上 下
310 / 361
第二十四話

18

しおりを挟む
「とりあえず、これ……。持ってきたよ」
「うん。ありがとうね。弟くん」

私は、楓が持ってきてくれた白の下着一式を着用した。
私の中では、比較的可愛い部類に入るもので、お気に入りの下着一式だ。その証拠に前の部分に可愛い花の刺繍が施されている。
下着の入ったタンスのちょっとしたところに入れておいたはずなんだけど、よく見つけたものだ。

「意外と目利きだったりするのかな?」

私は、ボソリと呟くようにそう言っていた。
どうやらそれは、楓に聞こえてしまっていたらしい。

「ん? なにか言った?」

楓は、思案げに訊いてくる。
なんとか誤魔化さないと。

「ううん。なんでもないよ。弟くんは、純白の下着が好きなのかなって思って──」
「そんなことは…あるかもしれないけど……」
「そっかぁ。それじゃ、今度から弟くんの前では、綺麗な白の下着を穿いておくね」
「ちょっ……。香奈姉ちゃん!」
「ふふ。冗談だよ」

楓の前では、どこまでが冗談になるのかわからない。
かなり値段の高い下着一式なのは確かなので、楓には黙っておこう。

「どうかな? 私の制服姿は──」

私は、楓に制服姿を見せる。
いつもどおりだというのに、楓の感想を期待してしまう私も、どうなんだろう。
ちなみに、まだ靴下は履いてない。
今日は、気分を変えてストッキングにしようかと思ったんだけど、楓の感想を聞いてからにしようと思ったのだ。

「うん。とてもよく似合っているよ。まだ靴下の方は履いてないみたいだけど。何かあったの?」
「そっちはね。これにしようかと思って」

私は、カバンの中からストッキングを取り出して、楓に見せていた。

「それは、ストッキングかい? まぁ、いいんじゃないかな。たまには──」
「そう? 弟くんのことだから、ホントは素足の方がいいな…なんて思っているんじゃないの?」
「どっちもいいと思っているよ。香奈姉ちゃんの素足はとても綺麗だから、ストッキングを履いても似合っていると思う。たまに目のやり場に困る時があるくらいだよ」
「そっか。どっちもいい…か。それなら、弟くんの好みに合わせてみようかな」

そういうことなら、ストッキングはお預けかな。
素足の方が膝枕もしやすいし。スキンシップをする時だって──
私は、ストッキングをカバンの中に仕舞い、すぐに紺の靴下を取り出した。
どちらでもいいように、一応、両方を用意してあるのだが、楓にはこちらの方がいいらしい。
せっかく可愛い下着も穿いていることだから、ストッキングにするよりかはいいだろう。
別にあざとく見せてるっていうわけではないんだろうけど。

「──さて。朝ごはんの準備をしなくちゃいけないね。どうする? 私も手伝おうか?」
「あ、えっと……」

楓は、なにか言いたげな表情で私を見てくる。
まだまだ朝ごはんの準備をするには、遅すぎるということはない。
これから準備をすれば、大丈夫だろう。

「どうしたの?」
「ううん。なんでもない。香奈姉ちゃんが手伝ってくれるとありがたいなって思って」

楓は、なにかを誤魔化すかのようにそう言っていた。
私に隠し事なんて……。なんか怪しいな。
私は、訝しげな表情で楓を睨む。

「なにかあったの? もしかして、また奈緒ちゃんからデートのお誘いとか?」
「いや……。そういうわけではなくて……。スカートの裾が捲れていて──」

楓は、そう言って私が穿いている制服のスカートの裾を手早く直す。
あまりの事に、私は固まってしまう。
たしかに制服のスカートの裾が捲れていて、ちょっとアングルを変えたら中が見えてしまいそうな感じだった。
キッチンに行く前に気づいてよかったかも……。
私は、すぐに楓の手を優しく掴む。

「あ。うん。ありがとう」

些細なことでもきちんとお礼を言っておかないと、楓に変な心配をさせてしまう。
楓って意外と寂しがり屋で、私のことをしっかり見ていたりするのだ。
その辺りは、奈緒ちゃんもそんなに変わらない。
私は、楓に屈託のない笑みを見せて言った。

「それじゃ、着替えも済んだことだし。キッチンに行こっか?」
「うん」

楓は、私の身だしなみを気にしながらそう返事をする。
さっきみたいにスカートの裾が捲れていないかチェックしてるんだろう。
そんなことは滅多にないのにな……。
私って、そんなにだらしない女の子かな?
私自身、身だしなみには、結構、気を遣うタイプなんだけど。
スカートの裾が捲れていたのはたまたまであって、頻繁にあることではない。
そこのところをちゃんとわかっていればいいんだけど。
楓のことだ。
きっと、わかってはくれないんだろうな。
私と楓は部屋を後にして、まっすぐ一階にあるキッチンに向かっていった。
やはりというべきか、居間の方には誰もいなかった。
てっきり楓の母親がいるかと思っていたのだが、楓が朝の家事をやっていることがわかっているのか、まだこちらには来ていないようだ。

「誰もいないね」
「うん」

楓にとっては、これがいつものことなんだろう。
その返事からは、寂しさなどはない。

「もしかして、私の下着一式を取りに行ったときもそうだったりする?」
「うん。まぁ。兄貴のことは警戒してたんだけどね。でも、誰もいなかったから、香奈姉ちゃんの下着を取りに行ったときは比較的、楽だったよ」
「そうなんだ」
「まぁ、これはいつもの事かな。母さんも、毎日朝ごはんの献立を考えるのも難しいだろうしね」

楓は、いつもの笑みを見せてそう言った。
彼にとっては、そんなに難しくないのかな?
ちょっと疑問に思ったが、聞かないでおこう。
私でさえも、朝ごはんの献立はちょっと考えてしまうことがあるけど……。
楓は、特に何も言わずにエプロンを着用する。
私も、楓に続いてエプロンを着用していた。
制服にエプロンって、ある方向性の人には、ちょっとマニアックな格好だったりするみたいだけど。
楓にとっては、どうなんだろう。
今の私を見て、何とも思わないんだろうか。
何も言ってこないところを見ると、なんとも思ってないのかな?

「とりあえず私は、味噌汁から作るね」
「うん。お願い」

楓は、そう言うと別のことをやり始める。
今日は、何を作るつもりなんだろう。
気にはなったけど、私は味噌汁作りをしなきゃいけないから、これ以上は目を向けていられない。
私は、お湯の入った鍋に視線を向けていた。
味噌汁の具材は何にしよう。
楓の家の冷蔵庫を勝手に開けるのは気が引けるのだが、楓は何も言わない。
私がいることが自然になっていて、それがすっかり馴染んでいるからだと思われる。
少しは気にしてほしいところだけど、今更どうなんだろう。

「具材は、何がいいかな?」
「なめことかワカメならあるよ」
「そっか。ありがとう」

私は、ワカメの方を鍋に入れる。
そう言ってくるってことは、その二つのうちのどちらでもいいって言ってるのだが……。
私は、ワカメを選択した。
なめこは朝ごはんのお味噌汁にはちょっと重い感じがして合わない気がするからワカメにしておいたけど、どうだろう?
まぁ、楓なら文句は言わないよね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...