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第十八話

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僕は、いつもどおりと言うべきか香奈姉ちゃんと一緒に街の方にやってきていた。
いわゆるデートというやつだ。
相変わらず周りの人達の視線が痛いが、それでもなんとか恋人繋ぎをして歩いている。
知っている人はいないかと思っていたのだが、通りの向こう側である人物が目に映り、僕は咄嗟に物陰に入った。
向こうはこちらに気づいた様子はなく、普通にその場に立っている。

「どうしたの?」

当然のことながら、僕と一緒だった香奈姉ちゃんは思案げに訊いてくる。
それもそうだ。
僕が突然、そんな行動を起こしたんだから。不審に思って当然だと思う。
僕は、ある人物がいる通りの向こう側を指し示す。

「あの人は──」
「ん? 誰か知り合いでもいるの?」

香奈姉ちゃんは興味があったのか、僕が指し示した場所を見やる。
そして、すぐに声を上げた。

「あ。あの人。楓の学校の先輩じゃない。たしか中野先輩だったよね? あんなところで何を……?」
「僕もそれが気になってしまって……。ひょっとして、誰かと待ち合わせかな?」

中野英司先輩は、腕時計を見やりながら、その場に立っている。
間違いない。
あれは、あきらかに誰かを待っている感じだ。
時間を確認すると、午前11時になる10分前だ。これは確実に誰かと待ち合わせをしている。
気になるお相手は、誰だろう。
そう思っていた矢先に、その人物はやってきた。
中野先輩のところに向かっていったのは女の子だ。
僕も、多少なりとも面識がある。

「え……。まさか、宮繁先輩⁉︎ これって、どういう事なの?」

香奈姉ちゃんは、驚いた様子でそう言っていた。
僕が知る限りでは、たしか彼女の名前は宮繁彩奈先輩で、学校では眼鏡を掛けていたような気がしたけど。
今回、宮繁先輩は眼鏡を外し、お洒落で可愛い服装で中野先輩に何やら話しかけていた。
おそらくコンタクトにしてるんだろう。
見た目の堅苦しさがなくなり、可愛さが前面に出ている。
中野先輩もかなりのイケメンだ。
こうして見たら、美男美女カップルになっている。
二人は、他のカップルたちと違和感もなく歩き始めた。
どうやら、これが初めてではないようだ。

「どうする? あとをつけてみる? あんな場面を見てしまったら、興味しか湧かないよ」
「そうだね。こっそりあとをつけてみよう。これは、ちょっと興味あるかも──」

香奈姉ちゃんも、興味津々のようだ。
ワクワクしたような表情でそう言ってくる。
こんな場面でワクワクされてもな。
こっちは、中野先輩たちに気づかれてしまわないかとハラハラものなんだけど……。
もしかしたら、もう気づかれてるかもしれないし。
どっちにしても、普段はいがみ合ってる二人がデート紛いのことをしているのは見逃せない。
ぜひにでも、見届けなければ。

まず二人が入っていったのは、眼鏡店だった。
普段のデートでも眼鏡店に行くことって、絶対にないと思う。
宮繁先輩が掛けている眼鏡の矯正だろうか。
それとも──
とても気になってしまったが、眼鏡店には用件がないので、僕たちには入りづらいところだ。
香奈姉ちゃんは、気になったのか僕に訊いてくる。

「どうしようか? 中に入ってみる?」
「眼鏡屋には、さすがに……。用件もないし……。それに──」

これ以上は、二人にバレちゃいそうだ。
それを察したのか、香奈姉ちゃんは言った。

「うん。さすがにバレちゃうよね。…寒いけど仕方ない。しばらく待ってみよう」
「うん」

香奈姉ちゃんの考えは、僕と同じだったみたいだ。
それにしても、香奈姉ちゃんの服装はどう考えても薄着だと思うんだけど大丈夫なのかな。
一応ジャケットを羽織っているけど、中に着ているであろうセーターにミニスカートはまずいだろう。
いくら冬の装いでも、もう少し防寒対策に力を入れてもいいんじゃないか。
ストッキングは履いているのかな?
どう見ても素足に見えるので、とても気になってしまう。

「どうしたの? 私の脚に何かついてる?」
「ううん。別に……」

僕は、そう言ってすぐに香奈姉ちゃんの脚から視線を逸らし、眼鏡店の方を見やる。
本人は寒がっては…いるだろうけど、敢えて見ない方がいいかな。

「今日はね。ちょっとした買い物感覚で出てきたから、ストッキングは履いてないんだよね。だから楓が暖めてくれると嬉しいな」

香奈姉ちゃんは、そう言って僕に寄り添ってくる。
やっぱり、そうくるか。
でも、しょうがないよね。二人に気づかれずに待たないといけないし。

「まぁ、しょうがないよね」
「うんうん。楓なら、そう言ってくれると思っていたよ」

香奈姉ちゃんは、笑顔でそう言った。
僕と一緒なら、他の男性たちに声をかけられてしまう心配もないからね。
その辺りは安心しているってことだろう。
しばらくして、中野先輩と宮繁先輩の二人が店から出てくる。

「あ。出てきた」

香奈姉ちゃんは、そう言って体を乗り上げてきた。

「ちょっ……。香奈姉ちゃん」

僕は、前のめりになりそうなところを堪えて、なんとか体勢を維持する。
あまり目立つようなことはできない。
香奈姉ちゃんも、それはわかっているはずだ。
香奈姉ちゃんは、静かに二人を見守っている。
二人がそのままデートをするつもりなら、別の場所に行くはずだ。
さて、どうするんだろうか。
そう思っていた矢先、香奈姉ちゃんがこんなことを言い出した。

「どうする、楓? このまま二人の後をつけていっても、絶対にバレちゃうと思うんだよね。だから、どこかで変装用の帽子とか買ってバレないようにしてみようか?」
「そうだね。その方が安心かな」

たしかに二人にバレないようにするのは大事なことだ。
その代わり、二人を見失わないようにするのが絶対条件だけど。
大丈夫なのかな。
中野先輩と宮繁先輩は、案の定というべきか街の方に向かって歩きだした。どうやら、デートを続行するつもりだ。

「とりあえず、二人の後を追いかけよう。変装用の帽子は、それからかな」
「う、うん」
「そういうことだから。行ってみよう」

香奈姉ちゃんは、僕の手をギュッと掴んで歩きだす。
気のせいか、野次馬根性丸出しのような感じがするのは僕だけだろうか。
変装用の帽子を買う前に、二人にバレなきゃいいんだけど。
僕は、そっちの方が心配だ。
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