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第八十二話 わたしの意識はこの世に戻っていく

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わたしの意識は少しずつ戻ってきていた。

フォルテーヌではなく、今この世で生きているフローラリンデとして。

わたしは前世の自分を思い出すことができた。

マロールデックス子爵家令嬢のフォルテーヌとして前世を生きてきたのが、今世で生きているこのわたしフローラリンデ。

前世は存在していたのだし、今世も存在していた。

そして、わたしと来世、つまり、今世での結婚の約束をしていたのが、前世ではオディアン殿下として生きたディックスヴィアン殿下。

殿下が前世での最後に言った、

「わたしは来世で、あなたと結婚することを心から望んでいます。結婚の約束をしたいと思います。よろしくお願いします」

と言う言葉。

今はしっかり思い出している。

しかし、旅の途中で殿下に救けられるまでは、前世での殿下のことを思い出すことはできなかった。

もしルアンソワ様との婚約以前に、前世での殿下のことを思い出せていたのであれば、その婚約はいくら周囲にすすめられても断っていたと思う。

殿下と前世で結婚の約束をしたのだから、きっと今世でも会うことができる。

そして、結婚することができる。

わたしはそう強く思って、殿下と会える日を待ち望んでいたと思う。

しかし、それはできなかった。

わたしは幼い頃から幸せな結婚にあこがれてきた。

いつの日か、わたしと前世もしくはあの世で約束をした人が迎えにきてくれるものと信じていた。

ただ、その約束した人のことを思い出すことはできなかった。

その方が、殿下だということを思い出すことはできなかった。

殿下のことを思い出せなかったわたしは、ルアンソワ様と婚約することになった。

ルアンソワ様が、約束をした方ではないか、という期待があった。

ルアンソワ様に初めて会う時も期待をしていた。

しかし、ルアンソワ様は、約束していた方ではないのでは、と初めて会った時にわたしは思った。

約束をしていた方であれば、会った時にすぐお互いに懐かしく思うという。

そして、強い好意をその場で持ち、そのまま恋にと進んでいくという話を聞いていた。

ルアンソワ様とわたしの間にはそういうものはなかった。

ルアンソワ様に対して、懐かしく思う気持ちは湧いてこなかったし、好意もなかなか湧いてこなかった。

ルアンソワ様の方も、言葉はやさしかったが、わたしにはたいして興味はなさそうだったし、好意も湧いているようには思えなかった。

そこで、一旦は落胆した。

約束をした方でない方と、このまま結婚まで進んでいいものなのだろうか?

婚約を断り、約束した方を待ち続けるべきではないのだろうか?

今思うと待ち続けるべべきだったと思う。

しかし、わたしは、ルアンソワ様との婚約は断れなかった。

家と家のことなので、断ることが難しかったのが一番大きい。

ただ、それだけではなく、ルアンソワ様が約束した方である可能性はまだあるかもしれない、と思っていたところも大きいと思う。

婚約まで進んでいるということは、約束をしたからではないのだろうか?

今ルアンソワ様とわたしが、お互いを懐かしく思うことができなかったり、好意がなかなか湧いてこないのは、会ってから間もないからで、二人でこれから一緒にいることが多くなれば、約束を思い出し、親密になっていけるのでは?

そう思ったわたしは、心を切り替え、婚約したからには、ルアンソワ様を愛し、公爵家の夫人にふさわしい女性になろうと一生懸命努力した。
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