217 / 350
第十八話
7
しおりを挟む
二人が入っていったのは、ファミレスだった。
買い物がある程度終わったから、一旦休憩といったところだろうか。
とにかく。
このまま外で待つのは、寒くてきつい。
私は、ファミレスに向かおうとする。
しかし、古賀千聖にグイッと腕を掴まれて、引き止められた。
「ちょっと……。どうするつもりなんですか?」
「決まっているでしょ。中に入って、二人を観察するの」
「そんなことしたら……。完全にストーカーじゃないですか⁉︎」
「………」
なんて言ったらいいんだろうか。
まさか彼女から、そんな言葉が出てくるなんて思わなかったから、一瞬だけ思考がフリーズしてしまった。
それでも、思考が正常に戻るまでに、そんな時間はかからなかったけど。
「いや、ストーカーって……。あなたの口から、そんなことが言えるの? どう考えても、人のことは言えないよね」
「うっ……。それは……」
彼女も、自身のやっている事に多少なりとも自覚はあったんだろう。
私の言葉に反論できない様子だった。
私自身もここまでやってる以上、今さら引き下がるわけにはいかないし。
「とにかく。弟くんたちに気づかれないように中に入るわよ」
「う、うん」
古賀千聖は、不安そうな表情で私の後をついてくる。
仮に彼女一人だったら、どこまで追いかけるつもりだったんだろう。
聞きたい気もしたが、今はそんなことをする暇はない。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
店員さんからそう言われ、私と古賀千聖は、楓たちが座っている場所から比較的近い場所の席に座る。
それでも、楓たちにバレないようにだが。
すると、楓たちの席の方から声が聞こえてきた。
「ねぇ、何にしよっか?」
「僕は、炒飯セットにしておこうかな」
「それを選ぶとは……。無難なセレクトですな」
「そんなことは……。ただ単に食べたかったから選んだだけで……」
「そっか。それじゃ、私は中華そばセットにしようかな」
美沙ちゃんは、そう言って呼び鈴を鳴らしていた様子である。店員さんが駆け寄っていったのがわかった。
さすがに何か頼まないと、店の人に失礼か。
そう思った私は、古賀千聖に視線を向けて訊いていた。
「私たちも、何か頼もうか?」
「奢ってくれるのなら、いいですよ」
彼女は、悪戯っぽい笑みをつくりそう言ってくる。
どうやら、そこまでのお小遣いは持っていないらしい。
私は、仕方ないと言わんばかりにため息を吐く。
「今回だけだよ。…だけど、そこまで高いものは無理だからね。そこのところは、わかってもらえるといいな」
「それじゃ、パスタ系にしておこうかな。これだと値段的にも安いし──」
「パスタ系か……。どれどれ……」
古賀千聖がそう言ったので、私もメニュー表を確認する。
ファミレスにパスタ系なんてあるのかとも思ったが、意外にもあった。
どれも、値段的には高いとも安いとも言い切れなかったが。
彼女の『安い』という定義は、どうなっているのか不思議だ。だけど──
「やっぱり、私もあなたと同じパスタ系にしておこうかな」
「それがいいですよ。量的にも、ちょうどいいし」
古賀千聖は、屈託のない笑みを浮かべてそう言った。
そこまで言われたら、頼まないわけにはいかないか。
「それじゃ、頼みましょうか?」
「オッケー」
私の言葉に古賀千聖はそう答え、テーブル席に置かれている呼び鈴を押した。
やっぱり、注文をするのは先輩である私がするべきなんだろうか。
う~ん……。
古賀千聖の食べたいパスタの種類が違うかもしれないし、自分の分しか注文はできないよ。
しばらくしないうちに、店員さんがやってくる。
「お待たせしました。ご注文は、何になさいますか?」
そう聞かれたが、私から言うのは彼女を迷わせてしまうと判断し、注文するのは彼女が頼んでからにした。
ちなみに、古賀千聖が注文したのはミートソースパスタで、私が注文したのはきのこの和風パスタだった。
私たちが注文してからしばらくしないうちに、楓の席の方から声が聞こえてくる。
美沙ちゃんが先に楓に声をかけたのだ。
「ねぇ、楓君。単刀直入に聞くけどさ。香奈と付き合っているみたいだけど、どこに惚れたの?」
