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第二十五話

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今日は、帰ってくるのがずいぶんと遅かったな。
一体、どこでなにをしていたんだろう。
とっても気になる。
メールとかを送ればよかったんだけど、忙しそうにしている楓に迷惑をかけるわけにはいかないから、敢えてやめておいたのだが……。
逆効果だったのかな?
私は、ジーッと楓の顔を見つめていた。
それに気づいた楓は、私の顔を見て思案げな表情をする。

「どうしたの、香奈姉ちゃん? 僕の顔になにかついてる?」
「ううん。なにもついてないよ。ただ、ちょっとね。今日は、帰ってくるのが遅かったなって思って……」
「それは……。色々あって……」

楓は、説明しづらいのかそう言って私から視線を逸らす。
楓の態度を見る限り、なにかを隠している。
私に隠し事をするのは、許さないって何度も言ってるはずなのに。

「そうなんだ。色々ってなんのことかな? 弟くん」

私は、笑顔でそう訊いていた。
決して怒ってはいない…はずだ。
それなのに、どうして楓はそんな緊張した面持ちになるんだろう。
ちょっと不思議である。

「あー、いや……。こっちの事情というか……。その……」
「ふ~ん。話したくないのなら、敢えては聞かないけど……」
「うん……。ごめん……」
「なんで謝るの? 別に悪いことをしてるわけじゃないのに」
「それは……。なんとなく、かな」
「そっか。なんとなく、か。弟くんが、そうやって謝る時って、何かあった時なんだよね?」
「………」

楓は、そのまま俯いて黙り込んでしまう。
その顔は、図星といった様子だ。
何があったのか気になるところだが、直接聞くのもなんだか気が引ける。
こんな時は、どうしたらいいんだろう。

「でも弟くんなら、自分でなんとかしたんでしょ?」
「うん。とりあえずは…ね」

楓は、微苦笑してそう言う。
それも、なんだか歯切れが悪い。
私は、楓の頬に手を添えて言った。

「それなら、いいんじゃないかな。弟くんは優しいから、油断すると他の女の子にナンパされちゃうかもしれないよ。私としては、そっちの方が心配かな」
「そんなことは……。僕の気持ちは、もう決まっているし──」
「まぁ、それならいいけど……。二股や浮気は絶対にダメだからね!」
「それはもう、充分すぎるくらいわかっているよ。僕はこう見えて、そこまで女の子の知り合いが多いわけじゃないし」

楓は、きっぱりとそう言ってのける。
そうは言うけど、古賀さんとかバンドメンバーたちとかは、どういった関係になるんだろう。
ちょっと疑問に思ったが、ここは聞かない方がいいのかな。

「わかっているなら、いいんだけど。弟くんは、油断ならないからなぁ」
「うぅ……。そこは、信じてほしいな……」
「そう言うのなら、ちゃんと説明できるよね? 今日はどこでなにをしていたのかな?」
「それは……。ちょっと説明しづらいかも……」
「もう! そこは、きちんと説明してくれないと──」
「いや……。説明したら、絶対に怒ると思うし……」
「そこは、まぁ……。内容次第かな」

私は、そう言って楓に笑みを見せる。
この笑みが、心の内からのものではないとわかっているのか、楓は苦い表情を浮かべていた。

「それこそ絶対に理不尽な話だよ……」

私は、楓のためを思ってやっているのにな……。
こうなったら、思い切って楓のことを誘惑してみようかな?
楓のとってる態度からして、そんなことをしたい気分ではないんだろうけど……。
やっぱり、どちらにしてもダメだよね。
楓の部屋だからって、強引に攻めたって楓に嫌われてしまうだけだ。

