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第三十七話 好きだと言えないわたし (寿々子サイド)

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三月中旬。

少しずつ暖かくなってきて、もう少しで桜が咲きそうになってきた頃。

放課後。

いつものように、わたしはりなこちゃんと一緒にお茶をしていた。

「寿々子ちゃん、そろそろ海春くんに告白した方がいいんじゃない?」

りなこちゃんがそう言う。

「そろそろかなあ……」

「以前は、幼馴染としての海春くんが好きだったと思うけど、今はもうその想いが強くなって、恋している状態だと思う。そうでしょう?」

わたしは、今年に入ってからも海春くんとは満足に話をしていない。

しかし、わたしの中では、海春くんの存在が日ごとに大きくなってきていた、

去年の十月上旬に、海春くんから言われた優しい言葉。

その言葉がわたしを恋の方向へ導き出している。

特にこの三月になってからは、彼のことを想う度に、胸が熱くなっていた。

わたしは海春くんが好き。もう幼馴染としてではない。一人の男の子として海春くんが好き。

告白して、相思相愛になって、婚約をする。

そして、結婚をする。

でも、それにはわたしが海春くんに告白をしなければならない。

彼の方から告白してくることはまずなさそうだからだ。

とはいうものの、告白する勇気まではまだ出てこない。

高校卒業まで後二年ほどあるとはいえ、こんな調子では、告白できないままになってしまうかもしれない。

それは避けたい。

恋人どうしになるのが遅れれば遅れるほど、高校生での恋人どうしでいられる時間が少なくなる。そういう時間は無駄にしたくない。

そう思ってはいるのだけど……。

最近のわたしは、なんとかして告白する勇気を出そうとしているところだった。

「わたし、告白したいとは思っている。その気持ちはどんどん強くなってきている」

「それなら三学期中に告白するのがいいと思う」

「でも最近彼の前に行くと、恥ずかしくなっちゃって。告白なんてできそうもない気がする。彼の方から告白してきてくれれば、それが一番いいんだけど」

「その気持ちはわからなくはないんだけど。でも無理そうなんでしょう?」

「海春くん、わたしの気持ちに気づいていないから。わたしが海春くんのことを恋の対象として想っていることに気づいていないから。だからわたしの方から想いを伝えるしかないの。そこのところはよく理解しているんだけど……」

「でもこのままじゃ、他の子に告白されちゃうわよ。最近、何人かの女の子が彼のこと恋し始めているようだから」

「そういう子が出てきているの?」

「そうよ。今までは好意を持っていたところまでだったんだけど、それ以上の想いを持っている子が出てきているようだわ」

「それは困るわ」

「まあ告白されるだけだったら、まだいいんだけど。告白してきた子が好みのタイプだったら、彼はその告白を受け入れることもあると思う。そうなると、二人は恋人どうしになってしまう。恋人どうしになってしまったら、海春くんを寿々子ちゃんの方へ振り向かせるのは、なかなか難しいことになってしまうと思う」

「そうなってほしくない」

海春くんが、他の女の子と付き合っているところを想像するだけでも、つらい気持ちになる。

「そうでしょう。だったら、彼のことを好きな子たちが告白する前に、告白しないと。春休み前がいいと思うけど、遅くとも四月上旬までにはした方がいいと思う」

「もう告白すべきところに来ているということね」

「寿々子ちゃんの告白が遅れれば遅れるほど、寿々子ちゃんの恋が成就する可能性は低くなってくると思う」

「その通りだと思うんだけど……」

「寿々子ちゃん。この一か月ほどが大切よ。ここで、海春くんを恋人にするのよ。わたし、応援しているから」
りなこちゃんは熱を込めてそう言った。



しかし、わたしは、結局、三学期中には告白はできなかった。

「海春くん、おはよう」

というところまでは言えるのだが、その後、

「ちょっと話をしたいことがあるんだけど……」

と言う言葉を続けることができない。

そこまで言うことができれば、後は、人がいないところへ行き、

「海春くんのことが好き。わたしと付き合って」

と言えばいいのだけど、そこまで到達することができない。

我ながら、なんでうまく言うことができないのだろう……。

応援してくれているりなこちゃんにも申し訳ない。

春休みの間、悶々とするわたし。

海春くんの家に行って告白しようとも思った。

しかし、いきなり行っては、彼が嫌がるかもしれない。

小学校三年生の時以来、彼の家には行っていないのだ。

彼の嫌がることをしたら、告白をOKしてくれないことだってありうる。

わたしの心にはだんだんあせりが出てきていた。

このままだと、他の子が海春くんに告白するかもしれない。

しかも、この春休みの間に。

いや、さすがに春休みの間はないだろうとも思う。

わたし以上に関係が薄い子がいきなり彼の家に来ても、嫌がるだけだとは思うからだ。

でも、それでも彼の好みの子だったらOKする可能性もあるのかな……。

いろいろな思いがわたしの心の中に浮かんでくる。

こうしてわたしは、海春くんに何もアプローチできないまま、始業式を迎えることになった。
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