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第七十一話 ライバルになるかもしれない女性
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わたしが殿下にアプローチするのを躊躇した理由はもう一つある。
それは、新年の初めに開催された舞踏会で、殿下とブリュグランケット公爵家令嬢アンデーデさんがいい雰囲気になったという噂を聞いたことだ。
いい雰囲気ぐらいであればまだよかったのだが、二人はもう付き合っているという噂も、最近になって聞こえてきた。
わたしは気にしないようにしてきた。
気にしている時間があったら、仕事に集中しようと思っていた。
殿下に尽くす為に。
とはいうものの、
「二人はもう付き合っている」
と言われれば、どうしても気になってしまう。
殿下本人に聞くこともできない。
聞くこと自体が失礼なことだと思う。
そうなると、ラディアーヌ様に相談するしかなさそうだ。
ラディアーヌ様とは、定期的にお茶会を行うようになっていたが、三月初旬のその席で、殿下とアンデーデさんとの噂を、ラディアーヌ様の方から話題にしてくれた。
「おにいさまとアンデーデさんとの話は、噂でしかないです。おにいさまは、その方と二月の舞踏会でまた一緒になって、楽しそうに話をしてはいたけれど、付き合ってはいないです。わたしが直接おにいさまに伺ったので。そこは安心していいと思います」
「でもその方は、ダンスもうまくて、ゴージャスな方と伺いました。殿下は興味をもつことはないのでしょうか?」
「興味はもったと思います」
「そうですよね」
「でもそれ以上の想いはないと思います。それに、わたしから、『おにいさまには、フローラリンデさんがいるんだから。今はまだ、ただの側近かもしれないけど。いずれ一番大切な人になると思いますから、浮気はしちゃだめですよ』と言っておきました」
わたしは驚いた。
ラディアーヌ様はそこまでわたしのことを思い、話をしてくれた。
「ありがとうございます。そこまでしていただいて……」
「『フロ-ラリンデさんは、おにいさまのことが好きです』ということも言いたいと思いました。二人の仲を進展させたいという思いは強いので。でもこれはフローラリンデさんが、『言う時は自分から言わせてください』と言っていたので、言いませんでした。わたしとしては残念ですけど」
「ご配慮いただき、ありがとうございます。ただやっぱり、殿下への想いは、もっと強くしていって、自分で伝えるべきだと思っています」
「フローラリンデさん。わたしはそういうあなたが好きですよ。素敵です」
「褒めていただき、ありがとうございます」
「あなたはきっとおにいさまと結婚すると信じています」
ラディアーヌ様は紅茶を飲んだ後、続ける。
「でもアンデーデさんも魅力的ですから、決して油断をしてはいけません。フローラリンデさんの方からおにいさまにアプローチするのが、仲を深めるのに一番いいと思っていますから、そこまであなたの想いが高まることを期待しています」
「なんとか努力していきたいと思います」
「わたしはおにいさまとあなたの仲を応援しています」
と言ってラディアーヌ様は微笑んだ。
ラディアーヌ様と、殿下とアンデーデさんとの噂についての話をして、一旦は心が落ち着く方向に向かっていった。
しかし、一方で、アンデーデさんの方が殿下のお相手にふさわしいのでは、という気持ちも根強い。
魅力的な女性だというし、家柄も申し分ない。
わたしは殿下のことを恋していいのだろうか……。
アンデーデさんが殿下の婚約者になった方がいいのでは……。
そういう気持ちは、どうしてもある。
仕事の忙しさとアンデーデさんのこと。
どちらも、殿下へのアプローチを躊躇させ、わたしを弱気にさせてしまう。
しかし、ラディアーヌ様は応援してくれている。
殿下にアプローチをして、恋人どうしになっていってほしい、という強い思い。
その応援に応えていきたい。
弱気になりそうな気持ちを乗り越えていきたい。
殿下と恋人どうしになっていきたい。
それにはもっと、殿下に対する想いを強く、そして熱くしていく必要がある。
わたしはそう思っていた。
それは、新年の初めに開催された舞踏会で、殿下とブリュグランケット公爵家令嬢アンデーデさんがいい雰囲気になったという噂を聞いたことだ。
いい雰囲気ぐらいであればまだよかったのだが、二人はもう付き合っているという噂も、最近になって聞こえてきた。
わたしは気にしないようにしてきた。
気にしている時間があったら、仕事に集中しようと思っていた。
殿下に尽くす為に。
とはいうものの、
「二人はもう付き合っている」
と言われれば、どうしても気になってしまう。
殿下本人に聞くこともできない。
聞くこと自体が失礼なことだと思う。
そうなると、ラディアーヌ様に相談するしかなさそうだ。
ラディアーヌ様とは、定期的にお茶会を行うようになっていたが、三月初旬のその席で、殿下とアンデーデさんとの噂を、ラディアーヌ様の方から話題にしてくれた。
「おにいさまとアンデーデさんとの話は、噂でしかないです。おにいさまは、その方と二月の舞踏会でまた一緒になって、楽しそうに話をしてはいたけれど、付き合ってはいないです。わたしが直接おにいさまに伺ったので。そこは安心していいと思います」
「でもその方は、ダンスもうまくて、ゴージャスな方と伺いました。殿下は興味をもつことはないのでしょうか?」
「興味はもったと思います」
「そうですよね」
「でもそれ以上の想いはないと思います。それに、わたしから、『おにいさまには、フローラリンデさんがいるんだから。今はまだ、ただの側近かもしれないけど。いずれ一番大切な人になると思いますから、浮気はしちゃだめですよ』と言っておきました」
わたしは驚いた。
ラディアーヌ様はそこまでわたしのことを思い、話をしてくれた。
「ありがとうございます。そこまでしていただいて……」
「『フロ-ラリンデさんは、おにいさまのことが好きです』ということも言いたいと思いました。二人の仲を進展させたいという思いは強いので。でもこれはフローラリンデさんが、『言う時は自分から言わせてください』と言っていたので、言いませんでした。わたしとしては残念ですけど」
「ご配慮いただき、ありがとうございます。ただやっぱり、殿下への想いは、もっと強くしていって、自分で伝えるべきだと思っています」
「フローラリンデさん。わたしはそういうあなたが好きですよ。素敵です」
「褒めていただき、ありがとうございます」
「あなたはきっとおにいさまと結婚すると信じています」
ラディアーヌ様は紅茶を飲んだ後、続ける。
「でもアンデーデさんも魅力的ですから、決して油断をしてはいけません。フローラリンデさんの方からおにいさまにアプローチするのが、仲を深めるのに一番いいと思っていますから、そこまであなたの想いが高まることを期待しています」
「なんとか努力していきたいと思います」
「わたしはおにいさまとあなたの仲を応援しています」
と言ってラディアーヌ様は微笑んだ。
ラディアーヌ様と、殿下とアンデーデさんとの噂についての話をして、一旦は心が落ち着く方向に向かっていった。
しかし、一方で、アンデーデさんの方が殿下のお相手にふさわしいのでは、という気持ちも根強い。
魅力的な女性だというし、家柄も申し分ない。
わたしは殿下のことを恋していいのだろうか……。
アンデーデさんが殿下の婚約者になった方がいいのでは……。
そういう気持ちは、どうしてもある。
仕事の忙しさとアンデーデさんのこと。
どちらも、殿下へのアプローチを躊躇させ、わたしを弱気にさせてしまう。
しかし、ラディアーヌ様は応援してくれている。
殿下にアプローチをして、恋人どうしになっていってほしい、という強い思い。
その応援に応えていきたい。
弱気になりそうな気持ちを乗り越えていきたい。
殿下と恋人どうしになっていきたい。
それにはもっと、殿下に対する想いを強く、そして熱くしていく必要がある。
わたしはそう思っていた。
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