97 / 200
風の国編
豪雷
しおりを挟むワイアットは一人、馬で北へ向かっていた。
あの手紙は意味のない手紙などではなかった。
________________
"きたる春の朝露
"ただそれだけを見て過ごしております
"のはらに咲く花は儚くも美しい
"今私は美しい花よりも儚い花のようです
"せかいは広いがあなたは私と共にある
"きみだけを想い私は強く生きる
"二千年経っても
"いまのこの世界は何も変わってはいない
"クローバル家も変わらず平和でいてほしい
________________
文章の"頭"だけ読むと、またそれが文章になっていた。
"き、た、の、い、せ、き、二、い、ク"
"北の遺跡に行く"
ワイアットは風の国中央レイメルの北にある遺跡のことは知っていた。
昔、父親や兄と一緒に魔法の練習で子供の頃に行ったことがる。
ただ、ここ数年で魔物の数も増えたため、人が寄り付かなくなった場所でもあった。
この文章でワイアットは北の遺跡に何か手がかりがあるのではないかと向かったのだった。
________________
レイメルから早馬で数時間のところに遺跡はあった。
森林に囲まれた遺跡で、森の中央に石造りの遺跡がある。
遺跡はピラミッドのようになっており、真ん中に数十メートルもの長さの階段が続き、それを登り切ると、さらにその中央に大きく四角い石造りの建物があった。
ワイアットは周囲を警戒しながら階段を登り、真ん中の石造りの建物を目指した。
建物には一つだけドアすら無い入り口があった。
ワイアットは息を飲み、ゆっくりとその入り口に近づいた。
「ん?……あれは」
入り口から見えるのは建物内の中央に仰向けに倒れている人間がいた。
ワイアットは立ち止まり、目を凝らして見た。
それは真っ白なワンピースを着ているショートカットで銀髪の女性だった。
「エリス……エリス!!」
ワイアットは猛スピードで走り、入り口から数メートル離れ、倒れているエリスへ駆け寄った。
ワイアットは倒れているエリスの横にしゃがみ込む。
するとエリスは少し目を開けた。
「無事で……よかった……」
「ワイアット……なぜ……?」
その言葉にワイアットはエリスの手を握った。
「前に言ったよな、俺はお前のためなら死ねると……あれは本当だ。俺はお前を命をかけて守る」
ワイアットの言葉にエリスは涙した。
エリスの頬をつたった涙を見てワイアットは安堵した。
だが束の間、ワイアットの背後、建物の入り口付近に人の気配を感じた。
ワイアットがゆっくり振り向くとそこには黒い鎧の騎士が立っていた。
「また別の魔法使い……次から次だな……」
「貴様……よくも……」
ワイアットは鋭い眼光で黒騎士を睨んだ。
黒騎士は相変わらず左手にショートソードを持ち、腰に宝具を差している。
「エリス、少し待ってろ……奴をぶちのめす……」
「ワイアット……」
ワイアットは立ち上がり黒騎士に向かい合う。
距離は10メートルほどだった。
「髪の色を見るに風の魔法使いか。風の魔法はさほど強くない。この鎧で充分防げる」
ワイアットは黒騎士が纏う鎧にはマジックガードが掛けられているように見えた。
エンブレムのアンチマジックまではいかないにしても、かなりの威力の魔法にも耐えうるだろう。
「ほう……俺の魔法を防ぐ?なら……やってみるがいい……」
「なに?」
「魔力覚醒……」
その言葉と同時に大きな銀色の魔法陣が、ワイアットの足元に展開した。
そしてワイアットの髪の色に銀色が増え、さらにバチバチと周囲に雷撃が走った。
「な、なんだこれは……」
「風の魔法の上位。"豪雷の魔法"」
ワイアット腰に差した中型の杖を左手に握り、前に構えた。
そしてそれを一気に引き、腰に溜めて、拳を前に突き出した。
「飛電!!」
ドン!という轟音と共に杖から放たれた雷が一直線に黒騎士へ伸びた。
その雷のスピードは目にも止まらず、黒騎士はガードすら間に合わなかった。
黒騎士は胸に当たった雷の衝撃で、数メートル吹き飛ばされる。
ワイアットがそれを追い、走って外へ出た。
遺跡の下へ降りる階段前に倒れ込む黒騎士。
そこにワイアットがさらに雷を纏った杖を縦一線に振り下ろした。
「これで終わりだ!天雷!」
空中から目にも止まらぬ速さで落ちた雷が、倒れる黒騎士に当たる。
その衝撃で遺跡の石造りの床が一気に吹き飛び、黒騎士が倒れている場所に砂埃が舞った。
「ニック、エイベル……お前らの仇は取ったぞ……これで俺の復讐は終わった……」
そう言って振り向いて建物内のエリスへ向かうワイアット。
だが、背後には凄まじい殺気があった。
その殺気にすぐに振り向くワイアット。
なんと黒騎士は目の前におり、抜剣しようとしていた。
「なにぃ!?」
ワイアットは咄嗟に左手に持つ杖でガードしようするが、黒騎士の抜剣で杖が真っ二つに斬られてしまう。
ワイアットはそこからすぐにバックステップし、黒騎士との距離を離した。
