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第十八話

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先輩たちがデートしているのを見るのって、なんだか覗き見をしているみたいで罪悪感があるかも。
私たちは私たちでデートを楽しめばいいだけなんだけど、あの宮繁先輩が男子と一緒に歩いている光景を見るだけでも新鮮だ。
これは是非とも、最後まで見届けなければならない。
次に二人が入っていったのは、洋服店だった。
あの洋服店は私もよく下着などを買ってる店だ。
あいにくとあの洋服店には、隠れられるような場所はない。

「どうする? とりあえず中に入ってみる?」

楓は、神妙な表情でそう訊いてきた。
とりあえず、二人と鉢合わせても大丈夫だとは思うけど。
偶然を装うのは、厳しいかも……。

「しばらく待ってからにしてみよう。すぐに入るのは、さすがにバレちゃうかも」
「うん。そうだね」

楓も同感だったみたいだ。
楓のことだから、私に気を遣っているんだろう。
どちらにしても、偶然を装うには少し時間をずらして入る方がいい。
とりあえず、私たちは5分くらい経ってから入る事にした。

「いらっしゃいませ」

いつもの女性の店員さんが声をかけてくる。
私たちが店の中に入ると、案の定、二人はこちらを一瞥してきたが、何事もなかったかのように向き直り、洋服を選び始める。
てっきり話しかけてくるかと思っていたんだけどな。
中野先輩からはそんな素振りを見せなかったけど、宮繁先輩に関しては、あきらかに私たちに何かを言いたげな様子だった。だけど、結局言ってくることはなかった。
きっと正体をバレたくなかったんだろう。そうに違いない。
二人がそうした以上、私たちもあくまでも知らないフリをしておかないと。
とりあえず私は、近くにかけられている洋服とスカートを手に取った。
スカートは、丈は少し短いが端にフリルが付いた可愛いものだ。

「ねぇ、楓。私、ちょっとこの服を試着してこようと思うんだけど。その……」
「どうしたの? 何かあったの?」

楓は、思案げに首を傾げる。
その顔はまさに『試着してくれば』って言うような感じだ。
あ。これはダメだ。
一緒に来てくれそうにないな。
そう思った私は、楓の手をギュッと掴んで言った。

「楓にも見てほしいから、一緒に来てほしいんだけど。…ダメかな?」

私は、上目遣いで楓のことを見る。
ここまでやれば、さすがの楓も断れないだろう。
ところが──

「う~ん……。あまり気乗りしないんだけど……」

楓は、困ったかのような表情を浮かべ、そう言っていた。
楓が、私の言うことを聞かないというのはめずらしい。
何か理由があるんだろう。
そう思い、私がちらりと見やると、周りにいる女性店員さんたちがなぜかドキドキしたような表情でこちらを見ている。
どうやら女性店員さんのこともあって、楓は恥ずかしがっているみたいだ。
見られているからって、そんな顔をしなくてもいいのに。
私は、楓の耳元で囁くように言った。

「店員さんのことは気にしなくていいからね。私たちは私たちでデートを楽しめばいいんだよ」
「うん……。わかってはいるんだけど……」

楓は、何か言いたげに私を見てくる。
楓の言いたいことは、わかってる。
宮繁先輩たちのことなら、大丈夫だ。
今のところ、私たちが尾行しているってことには気づいていない。
多少はビックリしてるだろうけど、私たちに話しかけてくる様子はないみたいだし。

「とりあえず。ちょっと待っててね」

私は、楓の返答を聞かずに試着室に入った。
いちいち楓の許可なんて聞いてる暇はないし。
私が安心して洋服を試着していると、外の方から話し声が聞こえてきた。

「周防君は、デートなのかい?」

どうやら話しかけてきたのは、中野先輩みたいである。
私が試着室に入っていったのを見計らっていたようだ。

「あ、はい。一応は……」
「そうか……」
「先輩は? デートじゃないんですか?」

いきなり、ど直球すぎだよ。弟くん。
でもまぁ、私がその場にいても同じことを訊いていると思うから、別にいいか。

「俺の方は、そうだな。デート…になるのかな。どうだろう……」

中野先輩の返答からは、なぜか迷いが感じられた。
試着室から盗み聞きしてるだけなので、中野先輩がどんな表情をしてるのかわからないけど。
どうやら宮繁先輩とのデートっていう感じではなさそうだ。

