4 / 200
魔法学校編
この世界と黒猫と取引と
しおりを挟む
火の国 ロゼ
港町べルート
屋敷から港は近かった。
俺はなにかムシャクシャしたらすぐにこの場所に足を運んだ。
アルフィス・ハートルになってから半年。
嫌なことだらけだ。
だが海を見ていると嫌なことは、だいたい忘れられた。
昔は周りの人間や物に当たり散らしたが、この弱々しい体だとそれはできない。
「スキルは俺のせいじゃないだろ」
愚痴を言っても何も解決しないことはわかってる。
だが、自分の弱さと周りの環境が思いのほか俺を追い詰めていた。
転生したのはいいが、転生先が底辺魔力で下級貴族とは泣けてくる。
「やぁ、こんにちわ、こうやって会うのは初めてだね」
不意に後ろから話しかけられる。
驚いてパッと振り向くいても誰もいない。
いるのは一匹の黒猫だけだった。
「猫は喋らないよな……」
「確かに、喋る猫はこの世界で僕だけかもね」
猫が喋っている。
でももう俺は驚かなかった。
魔力やら魔法やらスキルやらで十分過ぎるほど驚いたからだ。
魔法があるなら喋る猫くらいいてもおかしくない。
「あんまり驚かないんだね」
「喋る猫どころじゃないんだよ。俺は忙しいの。あっちいけ、しっしっ!」
「酷い扱いだなぁ。僕の体なんだし、少しくらい話をしてもいいでしょう」
今なんて言った?
"僕の体"?
「お前まさかアルフィス・ハートル?」
「はじめましてホウジョウシンゴ」
俺は目の前の猫を掴んで揺さぶった。
「お前なんで、こんなクソスキル埋め込みやがったんだよ!てめぇのオヤジに殴られたんだぞ!」
「うあー。頼むから落ち着いてくれー」
俺は黒猫を持ったまま睨みを効かせる。
こいつのせいで嫌なことばっかりだ。
「俺をこの世界に連れてきたことはもうどうでもいい、だが俺は人の補助なんてしたくねぇぞ!」
こいつのオヤジからも『人のサポートだけさせるために魔法を学ばせてるわけじゃない!』って殴られた。
「いいから下ろしてくれ、話はそれからだ」
俺は渋々、猫を下ろしてやった。
なにか変なことを言うもんならまた掴んでやろうと気を張る。
「僕はね、この世界で強くなりたかったんだ、そして母上を救う」
「どういうことだ?」
「母上の病は治らない。この火の国の医療技術だとね」
確かにこの国は日本の医療とは全く違う。
変な薬草を調合して飲んだり、塗ったりした。
俺が見るに自己満足に見えた。
「姉様は母上に興味がない。妹は母上を助けたくて薬学を学んでいるけど、いくら学んでもこの火の国の医療だと治せない」
「だったらどうしようもねぇじゃねぇか」
「そこで僕が強くなる事にした」
いやいや、こんな貧弱な体で魔力も無くてどうやってこの世界で強くなるっていうんだ。
そもそも補助魔法しか使えないのに。
他人をサポートしても自分が強くなるわけじゃない。
「強くなるってもどうやってだよ。魔力も無ければ、サポート全振りのスキル構成だし」
「他人の補助なんてしないさ、魔法は全部自分使うんだよ」
「は?」
「もう実験済みなんだ。ここで取引しよう」
なかなか話がきな臭くなってきたが、この猫から真剣さが伝わる。
本当に母親を救いたいと思っている。
俺は自分の母親をふと思い出していた。
「この世界での強さは魔力では決まらない。魔法とスキルの組み合わせ次第でどうにでもなる。そしてこのスキル構成が最も今の自分を強くする最高の組み合わせなのさ」
