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第十九話
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翌朝。
今日は、思ったよりも早く目が覚めた。
それというのも、楓がいつの間にかいなくなっていたからだ。
たしか、お互いベッドの中で寝ていたはず。
それも裸で──。
セックスなどはしてくれなかったが、私のことを大事にするように抱きしめて寝てくれていたのはよく覚えている。
「弟くん? もう起きちゃったのかな? ──まったく。起きるのが早いよ」
お手洗いにでも行ったのかな?
だけど時間は5時半だし。
私はベッドからむくりと起き上がると、ゆっくりと下着類に手を伸ばし、それを身につけていく。
別に裸でもいいんだけど、一応下着くらいは付けておかないと、女の子としての品性を疑われてしまう。
それに、裸で家の中を彷徨くのはさすがによくないなって思ってしまったのだ。
楓もいることだし。
下着を身につけて部屋を出ると、そこで鉢合わせする形で花音と対面する。
花音は、あきらかにソワソワしていた。
「あ。お姉ちゃん」
「おはよう。どうしたの?」
「あのね。楓がね。キッチンで料理を作ってるの」
「うん。まぁ、いつものことじゃない」
楓が料理を作るのは、いつものことだけど。
どこに驚く要素があるんだろう。
「朝ごはんだよ。楓が私の家で朝ごはんを作ってくれてるんだよ。あれは、絶対に何か見返りを求めてくるような……」
「弟くんが、そんなものを求めてくるわけないでしょ。ただ単に、早く起きたから朝ごはんの支度をしてくれてるだけだって──。他意はないよ」
「そうなのかな? それだけなのかな? ひょっとして、私の体を求めてるんじゃ……」
「考えすぎだって。今までに、花音にそんなものを求めたことはないでしょ?」
「そうだけど……」
私の体なら、求めてくるんだけどね。
それよりも。
楓が、朝ごはんの支度をしてるのなら、私も手伝いに行かないと。
楓にばかり、そんなことを任せていられない。
そう思い、階段に向かおうとするとすぐに花音に腕を掴まれる。
「ちょっと、お姉ちゃん」
「ん? なに?」
「まさか、そんな格好で楓のところに行くつもりなの?」
「そうだけど。何か問題でもある?」
キョトンとした表情でそう言うと、花音はなぜか神妙な顔をして私を見つめてきた。
「やっぱり、そのくらいしないと楓は無理なのかな……」
そう言って、自身が着ている洋服をギュッと握っている。
何かあったのかな。
まぁ、私が気にするようなことじゃないだろう。
「とりあえず、私は行くね」
私はそう言って、立ち尽くしている花音をそのままにして階段を降りていく。
ウジウジと悩むくらいなら、すぐにでも行動しないと。
花音には悪いけど、私は行かせてもらう。
花音の言ったとおり、楓はキッチンで朝ごはんの支度をしていた。
「おはよう、弟くん」
「あ、香奈姉ちゃん。おはよう…って、何⁉︎ その格好はっ⁉︎」
楓は、私を見るなり驚いた表情を浮かべる。
そんなに驚くようなことなのかな。
私は思案げに首を傾げ、至極真っ当なことを言った。
「何って、普通の格好だけど……。別に驚くようなことでもないじゃない」
「いや……。さすがに下着姿でキッチンに入ってくるっていうのは……」
「何か問題でもある?」
この質問。花音にもしたような。
家の中なんだから、私がどんな格好をしたって自由なはずだ。
楓は、とても言いづらそうな表情になり後ずさる。
「問題というか……。普通は……」
「私の家でどんな格好していようが自由でしょ? そういうことだから、私も手伝ってあげるね」
「………」
私の言葉に、楓は何も言えなくなってしまう。
それと同時に、料理をしている手も止まる。
私は、すかさず言った。
「ほら。ぼーっとしてたら、焦げちゃうよ」
「あ、うん。ご、ごめん……」
楓は、我にかえったのかコンロの前に立ち、再び手を動かしはじめる。
その間に、私は近くにあったエプロンを身につけて、楓の傍に寄り添う。
裸エプロンって、こんな感じなのかな。
あまり意識してやったことないから、よくわからないんだけど。
「なるほど。お魚を焼いていたのか。だったら私は、お味噌汁を作ってあげようかな」
「か、香奈姉ちゃんに任せるよ」
楓は、何か言いたげな顔をしていたが、無理矢理苦笑いを浮かべて誤魔化す。
楓の言いたいことは、大体は私にもわかる。
だけど、これも楓に対してのアプローチのつもりだから、やめるつもりはない。
私は、いつもどおりに鍋に水を入れて、コンロの火を付ける。
