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第二十七話

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わたしの服装は気に入ってくれただろうか。
楓君は、なにも言ってくれないから、よけいに不安になる。
やっぱりニーソックスはダメだったかな。
だけどミニスカートの都合上、素足を出してしまうのはすごく恥ずかしいし……。
香奈ちゃんたちと違って、わたしの脚ってそんなに綺麗な方じゃないから、かえって不快な気持ちにさせるんじゃないかって思ってしまうところがある。
直接、訊けばいいだけなんだけど、それはそれで恥ずかしいし。

「どうしたの?」

楓君は、思案げな表情でわたしのことを見てくる。
どうやら心配させてしまったらしい。
こんな時は、笑顔で乗り切った方がいい。

「なんでもないよ。ちょっとまわりの視線が気になっただけ──。楓君が気にすることじゃないよ」
「そっか」

それでも楓君は気になるみたいだ。
たしかにこのアングルでベンチに座っていると、どうしてもスカートの中がチラ見えしてしまうかもしれない。
それでも、できるかぎり隠してはいるんだけど……。

「もしかして、見たかったりするの?」

わたしは恐る恐るスカートの端を指で掴みながら訊いてみた。
男の人ってちょっぴりエッチだから、やっぱりスカートの中が気になるものだと香奈ちゃんから聞いたことがある。
楓君なら、なおさらだと思う。

「見たくないって言えば、嘘にはなるけど……。そこはさすがに意図的に見せるようなところじゃないと思う」
「そうだよね。わたしのなんて、ちっとも可愛くないし……。見せられるようなものじゃないから──」
「まぁ、普段見るところじゃないから安心していいよ」

楓君は、あくまでも紳士であろうとするんだろうな。
それなら、見なきゃいけないシチュエーションにしてしまえばどうだろう。
たとえばニーソックスを脱いでみるとか。
やっぱりダメだ。
それだと、わたしがはしたない女の子になってしまう。
美沙ちゃんとかだと、なんでそんな風に見えないんだろうか。
わたしが気にしすぎているだけなのかな?

「それじゃ、どうしたらわたしの下着を見てくれるのかな?」

と、ボソリと言ってみる。
おそらく楓君には聞こえてはいないだろう。
この場合は自ら行動を起こすしかない。
でも、やっぱり恥ずかしかったりする。
そもそも、男の人と一緒にプリクラコーナーに入ること自体、わたしには考えられないことだったのだ。
美沙があんなこと言わなければこんな事には──

「理恵先輩って、意外と美沙先輩と仲が悪かったりするの?」
「え? いきなりどうしたの?」

楓君の一言に、わたしは驚きを隠しつつ聞き返していた。
いきなりそんなことを訊いてくるなんて思わなかったのだ。

「理恵先輩と美沙先輩って、なんかこう…正反対な気がして──」
「そっか。そんな風に感じるんだ。なるほど。…美沙とは、付き合いが長いからね。もう慣れたって言った方がはやいかも──」
「そうなんだ」
「小学生の頃からの付き合いなら、自然とそうなるよ」
「小学生の頃から…か。それは、たしかに慣れちゃうかも」
「香奈ちゃんとも、そうなんじゃないの? 小学生の頃とか──」
「香奈姉ちゃんとは、そこまでの付き合いは当時はあんまり無かったかも」
「そうなの?」
「うん。どっちかと言われたら兄貴の方に好意を持っていたんじゃないかな」
「お兄さんか……。なるほど」

楓君からそんなことを聞かされ、なんか意外だなって思ってしまう。
香奈ちゃんが露骨に楓君に好意を示すくらいだから、ずっと前から想っていたんだと思っていたから、そうなんだなって考えていたけど。
どうやら違っていたみたいだ。
そういうわたしも、楓君のことが嫌いかと言われれば『大好き』な部類になる。
楓君のお兄さんに関しては、わたしは苦手だ。

「香奈姉ちゃんは、最初はバンドを作るっていう考えはなかったと思うんだ。たぶんだけど……」

楓君は、なにを思ったのか微笑混じりにそう言った。
そこにはたぶん苦笑も混じっていると思う。

「うん。それはよくわかる。香奈ちゃんは、あんな風に見えて真面目な性格してるから、バンドをやること自体、考えてはいなかったと思う」
「原因は、たぶん僕なんじゃないかと──」
「う~ん。それはどうだろう。香奈ちゃんの場合、やると言ったらなにがあってもやる人だから、楓君のことはきっかけにすぎないんじゃないかな」

もちろん根拠はない。
ただの憶測だ。
でも半分は事実だから、そこはなんとも言いがたい──

「きっかけ…かぁ」

楓君は、神妙な表情でそう言っていた。
そんな顔をするということは──
楓君もなんとなく察してはいるみたいだ。

「そう。きっかけ──」

わたしはそうとだけ言って、それ以上は言わなかった。
理由は色々あると思うけど、楓君が絡んでいることには間違いないだろう。
楓君は、なにやら訝しげな表情になっている。
納得がいってないっていう顔だ。
とりあえず、今はわたしとのデートを楽しんでもらわないと。

「香奈ちゃんは、なにも言ってないの?」
「うん。何も──」

楓君に何も言ってないってことは、少なからず正解なのかな。

「それなら、いいじゃない。楓君は、なにも気にしなくていいよ」
「わかってはいるんだけど……」
「やっぱり理由は知りたいものなの?」
「知りたいような、知りたくないような……」

女の子のプライベート的なことだから、楓君もあんまり知りたくはないんだろうな。
わたしでも、知りたくはないかも。
香奈ちゃんの事情については──

「とりあえず、デートの続き…しようよ」

わたしは、楓君の腕にしがみついて上目遣いで見上げる。
こうすれば普通にカップルに見えると思う。

「うん」

楓君は、緊張しているのかドギマギした様子でわたしの顔から視線を逸らす。
初々しいというかなんというか。
こうしているだけでも十分にデートといえるだろう。
楓君ばかりに奢らせるわけにはいかないし。

「あの……」
「ん? なにかな?」
「行きたいところとか…ないの?」

楓君は、思案げにそう訊いてくる。
それはまるで、わたしのことを心配しているかのようだ。
もしかしたら、わかっているのかもしれない。
他に行きたいところとかは、特にないことに……。
しかし、それを楓君に悟らせるわけにはいかない。

「楓君となら、どこに行ってもいいかなって──」
「理恵先輩……」

なぜか同情の視線で見られてしまう、わたし──
なにか変なことでも言っちゃったかな?
美沙ちゃんにはよく、主体性がないって言われてしまうけど……。どうなんだろう。
この発言も、楓君にはお見通しなんだろうか。

「とりあえず、近くのファミレスにでも行きましょうか?」
「行き先は楓君に任せるよ」

こんなことを言ってしまうわたしって、やっぱり……。
楓君の前ではお姉さんぶるって決めていたのに──
こんなんじゃ、わたしは楓君以外の男の子と付き合うのは無理っぽい。
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