「そんな顔しなくても大丈夫だよ。弟くんなら、他の女の子に迫られても、ちゃんとお断りをするってわかっているから」
「そうだといいんだけど……」

それは、小声で囁くように言ったものだ。
聞こえなければよかったんだけど……。
なぜだか、それは私にもよく聞こえていた。
だからこそ、つい訊いてしまう。

「なにかあったの?」
「ううん。なんにもないよ。…ちょっとね」

それが、なにかを誤魔化しているものだというのは、私にもわかる。
その『ちょっと』が、とっても気になるんだけど。

「気になるじゃない! 怒らないから、ちゃんと説明してよ」
「う~ん……。大したことじゃないんだけどなぁ」
「私からのセッカンとスキンシップ。どっちがいい?」
「それって、どっちも変わらないような……」
「変わるわよ。弟くんの返答次第によっては、私からのご褒美が全然違うんだから──」
「なにもしてないのに『ご褒美』っていうのは……。かなり怪しいっていうか……」
「そんなこと言っちゃうんだ? 私は、あなただけの『お姉ちゃん』なのに……」

私は、これ以上にないくらい楓に対して好意を示している…つもりだ。
楓にとっては、まだ足りないのかな?
そうは思ったが、私からは言えない。なぜなら──

「いつも一緒にお風呂に入ってくれる以上の『ご褒美』があるの?」

楓は、照れ臭いのか顔を赤くしてそう言っていた。
たしかに楓とは毎回、一緒にお風呂に入っている。
これ以上の『ご褒美』って言われたら、答えられないかもしれない。
お風呂場での楓とのスキンシップって言ったら、セックスになりかねないから。

「例えば、セックスとか……。ゴムは着用してるんだから、そのくらいは平気だよね?」
「ゴムはその……。避妊具としては、完璧じゃない気も──」
「うん。完璧ではないね。でも弟くんは、気持ち良さそうだし……。大丈夫なのかなって」
「香奈姉ちゃんに迫られたら、その……。色々と大丈夫じゃないかも……」
「そっか。なら、気をつけないといけないね」

私は、そう言って笑みを見せる。
やっぱり、必要以上のセックスは気をつけないといけないか。
わかってはいた事だけど……。
でも楓のあそこの魅力は、味わったものにしかわからないんだよね。
楓のあそこの過敏な反応は、もうクセになりそうで──
私ったら、何を考えてるんだろう。
本格的なセックスなんて、まだはやいのに……。

「見た感じ、香奈姉ちゃんは大丈夫そうだよね」
「なんでよ?」
「だって、いつも積極的にスキンシップをとってくるから。少しくらい激しいのも平気なのかなって──」
「そんなわけないじゃない。私だって、嫌なものは嫌って言えるわよ」
「例えば?」
「そうねぇ。例えば、強引なのはちょっと嫌かも……」
「そっか。それなら、僕が強引に攻めたら、香奈姉ちゃんも嫌がるってことか……」
「いや、それは……。弟くんの場合は、少しくらい強引な方がいいかも」
「そうなの?」
「少なくとも、私は弟くんからの誘いは絶対に断らないよ」

私は、微笑混じりにそう言っていた。
他の男の人ならともかく、楓の場合は話が別だ。
楓は、なにか言いたげな表情で私を見てくる。
なんだろう。
私ったら、なにか問題発言でもしちゃったかな?
そんな私を安心させるためなのか、楓は言う。

「それなら、一緒にお風呂に入ろうか? 試しに僕が香奈姉ちゃんを口説いてあげるよ」
「え、いや……。今は、その……。気分がね」

私は、苦笑いをしてそう返していた。
今の時間帯のお風呂はちょっと……。
色々と準備が必要というか。

「どうしたの? 僕の誘いは断らないんじゃなかったの?」
「そうだけど……」
「だったら──」

楓が何かを言いかけたところで、私は咄嗟に楓の口元に指を添える。

「女の子にも、色々あるんだよ。いきなりは、さすがの私もびっくりしちゃうし」
「ごめん……」

謝る必要はないんだけどな。それよりも──

「そんなことより、今日は何があったのかちゃんと説明してくれるかな?」
「香奈姉ちゃんが気にするようなことは何もないけど……。それでも、聞きたいなら」
「うん! ぜひ聞きたいな」

私は、興味本位でそう言っていた。
一緒のお風呂なんだから、そのくらいはね。

「仕方ないな。まぁ、浮気とか二股とか言われたくはないし……。実は──」

楓は、ゆっくりとだけど説明し始めた。
後ろめたいことをしてないのなら、私としては構わないんだけど。
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