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第二十六話

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「おはよう、弟くん。今日も、いい朝だね」

変わらずの可愛い笑顔で香奈姉ちゃんは僕のことを起こそうとしてくる。
制服を着て待っていることから、もう登校時間なのだろう。
しかし、わざわざ僕が寝ているベッドの上に跨ってというのはどうなんだろう。
そのアングルからだとスカートの中が普通に見えちゃってるんですけど……。
いくらなんでも無防備すぎである。ちなみに、今日の下着の色は白だ。
まぁ、香奈姉ちゃんならいつものことか。
しっかりしているようで、ちょっとだけ無防備なのが香奈姉ちゃんだ。

「おはよう、香奈姉ちゃん。今日は、ずいぶんと早いね。学校でなにかあったりするの?」

時計を見たら、まだ午前の7時にもなっていない。
時間的には、まだ余裕がある。
今日くらいは、ゆっくりと眠っていたいんだけど。

「なにもないよ。ただ弟くんの顔が見たかっただけだよ」
「そうなんだ。香奈姉ちゃんらしいね」
「そして、これをやりたくて──」

香奈姉ちゃんは、なにを思ったのか僕の唇にキスをしてきた。
そんなことされたら、眠気が一気にどこかにいってしまう。
抵抗しようにも、香奈姉ちゃんが僕の両方の手をそれぞれに掴んでしまっていて、なにもできない状態だ。
さすがにしっかりと着こなしている制服を乱したくないのだろう。

「いきなりどうしたの? 今日は、ずいぶんと積極的だね」
「なんか嫌な夢を見たの」
「嫌な夢? どんな?」
「弟くんが他の女の子と付き合う夢──。絶対にありえないはずなのに……」
「………」

さすがになんて言い返せばいいのかわからなかった。
香奈姉ちゃんのヤキモチに関しては、僕にもどうにもならない。
だからといって香奈姉ちゃんから視線を逸らすというのは図星をつかれた形になりかねないので、そんなことはしなかったが。

「そんな夢を見たんだ……。まぁ、その辺りは心配しなくても大丈夫そうかな」
「どうしてよ?」
「僕には、女の子の知り合いはいないし……。いたとしても香奈姉ちゃんがよく知る人物しかいないからね」
「そう言われても……。信用できない」

そう言って香奈姉ちゃんは、ジト目で睨んでくる。
ベッドの上で騎乗位の状態でいられてもな。
真っ白な下着が丸見えなんだが……。
なにかのアプローチのつもりなんだろうか。

「なにをしたら信用してもらえるの?」
「ん~。そうだなぁ。エッチなことは、もうしてもらっているからいいとして──。少なくともデートくらいはしてくれてもいいんじゃないかな」
「デートはすでにやってると思うんだけど……。僕としては、今の香奈姉ちゃんとの関係について悩んでいるよ」
「いいじゃない。私としては、弟くんとはこれからも変わらずに仲良くしていきたいし。それに──」
「それに?」
「これ以上は、私の口から言うのはちょっとね」

やっぱりこれ以上のことは求められないか。
香奈姉ちゃんの場合、普通にデートをするだけでも大変だ。
ただでさえ可愛いから周囲の人たちの視線が向けられてしまう。
最近はナンパをしてくる人は減ったものの、それでも1人で歩かせるのは危険だと思うくらいだ。

「やっぱり僕とのスキンシップは嫌だったりするの?」
「弟くんとのスキンシップは、私としてのアイデンティティだったりするから、しない選択肢はないよ。そんなことよりも、今の私はまったくの無防備だよ? なにもしないの?」
「えっ」
「今なら、なにされても怒らないから──ね」

たしかに今の香奈姉ちゃんの体勢は無防備だ。
騎乗位の状態ではあるものの、香奈姉ちゃんの体重はそんなに重くはない。簡単に起き上がる事ができる。
たぶんこの状態で起き上がったら、香奈姉ちゃんのあられもない姿が見られるかもしれない。
そんなことしちゃってもいいんだろうか。
やっぱり姉的存在の幼馴染っていうのは、かなりのインパクトがあるっていうか。

「具体的にはなにを?」
「そこはほら。弟くんが一番好きな事だよ」
「僕の好きな事…か」
「そんなに深く考える必要はないと思うんだけどなぁ」

香奈姉ちゃんは、思案げな表情を浮かべてそう言っていた。
そんなこと言われてもな。
香奈姉ちゃんとの間のことだと嫌でも変なことを想像してしまう。
しかし──
こんなにも香奈姉ちゃんが綺麗で可愛く見えてしまうのは、僕だけに見せる素顔があるからなのかもしれない。

「僕にとっては、香奈姉ちゃんが近くにいてくれるだけで十分に満足だよ。だから心配しなくても──」
「そういうことじゃないんだけどなぁ……。まぁ、弟くんらしいって言ったらそれらしいし、そのとおりなんだけど──」
「もしかして、なんか不満なこととかあったりする?」
「不満なこと…か。まぁ、ないと言われたらないし、あると言われたらあるかな……」

香奈姉ちゃんのその返答は、あきらかに不満をもらしている。
見るからにムスッとしたようなその表情がすべてを物語っている。
笑顔以外の表情をあまり見せないから、すぐにわかってしまう。
う~ん……。
そんな不満そうな表情も、とても可愛いっていうか。

「そっか。なんだか香奈姉ちゃんらしくないね。いつもなら、そんな顔は見せないのに……」
「私は、いつもどおりだよ。これがいつもの私だよ」
「………」

これ以上は、なにも言えなかった。
さすがの僕も、否定的なことは言えない。

「どうしたの? 私の顔になにかついてる?」
「いや……。別に……」

香奈姉ちゃんに、僕の内心を悟られるわけにはいかない。
しかし香奈姉ちゃんは、僕の顔の近くまで顔を寄せてくる。

「わかっているよ。弟くんは、私のことだけじゃなくて、奈緒ちゃんたちのことも大好きなんだよね?」
「僕は……」
「これ以上は、無理に言わなくても大丈夫だよ。私には、ちゃんとわかっているから」

香奈姉ちゃんは、優しそうな笑顔を浮かべそう言っていた。
ここでも無理な笑顔をつくらないのが、香奈姉ちゃんらしいっていえば、そのとおりなんだよなぁ。
香奈姉ちゃんの笑顔を見て、僕はどこか安心感を覚えてしまう。
それに依存している僕もどうかしている。そうとは思うものの、香奈姉ちゃんがそうやって迫ってくるのだから、どうにもならない。
やっぱり、僕の前ではお姉さんぶりたいんだろうか。
これでは、恋愛的に対等にはならないと思うんだけど……。

「僕にとっては香奈姉ちゃんも奈緒さんたちも大事な──」
「ありがとう。弟くん」

香奈姉ちゃんは、よほど嬉しかったのか僕に抱きついていた。
朝っぱらから、こんなことされたらさすがに恥ずかしいかも……。
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