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水の国編

悪の動機

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アルフィス、メルティーナ、ロールの三人は中央へ戻っていた。
ミルア村の一件から二日経ったが、村で出会った小柄の医者とジレンマと呼ばれた大男の所在は謎だった。
リヴォルグからの指示でセントラルには検問を張らせている。

アルフィス、ロールの二人はリヴォルグの書斎にいた。
流石に今回の一件は只事ではない。
それは村の被害とセシリアの負傷が物語っていた。

「やはり黒い薬を売って歩いてる人間がいるようだな。しかもその医者の護衛の男……ジレンマと言ったか?セシリアをあそこまで負傷させるとは……」

「魔石を使って、全ての属性を使いこなしてました……火の魔石を飛び道具にしたり、風の魔石で吹き飛ばして間合いをとったり、水の魔石で炎を消したり、土の魔石で盾を作ったり……」

ロールはジレンマの戦い方を覚えているだけリヴォルグに伝えた。
そんなジレンマと戦闘したセシリアは肋骨が何本か折れ、喉も少し負傷しており、中央にある病院に入院中だった。

「その話しだと、そのジレンマという男はどの属性の魔法使いなのかわからないな……それか魔法使いではないか」

「魔法使いじゃない?どういうことだ?」

「自分の属性を隠す理由が思い当たらないんだよ。特に顔を隠すわけでもない人間が属性を隠したところで何の意味もない。なら考えられるのは魔法使いではないということだ」

この世界の男性は大体魔法使いになり、その中でも貴族が多い。
だが平民でも魔力は低いが男性は属性を持っているし魔法は使える。
魔石の火力なんて大したことがないのにも関わらず魔法を使わずに、それを戦闘に使うなんて、この世界の男性としてはありえなかった。

「もしくは魔法が使えないかだな」

「男で魔法が使えないって、そんな人間いないと思いますが……」

「それがいるんだよ。どちらも稀だがね」

いるということにアルフィスもロールも驚くが、さらに"どちらも"ということは2パターンあるということだった。

「一つ目は転生者のパターンだ」

「転生者?」

ロールは転生者という言葉を聞いたことがなかったので首を傾げていた。
アルフィスが若干しどろもどろする。
なにせ自分がその転生者だったからだ。

「転生者は他の世界からそのまま肉体ごとこの世界にやってくるから魔力を持っていない」

「へ、へー」

アルフィスは考えていた。
そういえば自分は転生者だが魔力があるのは"アルフィス・ハートル"の体だからだった。
そして転生者は自分と違って肉体ごとこちらに来ている者も存在していることに驚いた。

「だが、セシリアの話しだとジレンマの戦い方は、とある転生者が使っていたと言っていたそうだ。転生者のことを"他の世界からの来訪者"と語っていたそうだからジレンマは転生者ではない」

「確かにそうなりますね……」

「で?もう一つの方はなんなんだ?」

リヴォルグは少し口籠った。
残る可能性はこれしかなかったが、リヴォルグですら半信半疑だった。

「ジレンマという男は恐らく魔人だ」

「はぁ?」

アルフィスとロールが驚く。
それもそうだった。
魔人とはこの世界古来より人型で真っ黒、ほとんどの場合顔がない化け物だ。
だがジレンマという大男は会話も成り立つし、見た目は完全に人間だった。

「魔人は魔力が無い。これは水の王から聞いた話しだから間違いはないだろう。気になったのはジレンマという男の身体能力だ。聖騎士や魔法使いでもアルフィス君の拳をまともに受けて平然と立てる人間はまず存在しない」

「確かに……俺は完全に胸骨を砕いた。感触もあったし、さらに燃やしたんだ……俺はてっきり補助魔法を自分に掛けてると思っていたが」

「だ、だけど、魔人ならアンチマジックがあるからアルフィスの魔法が無効化されるはず……なんで解除されなかったんだ?」

もしジレンマが魔人だとするなら、魔人特有の瘴気のようなエンブレムが無かったのは気になるところだった。

「それはわからない。もしかしたら聖騎士のエンブレムのように任意で発動させることができるのかもしれない。それか完全人型の魔人には備わっていないか……」

「俺の勘だが、あいつはまだ何か隠してる気がした。なんなのかは分からないがな」

リヴォルグはそれを聞いて考えていた。
意思疎通ができる魔人が本当に存在するのだとすれば早めに対処しなければいけないだろう。
さらにアルフィスの言う通り、さらに何か隠しているとするのであればなおさら危険だった。

「……でもそんな強敵と戦ったのに手がかりが何も無いなんて……また調べ直しかぁ」

「そうでもないさ。もしジレンマが魔人だとするならば、一つ仮説が成り立つ」

「仮説?なんだよそれ」

「黒い薬は意思疎通ができる魔人を生み出すためのもの、というのはどうだろう?」

アルフィスとロールは再度驚く。
そんな薬が出回ってしまったら、そこらじゅうに魔人が生まれてしまうことになる。

「少し前に土の国にいる知人から手紙が来た。"この国で妙な薬を飲んで魔人化した人間がいる"と」

「おいおい、じゃあアインの妹は……」

「黒い薬を飲んだサーシャは一度死んで再度目覚めたと聞いたが、確かその時に"ここは暑い"と言ったんだったな?」

ロールは完全に言葉を失っていた。
もしかすると人間のサーシャは死んで、魔人のサーシャが生まれたということなのだろうか。

「だが、それがどうしてスペルシア家とローズガーデン家を潰す話に繋がるんだ?」

「……それは目的が真逆だからだろうな」

「どういう意味だ?」

「ローズガーデン家とスペルシア家は医療都市ダイナ・ロアに多額の資金援助をしているんだ」

アルフィスは首を傾げたが、ロールはその動機に気づいてしまった。

「医療都市ダイナ・ロアは魔人を人に戻す薬を開発している。逆にジレンマ達は人を魔人に変える薬を開発している」

「ま、魔人を元に戻す薬なんて作られたら、目的が達成できないから……」

「彼らの真の目的がなんなのかはわからないが、彼らにとって私達ほど邪魔な家柄はないだろうね」

ジレンマ達の目的が何にせよ、もし彼が黒い薬で生まれた魔人で、その薬をばら撒きたいとするならば、この思考は筋が通っているとリヴォルグは考えていた。

「とりあえず二人はここから少し北にある町ライデュスへ行ってくれ。この町ではグイン村同様に薬が無い状態だ。先にグレイを行かせてあるから手伝ってやってくれ」

「正気か?犯人かもしれないやつを助けるのか?さっさと捕まえた方がいいだろ」

「疑わしい人間は近くに置いた方がいいのさ。どちらにせよただ指示を受けてるだけで、黒幕はもっと上にいそうだからね。欲を言えばそこまで辿り着きたいのさ」

内通者がセシリアかグレイかはまだはっきりとわからないが、リヴォルグはこの機会を逃す手は無いと思っている。
そして、この重大使命をアルフィスとロールが背負っていた。
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