美沙ちゃんの言葉に、私はドキンとなる。
私のどこに惚れたって言われて、楓は答えることができるのかな。
そもそもの話、私がいないと思われる時に、そんな話を振る方もどうかしてる。
でも楓の本心が聞けると思うとなんとも微妙だが、聞きたいような聞きたくないような、そんな複雑な気持ちになってしまう。
率直に言うと、私は楓のことが大好きだ。
だけど、楓は私のことをどんな風に思っているんだろう。
やっぱり、ただのお姉ちゃん的な存在なんだろうか。
まぁ、それでも構わないんだけど。
「香奈姉ちゃん…ですか? いきなりそんなこと言われてもな。幼馴染だから、お互いのことを見知っているし。その……」
「ふむふむ。頭が良くて美人で、さらには思いやりもある理想のお姉さんであると──」
「理想かどうかはわからないけど……。僕の大事な人なのは、たしかかな」
「そっか。それを聞いて安心したよ。…私もね。楓君のことを『弟』だと思っているからさ。私たち以外の他の女の子を好きになってほしくないんだ。できるなら、香奈のことを一途に想っていてほしいんだよ」
「美沙先輩」
「私のことは気にしなくていいからね。こうやって、気軽にデートできる間柄で充分に満足なんだ」
あきらかに美沙ちゃんが無理をしてるのはわかるのだが、だからといって何か言えるような空気でもない。
そうこうしているうちに、店員さんが楓たちの席に料理を持って行く。
「お待たせ致しました。炒飯セットのお客様は?」
「僕です」
楓は、手を上げて答える。
すると、楓の前に料理が運ばれた。
料理が運ばれたからといって、先に食べ始めるわけではない。
私は、楓の癖を知っているから言えることだけど、楓の場合、相手のことを想っているせいからか、相手が頼んだ料理が運ばれて食べ始めるまで、絶対に食べないのだ。
私とのデートの時でも、それが何度もあるのだから、間違いないと思う。
美沙ちゃんは、やはりそれが不思議に思ったのか、訊いていた。
「食べないの?」
「食べるけど……。美沙先輩が注文したものが来てからでもいいかなって思って……」
「そうなの? はっきり言っておくけど、シェアとかはしないからね」
「うん。わかってるよ。中華そばはさすがにシェアはできないでしょ」
「まぁ、そうだけど……」
美沙ちゃんは、楓の返答に釈然としてないようだ。
でも楓は、自身のところに運ばれてきた料理に手をつけることなく、美沙ちゃんを見ている。
不審に思った美沙ちゃんは、訝しげな表情を浮かべて言った。
「もしかして、誰かを待ってるの?」
そうじゃないんだけど。
これは楓の癖なんだけど。
それを理解するのは、なかなかむずかしいかもしれない。
「どうして?」
「楓君の仕草から──。誰かを待ってるのかなって思って……」
「誰も待ってないけど……」
「それじゃ、なんで食べないの? 料理が冷めちゃうよ」
美沙ちゃんは、至極真っ当なことを言ってるんだろうけど、それでも楓は食べようとはしないと思う。
「わかってはいるんだけどね。…なんとなく」
楓は、そう言っていた。
たぶん、気難しそうな表情を浮かべているんだと思う。
「料理は熱いうちに食べるのが──」
と、美沙ちゃんが何かを言いだす前に、美沙ちゃんが注文した料理が運ばれてきた。
「中華そばセットのお客様。お待たせ致しました」
「あ……。私です。ありがとうございます」
美沙ちゃんのところに、注文した料理が置かれる。
ちなみに、私たちが注文したものが来るのは、おそらくその後だろう。
注文したタイミングが、美沙ちゃんが頼んだ後だったからだ。
美沙ちゃんは、微笑を浮かべて楓に言っていた。
「さて。料理も来たみたいだし。食べよっか?」
「そうですね」
楓は、そう言って炒飯に視線を向ける。
少しだけ冷めてしまったみたいだが、楓にとっては美沙ちゃんが頼んだ料理を待つことくらい、なんてことないんだよな。
そうこうしてるうちに店員さんがやって来て、私たちが注文したきのこの和風パスタとミートソースパスタが運ばれてくる。
「私たちも、食べよっか?」
「そうですね」
古賀千聖は、緊張が解れたのか軽く息を吐いていた。
買い物がある程度終わったから、一旦休憩といったところだろうか。
