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第六十二話 わたしは間に合わない (ルアンソワサイド)
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イレーレナ。
わたしは、彼女を愛していた。
二週間ほどは楽しい日々を過ごすことができた。
相性がいいと思っていたので、予定通り一年程度は仲良くやっていけると思っていた。
しかし……。
婚約破棄をしてから二週間が経った頃から、関係に変化が出始めた。
イレーレナは、わたしに従順だったはずだった。
わたしに要求することなど、まずなかった。
それが、ライバルがいなくなって安心したのか、わたしにおねだりをするようになった。
豪華なドレス、豪華な食事、豪華な贈り物。
その要求はだんだんエスカレートするようになっていった。
その要求を満たさないと、
「わたしはルアンソワ様のことが大好きなのに、なぜおねだりを聞いてくださらないのですか? こんなに冷たいお方とは思いませんでした」
と嫌味を言ってくる。
わたしへの従順さはもうそこにはない。
いくらゴージャスな女性が好きなわたしとは言っても、だんだん嫌になってくる。
そして、態度も傲慢さがあふれるようになってきた。
公爵家のものたちに対して、尊重をする気は全くない。
それどころか、嫌味を言って、気分を悪くさせている。
最近は、わたしの方に、イレーレナについての苦情がくるようになって、わずらわしくなってきている。
フローラリンデはそうではなかった。
公爵家のものたちによく気を使ってくれていた。
やさしさがあった。。
わたしはそれに対し、必ずしもいい気持ちはしていなかったが、イレーレナの傲慢さと比べるとフローラリンデの方がよかったと思わざるをえない。
わたしに従順でゴージャスな女性というイメージは、こうして壊れていった。
まだ二人だけの世界に入ってはいるが、その魅力もだんだん薄れてきている。
婚約を破棄した日は、正式に婚約をしてもいいと思うぐらい、心が熱くなった。
その心の熱さも、だんだんなくなってきている。
今思えば、なぜイレーレナに婚約すると言ってしまったのだろう。
イレーレナは、
「正式な婚約はいつするのですか?」
と毎日のように迫ってくる。
イレーレナはわたしと正式な婚約をしたくてたまらないようだ。
それがわたしに対する愛ならまだいいと思っていた。
しかし、おねだりをどんどんしてくるということは、ただ贅沢をしたいだけではないのだろうか、という気がしてくる。
そう思い出したのも、イレーレナから心が離れていく一つの要因になっていた。
もう今は、正式な婚約をする気はなくなってきている。
そして、イレーレナのことを嫌いになり始めていて、別れた方がいいのでは、という気持ちも少しずつ湧き始めていた。
それにしても、イレーレナと婚約破棄をしてから、二つも大きな悩みを抱えることになるとは、全く想定をしていなかったことだ。
せっかく、イレーレナとの楽しい生活が続くと思っていたのに、それがもう壊れ始めようとしている。
領民の反乱の可能性と傲慢なイレーレナ。
どちらも悩ましい問題だ。
心がどんどん痛くなってくる。
フローラリンデが婚約者のままだったら、こういう悩みはなかったのに。
悩みどころか、わたしを支えてくれて、わたしの評判を高くしてくれただろうに……。
リランテーヌ子爵家の方も厳しい状況になっている。
フローラリンデの継母と異母姉は対立し、主導権争いをしていた。
子爵家の人々は、どちらかの勢力についていたのだが、もともとは争いが少なかった家だったので、この状況が嫌になる人々も次第に増えてきていた。
「フローラリンデ様が健在なら、こんなことにはならなかったのに。どうして子爵家を追放されなければならなかったのだろう。お元気でいらっしゃるなら、今からでも戻ってきてほしい」
そう思う人々が増えてきていた。
また領民の間でも、
「お嬢様はお父上と一緒に、この領地を豊かにしてきた。それなのに追放するなんて……。誰が主導権を握っても、お嬢様のようないい政治はできない。お嬢様に戻ってきてほしい」
という、フローラリンデを待望する声が高まっているとのこと。
継母も異母姉も、自分たちの勢力争いでも疲れてきているのに、領民への対応もしなければならないので、対応に困っていて、苦しんでいるという。
そして、
「フローラリンデを追放したのは間違いではなかったのだろうか?」
と二人とも言っているという。
こうした子爵家の現状の話はわたしに伝わってきた。
でもどうでもいい話だ。
わたしには関係のないことだ。
どうなろうと、わたしは別に苦しむわけではない。
そう思っていた。
しかし……。
この話は、伝わった公爵家の領民たちに、ますます反乱する方向への力を与えることになった。
「お嬢様は子爵家の領民たちにも慕われていた。そのお嬢様との婚約を破棄したら、お嬢様は子爵家を追放され、その後、子爵家は内紛で苦しいことになった。酷いお方だと思う。公爵家や公爵家の領民だけでなく、子爵家や子爵家の領民にも迷惑をかけるとは……」
公爵家の領民の間ではそういう声が大きくなり、公爵家の内部でもそう言っているものが出てきているとのこと。
子爵家の内紛がこういう形で影響してくるとは……。
婚約を破棄したのは、間違いだったのかもしれない。
そういう気持ちが大きくなり始めていた。
しかし、もしもう一度婚約しようとしても、フローラリンデは子爵家を追放され、行方がわからない。
それに、あれだけの仕打ちをしてしまったのだから、もしまた会うことができて、もう一度婚約することをお願いしたとしても、受け入れるとは思えない。
わたしが今から、フローラリンデのことを大切に思ったとしても、もう間に合わないということだろう。
ああ、つらい。苦しさがどんどん増してきている。
食欲がだんだんなくなってきていて、気力もなくなってきている。
何とかこのつらさと苦しみから脱出したい。
わたしは強く思うのだった。
わたしは、彼女を愛していた。
二週間ほどは楽しい日々を過ごすことができた。
相性がいいと思っていたので、予定通り一年程度は仲良くやっていけると思っていた。
しかし……。
婚約破棄をしてから二週間が経った頃から、関係に変化が出始めた。
イレーレナは、わたしに従順だったはずだった。
わたしに要求することなど、まずなかった。
それが、ライバルがいなくなって安心したのか、わたしにおねだりをするようになった。
豪華なドレス、豪華な食事、豪華な贈り物。
その要求はだんだんエスカレートするようになっていった。
その要求を満たさないと、
「わたしはルアンソワ様のことが大好きなのに、なぜおねだりを聞いてくださらないのですか? こんなに冷たいお方とは思いませんでした」
と嫌味を言ってくる。
わたしへの従順さはもうそこにはない。
いくらゴージャスな女性が好きなわたしとは言っても、だんだん嫌になってくる。
そして、態度も傲慢さがあふれるようになってきた。
公爵家のものたちに対して、尊重をする気は全くない。
それどころか、嫌味を言って、気分を悪くさせている。
最近は、わたしの方に、イレーレナについての苦情がくるようになって、わずらわしくなってきている。
フローラリンデはそうではなかった。
公爵家のものたちによく気を使ってくれていた。
やさしさがあった。。
わたしはそれに対し、必ずしもいい気持ちはしていなかったが、イレーレナの傲慢さと比べるとフローラリンデの方がよかったと思わざるをえない。
わたしに従順でゴージャスな女性というイメージは、こうして壊れていった。
まだ二人だけの世界に入ってはいるが、その魅力もだんだん薄れてきている。
婚約を破棄した日は、正式に婚約をしてもいいと思うぐらい、心が熱くなった。
その心の熱さも、だんだんなくなってきている。
今思えば、なぜイレーレナに婚約すると言ってしまったのだろう。
イレーレナは、
「正式な婚約はいつするのですか?」
と毎日のように迫ってくる。
イレーレナはわたしと正式な婚約をしたくてたまらないようだ。
それがわたしに対する愛ならまだいいと思っていた。
しかし、おねだりをどんどんしてくるということは、ただ贅沢をしたいだけではないのだろうか、という気がしてくる。
そう思い出したのも、イレーレナから心が離れていく一つの要因になっていた。
もう今は、正式な婚約をする気はなくなってきている。
そして、イレーレナのことを嫌いになり始めていて、別れた方がいいのでは、という気持ちも少しずつ湧き始めていた。
それにしても、イレーレナと婚約破棄をしてから、二つも大きな悩みを抱えることになるとは、全く想定をしていなかったことだ。
せっかく、イレーレナとの楽しい生活が続くと思っていたのに、それがもう壊れ始めようとしている。
領民の反乱の可能性と傲慢なイレーレナ。
どちらも悩ましい問題だ。
心がどんどん痛くなってくる。
フローラリンデが婚約者のままだったら、こういう悩みはなかったのに。
悩みどころか、わたしを支えてくれて、わたしの評判を高くしてくれただろうに……。
リランテーヌ子爵家の方も厳しい状況になっている。
フローラリンデの継母と異母姉は対立し、主導権争いをしていた。
子爵家の人々は、どちらかの勢力についていたのだが、もともとは争いが少なかった家だったので、この状況が嫌になる人々も次第に増えてきていた。
「フローラリンデ様が健在なら、こんなことにはならなかったのに。どうして子爵家を追放されなければならなかったのだろう。お元気でいらっしゃるなら、今からでも戻ってきてほしい」
そう思う人々が増えてきていた。
また領民の間でも、
「お嬢様はお父上と一緒に、この領地を豊かにしてきた。それなのに追放するなんて……。誰が主導権を握っても、お嬢様のようないい政治はできない。お嬢様に戻ってきてほしい」
という、フローラリンデを待望する声が高まっているとのこと。
継母も異母姉も、自分たちの勢力争いでも疲れてきているのに、領民への対応もしなければならないので、対応に困っていて、苦しんでいるという。
そして、
「フローラリンデを追放したのは間違いではなかったのだろうか?」
と二人とも言っているという。
こうした子爵家の現状の話はわたしに伝わってきた。
でもどうでもいい話だ。
わたしには関係のないことだ。
どうなろうと、わたしは別に苦しむわけではない。
そう思っていた。
しかし……。
この話は、伝わった公爵家の領民たちに、ますます反乱する方向への力を与えることになった。
「お嬢様は子爵家の領民たちにも慕われていた。そのお嬢様との婚約を破棄したら、お嬢様は子爵家を追放され、その後、子爵家は内紛で苦しいことになった。酷いお方だと思う。公爵家や公爵家の領民だけでなく、子爵家や子爵家の領民にも迷惑をかけるとは……」
公爵家の領民の間ではそういう声が大きくなり、公爵家の内部でもそう言っているものが出てきているとのこと。
子爵家の内紛がこういう形で影響してくるとは……。
婚約を破棄したのは、間違いだったのかもしれない。
そういう気持ちが大きくなり始めていた。
しかし、もしもう一度婚約しようとしても、フローラリンデは子爵家を追放され、行方がわからない。
それに、あれだけの仕打ちをしてしまったのだから、もしまた会うことができて、もう一度婚約することをお願いしたとしても、受け入れるとは思えない。
わたしが今から、フローラリンデのことを大切に思ったとしても、もう間に合わないということだろう。
ああ、つらい。苦しさがどんどん増してきている。
食欲がだんだんなくなってきていて、気力もなくなってきている。
何とかこのつらさと苦しみから脱出したい。
わたしは強く思うのだった。
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