「違うんですか?」
「う~ん……。あいつの捉え方次第かな。彩奈がデートって言えばデートになるし、そうじゃないって言えばデートじゃないんだろうな」
「なるほど」

楓は、納得したようにそう言っていた。
さっきから宮繁先輩の声がしないけど、別の場所にある試着室にいるのかな。
このままだと何もわからない。
とりあえず持ってきた洋服を試着して外の様子を見てみよう。
洋服の試着をして、さっそく試着室のカーテンを開けると、目の前にいる楓に声をかける。

「どうかな、楓? 似合っているかな?」
「うん。いい感じだよ」

楓は、微笑を浮かべてそう答えた。
楓の近くには、中野先輩もいる。
あれ?
宮繁先輩は?
そう思ったが、私がそんなことを聞けるわけもない。
私は、それを誤魔化すように不満げな表情をして楓に言葉を返した。

「なんかテキトーに答えてない?」
「いや……。そんなことは──」
「そんなこと、充分にあるでしょ! 昔から楓はそういうところははっきりとしないんだから──」
「うぅ……。そう言われてしまうと返す言葉がない……」

楓は、中野先輩に助けを求めるかのように、そっちを見やる。
中野先輩は、その場の空気を読んだのかフッと微笑を浮かべた。

「そっちはホントに仲が良いんだな。なんだか羨ましいよ」
「先輩だって、仲が良いんじゃないんですか? 誰かとは言いませんけど」

私は、呆れた様子を見せてそう言う。
楓の感想も聞けたことだし、この服を試着している意味はない。
中野先輩の言葉を聞いたら、試着をやめよう。

「俺と彩奈とは、仲が良いなんてことはないかと思うんだが……」
「それじゃ、どうして宮繁先輩と一緒に?」
「それはだな。彩奈のやつが──」
「私がどうしたの?」

中野先輩の言葉を遮るように、宮繁先輩は現れた。
それも不機嫌そうな顔をしてだ。
中野先輩は、楓の方を一瞥してから口を開く。

「いや……。なんでもない。それよりも、試着はもういいのか?」
「ええ。もういいわよ。どうやら私たちのデートに興味があるカップルさんがいるみたいだし」
「………」

宮繁先輩の剣幕に中野先輩は、何も言えなくなってしまう。
どうやら、宮繁先輩は別の試着室にいたみたいだ。
中野先輩がこっちに来たから、気になったのかな。

「まぁ、いいわ。私も、あなたたちのデートが気になっていたし。どうかな? 暇なら、これから私たちと一緒に歩くっていうのは──」
「いや、さすがに僕たちはちょっと……」
「まさか断らないわよね? わざわざ私たちの後ろを、こっそりついて来てたくらいなんだし」
「それって……」

楓は、言葉をもらしてしまう。
それでも落ち着いた様子だったから、二人とはあくまでも自然な形で出会したってだけのもののはずだ。
それでも内心では、非常に慌てている状態だけど。
ひょっとして、バレてるのかな。
宮繁先輩は、自身も眼鏡を外してイメチェンしてる状態だったからか言った。

「ひょっとして違ってた? それだったら、無理にとは言わないけれど。私と英司とのデートを誰にも言わないっていうのなら、特別にダブルデートっていうのも──」

私が今の洋服の試着をやめて元の服装に戻そうとしてる中で、宮繁先輩は話を進めていく。

「いや……。さすがにそれは……」

楓は、やんわりと断ろうとしていた。
残念だけど、ここで断っちゃったらこの二人を見届ける事が難しくなっちゃうよ。
だから楓の返答は却下かな。
私は、元の服装に戻してから試着室のカーテンを開ける。

「いいですね、それ。私たちもご一緒させてください」
「ちょっ……。香奈姉ちゃん⁉︎ 僕たちは──」

楓が何か言いかけたところを手で遮り、私はさらに言った。

「楓とのデートだけじゃ、ちょっと飽きてきたところだったんです」
「そう? 西田さんがそう言うのなら、いいんだけど。まぁ、いい機会かもしれないわ。一緒に行きましょう」
「はい!」

私は、笑顔で返事をする。
これで堂々と二人の成り行きを見守ることができる。
楓がどう思おうが、この際関係ない。
初めは楓と一緒にこっそりと見守ろうと考えてたけど、向こうから接触を図ってきた以上、仕方のないことだと思う。
楓には、後でたくさんスキンシップをとっておこうかな。
うん。絶対にそうしておこう。
とりあえず、試着した洋服とスカートが気に入ったので、そのまま購入することに決めた。
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