「なるほど、で、取引内容ってなんなんだ?」
「僕の母上を助けるために、15歳になったらセントラルの魔法学校に入って学位を取る。そして水の国の最北端にある医療機関から薬を持ってきてもらう。これが僕からの取引さ」
「なかなかめんどくさいな。なんで学位がいるんだよ」
「国境を跨ぐには資格がいるのさ、その最も簡単に取れる資格が学位なんだ。3年あれば卒業だからね」
なるほど。18歳になれば行けるのか。
「それはいいけど、俺にはなんの得があるんだ?」
「君は強い人と戦いたいんだよね?セントラルにはうじゃうじゃいるし、条件さえ満たせば、火の王にも挑める。そのチャンスを僕は君に与える」
なるほど、確かに強いやつと戦えるなら行ってやってもいい。
強くなる可能性があるならなおさらだ。
前の世界ではできなかったことを、この世界ではできるのだ。
「その火の王ってやつは強いのか?」
「まぁこの世界だと……最強かな?それぞれ四つの国にはそれぞれ王がいる。四属性王って呼ばれてて、恐らくその中で火の王が最も強い」
俺はその火の王に断然興味が湧いた。
そんなに強いなら戦ってみたい。
「強さとしては、セントラルにいる聖騎士が全員で戦っても数分で灰にされるくらいの強さだよ」
なんだそれは異次元な強さじゃないか……
聖騎士ってのがどれだけ強いかわからないし、何人いるのかわからないが、"灰にされる"という言葉でだけで一瞬血の気が引いた。
こんなことは初めてだ。
「王を倒せば王位に付けるのさ。だから挑む者は多いよ。でも言っといてなんだけど、王と戦うのはやめた方がいいと思うよ」
「どうしてだよ?」
俺はすぐに聞き返した。
ここまで話しといて辞めといたほうがいいとはどう言うことか?
「なにせ四属性王は王位に付いてから、この二千年間、誰一人として入れ替わってないからね」
俺はその言葉を聞いた瞬間、今までないような胸の高鳴りを感じた。
そして俺は生まれて初めて猫と握手した。
港町べルート
屋敷から港は近かった。
俺はなにかムシャクシャしたらすぐにこの場所に足を運んだ。
アルフィス・ハートルになってから半年。
嫌なことだらけだ。
だが海を見ていると嫌なことは、だいたい忘れられた。
昔は周りの人間や物に当たり散らしたが、この弱々しい体だとそれはできない。
「スキルは俺のせいじゃないだろ」
愚痴を言っても何も解決しないことはわかってる。
だが、自分の弱さと周りの環境が思いのほか俺を追い詰めていた。
転生したのはいいが、転生先が底辺魔力で下級貴族とは泣けてくる。
「やぁ、こんにちわ、こうやって会うのは初めてだね」
不意に後ろから話しかけられる。
驚いてパッと振り向くいても誰もいない。
いるのは一匹の黒猫だけだった。
「猫は喋らないよな……」
「確かに、喋る猫はこの世界で僕だけかもね」
猫が喋っている。
でももう俺は驚かなかった。
魔力やら魔法やらスキルやらで十分過ぎるほど驚いたからだ。
魔法があるなら喋る猫くらいいてもおかしくない。
「あんまり驚かないんだね」
「喋る猫どころじゃないんだよ。俺は忙しいの。あっちいけ、しっしっ!」
「酷い扱いだなぁ。僕の体なんだし、少しくらい話をしてもいいでしょう」
今なんて言った?
"僕の体"?
「お前まさかアルフィス・ハートル?」
「はじめましてホウジョウシンゴ」
俺は目の前の猫を掴んで揺さぶった。
「お前なんで、こんなクソスキル埋め込みやがったんだよ!てめぇのオヤジに殴られたんだぞ!」
「うあー。頼むから落ち着いてくれー」
俺は黒猫を持ったまま睨みを効かせる。
こいつのせいで嫌なことばっかりだ。
「俺をこの世界に連れてきたことはもうどうでもいい、だが俺は人の補助なんてしたくねぇぞ!」
こいつのオヤジからも『人のサポートだけさせるために魔法を学ばせてるわけじゃない!』って殴られた。
「いいから下ろしてくれ、話はそれからだ」
俺は渋々、猫を下ろしてやった。
なにか変なことを言うもんならまた掴んでやろうと気を張る。
「僕はね、この世界で強くなりたかったんだ、そして母上を救う」
「どういうことだ?」
「母上の病は治らない。この火の国の医療技術だとね」
確かにこの国は日本の医療とは全く違う。
変な薬草を調合して飲んだり、塗ったりした。
俺が見るに自己満足に見えた。
「姉様は母上に興味がない。妹は母上を助けたくて薬学を学んでいるけど、いくら学んでもこの火の国の医療だと治せない」
「だったらどうしようもねぇじゃねぇか」
「そこで僕が強くなる事にした」
いやいや、こんな貧弱な体で魔力も無くてどうやってこの世界で強くなるっていうんだ。
そもそも補助魔法しか使えないのに。
他人をサポートしても自分が強くなるわけじゃない。
「強くなるってもどうやってだよ。魔力も無ければ、サポート全振りのスキル構成だし」
「他人の補助なんてしないさ、魔法は全部自分使うんだよ」
「は?」
「もう実験済みなんだ。ここで取引しよう」
なかなか話がきな臭くなってきたが、この猫から真剣さが伝わる。
本当に母親を救いたいと思っている。
俺は自分の母親をふと思い出していた。
「この世界での強さは魔力では決まらない。魔法とスキルの組み合わせ次第でどうにでもなる。そしてこのスキル構成が最も今の自分を強くする最高の組み合わせなのさ」
「なるほど、で、取引内容ってなんなんだ?」
「僕の母上を助けるために、15歳になったらセントラルの魔法学校に入って学位を取る。そして水の国の最北端にある医療機関から薬を持ってきてもらう。これが僕からの取引さ」
「なかなかめんどくさいな。なんで学位がいるんだよ」
「国境を跨ぐには資格がいるのさ、その最も簡単に取れる資格が学位なんだ。3年あれば卒業だからね」
なるほど。18歳になれば行けるのか。
「それはいいけど、俺にはなんの得があるんだ?」
「君は強い人と戦いたいんだよね?セントラルにはうじゃうじゃいるし、条件さえ満たせば、火の王にも挑める。そのチャンスを僕は君に与える」
なるほど、確かに強いやつと戦えるなら行ってやってもいい。
強くなる可能性があるならなおさらだ。
前の世界ではできなかったことを、この世界ではできるのだ。
「その火の王ってやつは強いのか?」
「まぁこの世界だと……最強かな?それぞれ四つの国にはそれぞれ王がいる。四属性王って呼ばれてて、恐らくその中で火の王が最も強い」
俺はその火の王に断然興味が湧いた。
そんなに強いなら戦ってみたい。
「強さとしては、セントラルにいる聖騎士が全員で戦っても数分で灰にされるくらいの強さだよ」
なんだそれは異次元な強さじゃないか……
聖騎士ってのがどれだけ強いかわからないし、何人いるのかわからないが、"灰にされる"という言葉でだけで一瞬血の気が引いた。
こんなことは初めてだ。
「王を倒せば王位に付けるのさ。だから挑む者は多いよ。でも言っといてなんだけど、王と戦うのはやめた方がいいと思うよ」
「どうしてだよ?」
俺はすぐに聞き返した。
ここまで話しといて辞めといたほうがいいとはどう言うことか?
「なにせ四属性王は王位に付いてから、この二千年間、誰一人として入れ替わってないからね」
俺はその言葉を聞いた瞬間、今までないような胸の高鳴りを感じた。
そして俺は生まれて初めて猫と握手した。
0
お気に入りに追加
430
あなたにおすすめの小説
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
白の魔女の世界救済譚
月乃彰
ファンタジー
※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。
白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。
しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。
そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる