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第七十六話 わたしの前世・殿下のお願い

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「フォルテーヌさん。あなたにお願いをしたいことがあります」

殿下は、恥ずかしそうに言った。

わたしにお願いってなんだろう?

もしかして、夜のお相手?

殿下の望みだったら、もちろん承諾しなければならないと思う。

でも心の準備ができているとはいいがたい、

病弱なこともあり、社交的な場には、ほとんど出なかったこともあって、お父様以外の異性の手すらほとんど握ったことはない。

話すらほとんどといっていいほどしていないのだ。

こんなわたしに夜のお相手などできそうもないと思う。

でもせっかくのチャンスではあるし……。

そう思っていると、

「わたしと手紙のやり取りをしませんか、今日一日だけでなく、これからも友人としてお付き合いをしていきたいと思っています」

と殿下は言ってきた。

手紙のやり取り、友人としてのお付き合い……。

夜のお相手の話だと思っていたわたしは、ものすごい恥ずかしさに襲われた。

殿下のような素敵なお方が、恋人でもない女性を求めることなどありえない。

それは心の中では理解していたはずなのに、どうしてそういうことを夢想してしまったのだろうと思う。

ただ少し寂しい気持ちもある。

せっかくこうして出会えたのに、手紙のやり取りしかできない。

もちろん、それだけでも大変名誉なことだ。

普通だったらまずできないことなので、充分満足しなければならないと思う。

でもこうして対面できるのは、今度はいつになるのか予想もつかない。

王太子殿下と子爵家令嬢。

わたしの家は、王太子殿下と結婚できる家柄ではない。

もし殿下がわたしのことを好きになったとしても、この身分の差を乗り越えるのは困難。

そう思うと、せめてここで抱きしめていただけたらという気持ちになってくる。

それならば、恋人どうしでなくても、親しい人たちの間であればすることだと思うので、殿下の方もそれほど抵抗はないはず。

殿下とわたしは出会って間もないけど、前世で出会っているかもしれないという意識が二人ともあるので、すぐに親しくなっていっていると思う。

殿下も、親しくなっているという気持ちがなければ、手紙のやり取りをしたいとは思わないだろう。

それだからこそ、抱きしめていただくことに、少し期待をしたのだけど……。

殿下のやさしい気持ちはもっと味わっていきたい。

しかし、殿下にはそういう気も全くないようだ。

恋人になっていなければ抱きしめてはいけないと思っているのだろうか?

ちょっと堅すぎる気はするけれど、それも殿下の魅力の一つなのかもしれない。

残念な気持ちになってくる。

でももう心を切り替えていく必要がある。

一生懸命手紙を書いていくこと。

それが、わたしがこれから殿下の為にすべきことだ。

そうして手紙のやり取りをして、仲がもっとよくなっていけば、殿下とまた会うことができるかもしれない。

殿下に王宮に招待していただくとか、我が子爵家に立ち寄っていただくということで。

もちろんそれが実現したところで、わたしは殿下の結婚相手にはなりえない。

それでもわたしは、もっと仲良くなって、再会できるものならしたいと思っている。

わたしはそれほど長く生きることはできないと医者に言われている。

短い人生になってしまうけど、残りの人生は、殿下のことを想い生きていきたいと思う。

「もったいないお言葉。殿下のような素敵なお方に言っていただけるなんて、ありがたいと思っています。わたしでよろしければ、よろしくお願いします」

わたしはそう言って頭を下げた。

「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

殿下はとてもうれしそうだった。
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