「なかなかの高威力……鎧が無かったら死んでたよ」
「硬すぎだろ……」
剣を鞘に戻す黒騎士。
ワイアットは突然の出来事に体がまるで動かなかった。
「君のその魔法に敬意を評して……私の力も見せようか」
ワイアットはその言葉に息を呑んだ。
恐らく宝具の能力発動だろうと思ったのだ。
ワイアットは持っていた杖を捨て、魔法具無しで左手拳を腰に溜め、黒騎士に向かって突き出した。
「飛電!!」
「エンブレム……」
その瞬間、黒騎士の周囲に半透明の円が広がった。
そしてワイアットの魔法は掻き消されてしまうが、その円は尋常ではない広さで展開し、遺跡を覆ってしまった。
「な、なんだこれは……」
ワイアットが辺りを見渡すが、エンブレムはどんどん広がる。
円形で数十メートル展開したままで、縮むことはなかった。
「なにって、君もよく知ってるエンブレムだよ。このフィールド内では魔法は使えない。この中では君はただの人間だ」
「そんな……馬鹿な……」
ワイアットは両膝をつく。
あまりの出来事に戦意を喪失していた。
「君はさっき"復讐"と言っていたが、私もそうなのさ」
「……なんだと?」
「魔法使いが私にしたことは許さない」
ワイアットはその言葉に困惑していた。
だが、黒騎士は構わず膝をつくワイアットの目の前まで来て、抜剣しようとショートソードを左腰に構えた。
「この前、戦った"岩の魔法使い"もかなり強かったが、君もなかなか強かったよ。だがここまでだ」
「……クソ」
ワイアットは目を閉じた。
黒騎士はワイアットの首を刎ねようと一気に抜剣しようとした。
だが黒騎士はそれをせず、後ろを振り向いた。
その瞬間、ズドン!とワイアットの目の前に何かが飛来し石の床が破壊され砂埃が舞う。
黒騎士はそれを間一髪のところで横に回避して、さらに少し後づさる。
砂埃が舞う中から少女のような声がした。
「おいおい、なんてザマだ。今の二つ名はこの程度か?私の頃はもっと根性があったぞ」
ワイアットが目の前を見るとそこにはショートカットの金髪の背が低い少女が立っていた。
手にはその少女の背丈ほどある銀色の大剣が握ってあった。
「なんだ貴様は……その剣……まさか……」
「お初にお目にかかる。私は聖騎士団団長ノア・ノアール。貴様の非道もここまでだ。我が聖剣ライト・ウィングのサビとなるがいい」
ノアは数メートル先に立つ黒騎士を睨む。
ノアから放たれた圧力はワイアットすら今まで見たのとが無いほどだった。
黒騎士はゆっくり左腰にショートソードを構え、それを見たノアも銀色の大剣を前に構えた。
0
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!
【禁術の魔法】騎士団試験から始まるバトルファンタジー
浜風 帆
ファンタジー
辺境の地からやって来たレイ。まだ少し幼なさの残る顔立ちながら、鍛え上げられた体と身のこなしからは剣術を修練して来た者の姿勢が窺えた。要塞都市シエンナにある国境の街道を守る騎士団。そのシエンナ騎士団に入るため、ここ要塞都市シエンナまでやってきたのだが、そこには入団試験があり……
ハイファンタジー X バトルアクション X 恋愛 X ヒューマンドラマ
第5章完結です。
是非、おすすめ登録を。
応援いただけると嬉しいです。
転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!
ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生!
せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい!
魔法アリなら色んなことが出来るよね。
無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。
第一巻 2022年9月発売
第二巻 2023年4月下旬発売
第三巻 2023年9月下旬発売
※※※スピンオフ作品始めました※※※
おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~
火駆闘戯 第一部
高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。
それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。
人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。
焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。
タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる