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第三十九話 このままでは前世と同じになってしまう

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 高校二年生の始業式の日。

 桜が満開になったこの日。

 俺は乃百合さんにあいさつをすることができた。

 これは大きな一歩だと思った。

 そして、前世とは違う人生を進み始めたと思っていた。

 しかし……。

 乃百合さんとは、それから一向に話をすることができない。

 それどころか、いつも席の周辺には仲の良い女の子たちが集まってきて、近づくことすら難しい状態。

 前世と同じく、人気が高いのだ。

 せっかく始業式の段階で、少し乃百合さんに意識をしてもらったのに、このままでは意識がほとんどされない状態に戻ってしまう。

 前世では、それでも六月の上旬になって、乃百合さんの方からあいさつをしてきた。

 しかし、今世でも同じ状況になるとはいえないかもしれない。

 もし、あいさつされなければ、それこそ何のつながりもないまま夏休みを迎えてしまう可能性だってある。

 あまり思いたくないことだが、前世と同じように推移する場合、九月にはこの世を去ってしまうことも十分可能性としてはあるだろう。

 前世では俺に好意を持っていたということだが、このままだとその好意もほとんどないままになってしまう。

 そうなれば、俺は前世での失敗を繰り返すどころか、より大きい失敗をすることになる。

 なんとかしなければ……。

 俺は六月に入るまでの間、乃百合さんになんとかアプローチをしようとした。

 告白まではまだ心の準備ができないので、せめてあいさつだけでも、と思ったのだ。

 しかし、それさえもできない。

 勇気を振り絞って、乃百合さんの近くまで行くのだが、声が出てこない。

 いつも恥ずかしさが急激に襲ってくる。

 その度に、自分の席の方に戻ってしまうのだ。

 恥ずかしさだけではない。

 すのなさんに振られた打撃はまだまだ残っていて、その時のつらさ苦しさが心の中に浮かんできてしまう。

 俺は乃百合さんと仲良くなりたい。

 でも乃百合さんが俺に好意を持っていたとしても、それは友達としてではないだろうか?

 前世でも俺と瑳百合さんは付き合っていたわけではない。

 友達にさえもなっていない。

 俺が恋人になりたいと思っても、乃百合さんの方にその意志がなければ、恋人どうしにはなることができない。

 いずれ、乃百合さんに恋人ができて、また俺がつらい思いをするだけでは?

 今までの人生も、すべてが前世と同じだったわけではない。

 乃百合さんに恋人ができる可能性だってないとはいえない。

 生まれてからずっと恋人がいなかった乃百合さん。

 しかし、乃百合さんに告白する男の人たちは、どんどん増えてきている。

 その中には、魅力にあふれている人もいるだろう。

 そういう人に告白されたら、付き合うことを了承し、恋人どうしになっていくことも十分予想できることだ。

 乃百合さんに振られた時、大きな打撃を受けた俺。

 まだまだその打撃から立ち直ってはいない状態といっていい。

 乃百合さんに恋人ができた時は、それ以上の打撃を受けるかもしれない。

 それは避けたいと思っている。

 それにはこのままアプローチはせず、ただの同級生のままで過ごした方がいいのでは……。

 その思いも、俺が乃百合さんにアプローチするのを思いとどまる理由の一つになっていた。
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