朝ごはんになくてはならないものは、間違いなく味噌汁だろう。
もしかしたら、お弁当にも必要かもしれない。
そういえば中学生の頃も、楓はこうやって一人で朝ごはんなどを作っていたな。
あの頃は、楓が一人で朝ごはんなどを作っているのを見ても、なんとも思わなかったんだよな。
きっかけは、隆一さんの一言だった。
『そんなことは男じゃなくて女がやることだぜ。香奈もそう思うだろ?』
何気ないその言葉は、普段家事などをしている私の心に突き刺さったのだ。
そんな考えの人と付き合って、はたして私のことを大事にしてくれるのか。
私のその不安は、隆一さんと付き合っていた時に直面した。
隆一さんは、たしかに成績も優秀で運動神経も抜群である。しかし、家事などは壊滅的で、料理などはまずやらないのだ。
現に料理をしてる姿などは見たことがない。
全部、楓や楓のお母さんがやってくれるから、自身にまわってくることがないんだろう。
そういえば、私が隆一さんと付き合ってた時も、主に私が料理などをやっていたような気が。
忙しいときもそうだったので、もちろんバンド活動にも影響が出たくらいだった。
そんなことがだんだんと蓄積されてしまい、私自身もうんざりしてきたので、隆一さんとの付き合いをやめる判断になったのだが。
たぶん隆一さん本人は、気づいていないだろうな。
ところで味噌汁の具材は、何がいいだろうか。
私の家の冷蔵庫の中に入っているものだから、気兼ねなく使えばいいのだが、楓がいるからよけいに迷ってしまう。
無難にワカメがいいのかな。
「具材は何がいいかな? 楓は、何かリクエストとかはある?」
私は、とりあえずそう訊いてみた。
彼の好みがなんなのか気になったのだ。
楓は、料理中にもかかわらず『う~ん』と悩ましいような声をあげて言う。
「そうだなぁ……。ワカメとか?」
「やっぱり考えることは、私と一緒だったか……」
ただの味噌汁の具材なのに、こんなに意見が合うっていうのも、楓と付き合うことを決めた理由なんだけど。
「朝ごはんだしね。味噌汁の具材は軽いものでいいかと思って」
「そっか。そうだよね」
そう言いながら、私はワカメを用意する。
楓と一緒に料理を作るのって、やっぱり楽しい。
これからも、ずっと一緒に作れたらなぁって思うんだけど。
そんなことができるのは、冬休みの間だけかな。
花音がやってきたのは、それからしばらくしてからの事だった。
今日は、思ったよりも早く目が覚めた。
それというのも、楓がいつの間にかいなくなっていたからだ。
たしか、お互いベッドの中で寝ていたはず。
それも裸で──。
セックスなどはしてくれなかったが、私のことを大事にするように抱きしめて寝てくれていたのはよく覚えている。
「弟くん? もう起きちゃったのかな? ──まったく。起きるのが早いよ」
お手洗いにでも行ったのかな?
だけど時間は5時半だし。
私はベッドからむくりと起き上がると、ゆっくりと下着類に手を伸ばし、それを身につけていく。
別に裸でもいいんだけど、一応下着くらいは付けておかないと、女の子としての品性を疑われてしまう。
それに、裸で家の中を彷徨くのはさすがによくないなって思ってしまったのだ。
楓もいることだし。
下着を身につけて部屋を出ると、そこで鉢合わせする形で花音と対面する。
花音は、あきらかにソワソワしていた。
「あ。お姉ちゃん」
「おはよう。どうしたの?」
「あのね。楓がね。キッチンで料理を作ってるの」
「うん。まぁ、いつものことじゃない」
楓が料理を作るのは、いつものことだけど。
どこに驚く要素があるんだろう。
「朝ごはんだよ。楓が私の家で朝ごはんを作ってくれてるんだよ。あれは、絶対に何か見返りを求めてくるような……」
「弟くんが、そんなものを求めてくるわけないでしょ。ただ単に、早く起きたから朝ごはんの支度をしてくれてるだけだって──。他意はないよ」
「そうなのかな? それだけなのかな? ひょっとして、私の体を求めてるんじゃ……」
「考えすぎだって。今までに、花音にそんなものを求めたことはないでしょ?」
「そうだけど……」
私の体なら、求めてくるんだけどね。
それよりも。
楓が、朝ごはんの支度をしてるのなら、私も手伝いに行かないと。
楓にばかり、そんなことを任せていられない。
そう思い、階段に向かおうとするとすぐに花音に腕を掴まれる。
「ちょっと、お姉ちゃん」
「ん? なに?」
「まさか、そんな格好で楓のところに行くつもりなの?」
「そうだけど。何か問題でもある?」
キョトンとした表情でそう言うと、花音はなぜか神妙な顔をして私を見つめてきた。
