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第六十八話 婚約者選定

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 オクタヴィノール殿下は、

「わたしは、あの舞踏会であなたと出会うまで、あなたのことは全く知らないわけではありませんでした。ルシャール殿下の婚約者候補として名前が挙がっていましたので、名前は知っておりましたし、同学年であることも知ってはおりました。ただ、ルシャール殿下の婚約者候補ということでしたので。特に関心は持たずにここまで来ていました。そんな中、わたしにも婚約者選定の話がされ始めてきたのです」

 と言って、一旦言葉を切る。

 そして、一口紅茶を飲んだ後、話を続けた。

「ただ、わたしはまだこの王国の学校で研鑽をしなければならない身です。結婚のことは卒業した後に検討したいと思っていました。わたしはもともと『運命の出会い』をした女性と結婚することにあこがれを持っていましたが、それを実現する為には、もっと自分を磨く必要があると思っていたのです。わたしはそのことを、わたしの父上である国王陛下に話をしました。しかし、父上は、『そうは言わずに、今の時点でも相手を決めて、婚約だけはしてほしい』とおっしゃってきたのです。わたしはなぜ父上がそんなに急ぐのだろう? と思っていたのですが、その理由は、ほどなくわかりました。父上は、ここ数年体調がすぐれませんでしたが、侍医によると、病気が進行して、わたしが卒業まで生命が持つかどうか、難しいところになってきていると言うのです。父上もそれを聞いたので、自分が生きている間に、なんとか婚約だけはさせたいと思ったようでした。父上の指示を受けて、父上の側近もすぐさま動き、わたしの婚約者候補たちを提示してきました。さすがは側近というところで、ルクシブルテール王国内の名家の令嬢が候補として並んでいました。しかし、わたしは、この中に「運命の女性」がいたとしても、今一生懸命自分を磨いているわたしにとっては、まだその時ではないという気持ちが強くありました。それでも父上と側近がお願いをしてくるので、婚約者候補たちとは見合いをすることになりました。しかし、皆さん才色兼備ではあるのですが、どうも「運命の女性」ではない気がするのです。その為、そのすべての話を断りました。申し訳ないとは思ったのですが、断らざるをえなかったのです。ただ、婚約者候補たちは誰もあきらめず、父上は『考え直してほしい』とおっしゃられますし、側近も『考え直してしてくださいませ』と言ってきます。わたしはこれから、どのように対応していこうか、悩んでいたところだったのです。そんな時に出席したのが、この舞踏会でした。この舞踏会では何人かの令嬢にダンスを誘われました。でも、あまり踊る気はしませんでした。わたしはこの舞踏会で『運命の女性』と出会いたいと思う気持ちは、少しあったのですが、そういう方に出会えそうもない。それが、わたしを少し疲れさせていました。そこでわたしはラウンジで一休みをしようと思い、入っていきました。そこでわたしは『運命の出会い』をしたのです」

「運命の出会い……」

 どの女性のことだろう?

 あの部屋には、わたしの他は、男女のカップルが三組ほどいた。

 そのカップルの女性たちの内の一人のことだろうか?

 確かに美しい女性だったと思う。

 しかし、既に相手がいる女性と「運命の出会い」をすることはあるのだろうか?

 可能性自体はないとは言えない。

 しかし、この話の流れからすると、それはまず考えられないことだ。

 ということは、わたしが「運命の出会い」の女性なのだろうか?

 信じられない気持ちがする。

 しかし、信じたい気持ちがだんだん強くなってきた。
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