とにかく。
このまま外で待つのは、寒くてきつい。
私は、ファミレスに向かおうとする。
しかし、古賀千聖にグイッと腕を掴まれて、引き止められた。
「ちょっと……。どうするつもりなんですか?」
「決まっているでしょ。中に入って、二人を観察するの」
「そんなことしたら……。完全にストーカーじゃないですか⁉︎」
「………」
なんて言ったらいいんだろうか。
まさか彼女から、そんな言葉が出てくるなんて思わなかったから、一瞬だけ思考がフリーズしてしまった。
それでも、思考が正常に戻るまでに、そんな時間はかからなかったけど。
「いや、ストーカーって……。あなたの口から、そんなことが言えるの? どう考えても、人のことは言えないよね」
「うっ……。それは……」
彼女も、自身のやっている事に多少なりとも自覚はあったんだろう。
私の言葉に反論できない様子だった。
私自身もここまでやってる以上、今さら引き下がるわけにはいかないし。
「とにかく。弟くんたちに気づかれないように中に入るわよ」
「う、うん」
古賀千聖は、不安そうな表情で私の後をついてくる。
仮に彼女一人だったら、どこまで追いかけるつもりだったんだろう。
聞きたい気もしたが、今はそんなことをする暇はない。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
店員さんからそう言われ、私と古賀千聖は、楓たちが座っている場所から比較的近い場所の席に座る。
それでも、楓たちにバレないようにだが。
すると、楓たちの席の方から声が聞こえてきた。
「ねぇ、何にしよっか?」
「僕は、炒飯セットにしておこうかな」
「それを選ぶとは……。無難なセレクトですな」
「そんなことは……。ただ単に食べたかったから選んだだけで……」
「そっか。それじゃ、私は中華そばセットにしようかな」
美沙ちゃんは、そう言って呼び鈴を鳴らしていた様子である。店員さんが駆け寄っていったのがわかった。
さすがに何か頼まないと、店の人に失礼か。
そう思った私は、古賀千聖に視線を向けて訊いていた。
「私たちも、何か頼もうか?」
「奢ってくれるのなら、いいですよ」
彼女は、悪戯っぽい笑みをつくりそう言ってくる。
どうやら、そこまでのお小遣いは持っていないらしい。
私は、仕方ないと言わんばかりにため息を吐く。
「今回だけだよ。…だけど、そこまで高いものは無理だからね。そこのところは、わかってもらえるといいな」
「それじゃ、パスタ系にしておこうかな。これだと値段的にも安いし──」
「パスタ系か……。どれどれ……」
古賀千聖がそう言ったので、私もメニュー表を確認する。
ファミレスにパスタ系なんてあるのかとも思ったが、意外にもあった。
どれも、値段的には高いとも安いとも言い切れなかったが。
彼女の『安い』という定義は、どうなっているのか不思議だ。だけど──
「やっぱり、私もあなたと同じパスタ系にしておこうかな」
「それがいいですよ。量的にも、ちょうどいいし」
古賀千聖は、屈託のない笑みを浮かべてそう言った。
そこまで言われたら、頼まないわけにはいかないか。
「それじゃ、頼みましょうか?」
「オッケー」
私の言葉に古賀千聖はそう答え、テーブル席に置かれている呼び鈴を押した。
やっぱり、注文をするのは先輩である私がするべきなんだろうか。
う~ん……。
古賀千聖の食べたいパスタの種類が違うかもしれないし、自分の分しか注文はできないよ。
しばらくしないうちに、店員さんがやってくる。
「お待たせしました。ご注文は、何になさいますか?」
そう聞かれたが、私から言うのは彼女を迷わせてしまうと判断し、注文するのは彼女が頼んでからにした。
ちなみに、古賀千聖が注文したのはミートソースパスタで、私が注文したのはきのこの和風パスタだった。
私たちが注文してからしばらくしないうちに、楓の席の方から声が聞こえてくる。
美沙ちゃんが先に楓に声をかけたのだ。
「ねぇ、楓君。単刀直入に聞くけどさ。香奈と付き合っているみたいだけど、どこに惚れたの?」
美沙ちゃんの言葉に、私はドキンとなる。
私のどこに惚れたって言われて、楓は答えることができるのかな。
