発光しており、左手にはショートソード、左腰には宝具を差してあった。
「アゲハ、これは戦うしかない。僕はこの中だと魔法が使えないから、ここからは一騎打ちだ」
「そんな……私は……」
「彼を終わらせてあげられるのは君だけだ。君ならやれる」
レノの言葉にアゲハはさらに涙した。
だが、その言葉に決意するように左手に持つ刀を強く握りしめた。
レノは後ろに歩き、壇上を降りる。
アゲハとカゲヤマの距離は数メートルだった。
ゆっくり近づくカゲヤマにアゲハは刀を左腰に構えた。
「隙のない……いい構えです。アゲハ様」
そう言うと、カゲヤマは一気に地面を蹴って、アゲハとの距離を縮めた。
そしてカゲヤマは左腰には構えたショートソードを抜剣モーションを取った。
アゲハはそれに反応して、少しだけ抜刀する。
「天覇一刀流・雷打!」
だがアゲハの雷打は空振りする。
カゲヤマは抜剣せずに手だけモーションを取っていた。
アゲハが気づいた時には、カゲヤマは逆手持ちの鞘をアゲハの右肩に当てていた。
その痛みはアゲハの表情を歪ませた。
「ぐぁ!!」
カゲヤマはそれで終わらずさらにそこから抜刀して、一回転しての横斬りでアゲハの首元を狙った。
「天覇一刀流・宵闇……」
アゲハはその剣を上体を前に倒して回避する。
その際、アゲハの後ろで結っていた髪が斬られ風に舞う。
アゲハは下を向き、カゲヤマの姿が見えていない状態だったが構わず左親指に力を入れて、それを渾身の力で弾いた。
「天覇一刀流・空塵!」
勢いよく放たれた刀はカゲヤマの胸に直撃した。
カゲヤマは抜剣の際、完全に剣を振り抜いていたため回避のしようがなかった。
「がはぁ!」
刀は勢いよく鞘に収まり、アゲハは上体を起こすと、さらに逆手持ちの鞘を横に振る。
顔面を狙ったその攻撃をカゲヤマは左手に逆手で持つ鞘で受けた。
アゲハは刀を一気に引き抜き、そこから横の回転斬りを放つ。
それを見たカゲヤマは右手に持つ剣を地面に落とし、そして素早く左腰に差した宝具のトリガーを引いた。
その瞬間、一気に重力がアゲハを襲う。
アゲハの回転斬りは途中で中断され、地面に片膝を着きそうになる。
「う!!」
カゲヤマは地面に落ちた剣を右足で蹴って、右手に飛ばして掴み、鞘に収める。
そして左腰に構えると抜剣姿勢を取った。
「これで終わりです!」
カゲヤマが剣を引き抜こうとした瞬間だった。
闘技場に雷が鳴り響き爆風が吹き荒れる。
そのあまりの風圧にカゲヤマは数メートル後ずさった。
「馬鹿な……エンブレムを展開しているのに魔法だと!?」
アゲハとカゲヤマがその爆風に顔を覆っている時、闘技場の壇上に近づく一人の少女がいた。
その金髪の少女は大剣を持っているが、左手で大剣の剣身、グリップに近い部分に開いた穴に手を入れ逆手に持っていた。
その部分にも刃が付いているため、力強く握ると手を切るような仕様になっている。
大剣からは赤黒いオーラが放たれていた。
レノがその姿を見てニヤリと笑った。
「ノア・ノアール……」
ノアはカゲヤマを見つめ、ゆっくり歩いて壇上に上がり、中央を目指した。
「あまりこいつを発動させたくないんだがな……」
「なるほど……この風は宝具の能力なのか……」
ノアはアゲハの前に立った。
カゲヤマは数メートル先にいる。
「ノア団長……」
「本気を出す。数分しか立ってられないから、そのあとは頼む」
そう言うと左手に持った大剣を勢いよく地面に突き刺す。
そしてさらに力強く左手を握り締めると、大剣からガチャンと金属音がした。
ノアは右手で大剣のグリップを握り、ゆっくり持ち上げると大剣の刃の部分とは別に、さらに細い剣が引き抜かれていく。
その剣は引き抜かれる際、さらにノアの左手を切った。
細い剣がどんどん姿を現すたびに爆風は強く吹き、竜の咆哮のような音も聞こえる。
「こいつの能力を発動するのは、私が使い手になってから三回目だ。光栄に思え」
ノアがその剣を引き抜き切ると赤黒いオーラは天を包み雷が鳴る。
その大剣は聖剣ライト・ウィングの真の姿を隠すための鞘にすぎなかった。
この剣の本体はノアが右手に持つ細い剣の方だった。
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