「やっぱり、そのくらいしないと楓は無理なのかな……」
そう言って、自身が着ている洋服をギュッと握っている。
何かあったのかな。
まぁ、私が気にするようなことじゃないだろう。
「とりあえず、私は行くね」
私はそう言って、立ち尽くしている花音をそのままにして階段を降りていく。
ウジウジと悩むくらいなら、すぐにでも行動しないと。
花音には悪いけど、私は行かせてもらう。
花音の言ったとおり、楓はキッチンで朝ごはんの支度をしていた。
「おはよう、弟くん」
「あ、香奈姉ちゃん。おはよう…って、何⁉︎ その格好はっ⁉︎」
楓は、私を見るなり驚いた表情を浮かべる。
そんなに驚くようなことなのかな。
私は思案げに首を傾げ、至極真っ当なことを言った。
「何って、普通の格好だけど……。別に驚くようなことでもないじゃない」
「いや……。さすがに下着姿でキッチンに入ってくるっていうのは……」
「何か問題でもある?」
この質問。花音にもしたような。
家の中なんだから、私がどんな格好をしたって自由なはずだ。
楓は、とても言いづらそうな表情になり後ずさる。
「問題というか……。普通は……」
「私の家でどんな格好していようが自由でしょ? そういうことだから、私も手伝ってあげるね」
「………」
私の言葉に、楓は何も言えなくなってしまう。
それと同時に、料理をしている手も止まる。
私は、すかさず言った。
「ほら。ぼーっとしてたら、焦げちゃうよ」
「あ、うん。ご、ごめん……」
楓は、我にかえったのかコンロの前に立ち、再び手を動かしはじめる。
その間に、私は近くにあったエプロンを身につけて、楓の傍に寄り添う。
裸エプロンって、こんな感じなのかな。
あまり意識してやったことないから、よくわからないんだけど。
「なるほど。お魚を焼いていたのか。だったら私は、お味噌汁を作ってあげようかな」
「か、香奈姉ちゃんに任せるよ」
楓は、何か言いたげな顔をしていたが、無理矢理苦笑いを浮かべて誤魔化す。
楓の言いたいことは、大体は私にもわかる。
だけど、これも楓に対してのアプローチのつもりだから、やめるつもりはない。
私は、いつもどおりに鍋に水を入れて、コンロの火を付ける。
朝ごはんになくてはならないものは、間違いなく味噌汁だろう。
もしかしたら、お弁当にも必要かもしれない。
そういえば中学生の頃も、楓はこうやって一人で朝ごはんなどを作っていたな。
あの頃は、楓が一人で朝ごはんなどを作っているのを見ても、なんとも思わなかったんだよな。
きっかけは、隆一さんの一言だった。
『そんなことは男じゃなくて女がやることだぜ。香奈もそう思うだろ?』
何気ないその言葉は、普段家事などをしている私の心に突き刺さったのだ。
そんな考えの人と付き合って、はたして私のことを大事にしてくれるのか。
私のその不安は、隆一さんと付き合っていた時に直面した。
隆一さんは、たしかに成績も優秀で運動神経も抜群である。しかし、家事などは壊滅的で、料理などはまずやらないのだ。
現に料理をしてる姿などは見たことがない。
全部、楓や楓のお母さんがやってくれるから、自身にまわってくることがないんだろう。
そういえば、私が隆一さんと付き合ってた時も、主に私が料理などをやっていたような気が。
忙しいときもそうだったので、もちろんバンド活動にも影響が出たくらいだった。
そんなことがだんだんと蓄積されてしまい、私自身もうんざりしてきたので、隆一さんとの付き合いをやめる判断になったのだが。
たぶん隆一さん本人は、気づいていないだろうな。
ところで味噌汁の具材は、何がいいだろうか。
私の家の冷蔵庫の中に入っているものだから、気兼ねなく使えばいいのだが、楓がいるからよけいに迷ってしまう。
無難にワカメがいいのかな。
「具材は何がいいかな? 楓は、何かリクエストとかはある?」
私は、とりあえずそう訊いてみた。
彼の好みがなんなのか気になったのだ。
楓は、料理中にもかかわらず『う~ん』と悩ましいような声をあげて言う。
「そうだなぁ……。ワカメとか?」
「やっぱり考えることは、私と一緒だったか……」
ただの味噌汁の具材なのに、こんなに意見が合うっていうのも、楓と付き合うことを決めた理由なんだけど。
「朝ごはんだしね。味噌汁の具材は軽いものでいいかと思って」
「そっか。そうだよね」
そう言いながら、私はワカメを用意する。
楓と一緒に料理を作るのって、やっぱり楽しい。
これからも、ずっと一緒に作れたらなぁって思うんだけど。
そんなことができるのは、冬休みの間だけかな。
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