そもそもの話、私がいないと思われる時に、そんな話を振る方もどうかしてる。
でも楓の本心が聞けると思うとなんとも微妙だが、聞きたいような聞きたくないような、そんな複雑な気持ちになってしまう。
率直に言うと、私は楓のことが大好きだ。
だけど、楓は私のことをどんな風に思っているんだろう。
やっぱり、ただのお姉ちゃん的な存在なんだろうか。
まぁ、それでも構わないんだけど。
「香奈姉ちゃん…ですか? いきなりそんなこと言われてもな。幼馴染だから、お互いのことを見知っているし。その……」
「ふむふむ。頭が良くて美人で、さらには思いやりもある理想のお姉さんであると──」
「理想かどうかはわからないけど……。僕の大事な人なのは、たしかかな」
「そっか。それを聞いて安心したよ。…私もね。楓君のことを『弟』だと思っているからさ。私たち以外の他の女の子を好きになってほしくないんだ。できるなら、香奈のことを一途に想っていてほしいんだよ」
「美沙先輩」
「私のことは気にしなくていいからね。こうやって、気軽にデートできる間柄で充分に満足なんだ」
あきらかに美沙ちゃんが無理をしてるのはわかるのだが、だからといって何か言えるような空気でもない。
そうこうしているうちに、店員さんが楓たちの席に料理を持って行く。
「お待たせ致しました。炒飯セットのお客様は?」
「僕です」
楓は、手を上げて答える。
すると、楓の前に料理が運ばれた。
料理が運ばれたからといって、先に食べ始めるわけではない。
私は、楓の癖を知っているから言えることだけど、楓の場合、相手のことを想っているせいからか、相手が頼んだ料理が運ばれて食べ始めるまで、絶対に食べないのだ。
私とのデートの時でも、それが何度もあるのだから、間違いないと思う。
美沙ちゃんは、やはりそれが不思議に思ったのか、訊いていた。
「食べないの?」
「食べるけど……。美沙先輩が注文したものが来てからでもいいかなって思って……」
「そうなの? はっきり言っておくけど、シェアとかはしないからね」
「うん。わかってるよ。中華そばはさすがにシェアはできないでしょ」
「まぁ、そうだけど……」
美沙ちゃんは、楓の返答に釈然としてないようだ。
でも楓は、自身のところに運ばれてきた料理に手をつけることなく、美沙ちゃんを見ている。
不審に思った美沙ちゃんは、訝しげな表情を浮かべて言った。
「もしかして、誰かを待ってるの?」
そうじゃないんだけど。
これは楓の癖なんだけど。
それを理解するのは、なかなかむずかしいかもしれない。
「どうして?」
「楓君の仕草から──。誰かを待ってるのかなって思って……」
「誰も待ってないけど……」
「それじゃ、なんで食べないの? 料理が冷めちゃうよ」
美沙ちゃんは、至極真っ当なことを言ってるんだろうけど、それでも楓は食べようとはしないと思う。
「わかってはいるんだけどね。…なんとなく」
楓は、そう言っていた。
たぶん、気難しそうな表情を浮かべているんだと思う。
「料理は熱いうちに食べるのが──」
と、美沙ちゃんが何かを言いだす前に、美沙ちゃんが注文した料理が運ばれてきた。
「中華そばセットのお客様。お待たせ致しました」
「あ……。私です。ありがとうございます」
美沙ちゃんのところに、注文した料理が置かれる。
ちなみに、私たちが注文したものが来るのは、おそらくその後だろう。
注文したタイミングが、美沙ちゃんが頼んだ後だったからだ。
美沙ちゃんは、微笑を浮かべて楓に言っていた。
「さて。料理も来たみたいだし。食べよっか?」
「そうですね」
楓は、そう言って炒飯に視線を向ける。
少しだけ冷めてしまったみたいだが、楓にとっては美沙ちゃんが頼んだ料理を待つことくらい、なんてことないんだよな。
そうこうしてるうちに店員さんがやって来て、私たちが注文したきのこの和風パスタとミートソースパスタが運ばれてくる。
「私たちも、食べよっか?」
「そうですね」
古賀千聖は、緊張が解れたのか軽く息を吐いていた。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。
白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる