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第十二話
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千聖が言ってた文房具屋さんは、僕がいつも音楽のノートを買いに来てた場所だった。
最近は来なくなってしまったが、どこに何があるのかは、今でもよくわかる。
千聖は、まっすぐに原稿用紙があるところに向かって歩いていく。
「実はね。楓君と出会ったのは、ここなんだよ」
「え……。ここで?」
「そうだよ。楓君はその時、音楽のノートを買いにこの店によく来てたよね」
「その時って、僕がまだ中学生の頃の話だったような……」
僕は、そう言って神妙な表情になる。
中学生の頃はバンドに興味があり、独自で曲作りなどをやっていた時だ。
その時は、何冊も音楽のノートを買っていったのを今も覚えている。
千聖は、中学生の頃のことを思い出したのかクスッと笑い、僕に言った。
「うん。その時から、ちょっと気になっていたんだよね。音楽のノートばっかり買っていくものだから、何書いてるのかなぁって──」
「いや、あの時は……。周囲の人の目も気にせずに歌詞や曲を書いてたから……」
「どんな曲を作っていたの?」
「それは……。言うのも恥ずかしいくらいのものだよ」
僕は、思わず苦笑いをする。
今、読み返したらポエムかと思うくらいに恥ずかしいものだ。
何であんなものが書けたんだろうと思うくらいに……。
千聖は可笑しかったのかクスッと笑い、訊いてきた。
「それって、私が描いてる漫画くらい恥ずかしいものなの?」
「どうだろう。千聖さんの漫画を見たわけじゃないからなぁ。何とも言えないや」
「私の漫画…かぁ。たしかに、今は持ってきてないから、見せることはできないけど。機会があったら、見せてあげるよ」
「ホントに?」
「そのかわり、楓君が作詞したものを見せてくれないかな?」
「え、いや……。さすがにそれは……」
「私の漫画、見たくないの?」
千聖は、甘えるような表情でそう言ってくる。
そう言われてしまうと見たいような気もするけど、交換条件に僕のポエム的なアレを見せなきゃいけないってなると話は別だ。
「やっぱりやめておこうかな」
僕は、千聖の提案を丁重に断る。
アレだけは、世に出したらいけない代物だ。
どんな条件を出されようと、のむわけにはいかない。
「え~。ダメなの? それなら、私の新作の漫画込みならどう? 見せてくれるかな?」
千聖は、どうしても僕が書いたアレを見たいのか、そう言ってきた。
どんなに良い条件を出されても、僕の意思は変わらないです。
「ごめん……。それだけは、勘弁して。兄貴や香奈姉ちゃんにすら見せたこともないものだから……」
「やっぱりダメか……。それなら、私が楓君の専属メイドになってご奉仕するっていうのならどうかな?」
「え……。ご奉仕って……?」
「言葉どおりの意味だよ。楓君にご奉仕するの」
「それは遠慮しておくよ。専属メイドなら、もう間に合ってるし……」
そう言いかけたところで、途中でやめる。
まさか香奈姉ちゃんが僕の専属メイドになっているだなんてこと、千聖さんには言えないし……。
「間に合ってるって、どういう意味よ?」
「いや、こっちのことです」
そう言って、僕は千聖から離れていく。
「ちょっと⁉︎ きちんと説明しなさいよ。逃げるな!」
千聖は、そう言いながら追いかけてくる。
やっぱり言えるわけがない。
千聖には悪いけど……。
僕は、先に文房具屋さんを後にした。
千聖は、自分の買い物を済ませると、不満そうな顔をして文房具屋さんから出てくる。
「…まったくもう! 楓君が先に出ちゃうもんだから、ゆっくり見てくることができなかったじゃない!」
「ごめん……」
僕は、謝ることしかできなかった。
あんな場所でメイドになるとかっていう話題を振られると、逃げたくもなる。
なにより、周囲の人の視線が痛いし……。
「まぁ、あの場所であんなことを言ってしまった私も悪かったんだけどさ……」
千聖は、恥ずかしかったのか頬を赤くする。
頬を染めて言う辺り、千聖にも自覚はあるんだろうな。
そんな彼女を責めるのは、どうにも憚られてしまう。
「頼むからあんな冗談は、絶対に言わないでね。勘違いしちゃう人もいるかもしれないから」
「半分は冗談なんかじゃないんだけどな……」
「え……。それって?」
僕がそう聞き返すと、千聖はなぜか物欲しそうな表情で僕を見上げてきて言ってくる。
「楓君が望むのなら、専属メイドにくらい、なってあげるよ」
「それは……」
僕は、はっきりと拒否できなかった。
その時点で、古賀千聖という女の子に魅入られてしまっているってことなんだろう。
でも、ここはハッキリと言っておかないといけない。
「丁重にお断りしておくよ」
「どうして? 私は、西田先輩みたいに奥手じゃないよ」
千聖は、そう言って僕の腕を掴んでくる。
千聖にとっては、香奈姉ちゃんってそんな風に見えてしまうのか。
しかし、僕は知っている。
積極的にエッチなことをしてくる香奈姉ちゃんの姿を……。
「香奈姉ちゃんは、あんな風に見えて、好きな男性にはけっこう積極的なんだ」
「なるほど。それで、西田先輩はあなたの専属メイドになっているってわけか」
千聖は、納得したようにそう言う。
ん……。
全部バレてる?
「あの……。千聖さん?」
「わかっていないと思ってた? 初めから全部わかっていたわよ」
「えっと……」
「初めから全部わかっていて、あなたの専属メイドになりたいって言ってるんだけど……。それでもダメかな?」
「ごめん……。気持ちは嬉しいんだけど。やっぱり無理があるって言うか……」
僕の専属メイドになりたいっていう気持ちはわかるんだけど、距離的に無理があるような気がするんだよな。
そもそも、どうして僕なんかの専属メイドになりたいって思うのか、そこら辺が不思議なんだけど。
「メイドが一人から二人になるんだよ。楓君にとっては嬉しいことじゃないの?」
「そういうのは一人で間に合っているかな。それに──」
「それに、楓の専属メイドは、私だけなんだから」
僕の言葉を遮るかのようにそう言ったのは他でもない。
メイド服姿の香奈姉ちゃんだった。
最近は来なくなってしまったが、どこに何があるのかは、今でもよくわかる。
千聖は、まっすぐに原稿用紙があるところに向かって歩いていく。
「実はね。楓君と出会ったのは、ここなんだよ」
「え……。ここで?」
「そうだよ。楓君はその時、音楽のノートを買いにこの店によく来てたよね」
「その時って、僕がまだ中学生の頃の話だったような……」
僕は、そう言って神妙な表情になる。
中学生の頃はバンドに興味があり、独自で曲作りなどをやっていた時だ。
その時は、何冊も音楽のノートを買っていったのを今も覚えている。
千聖は、中学生の頃のことを思い出したのかクスッと笑い、僕に言った。
「うん。その時から、ちょっと気になっていたんだよね。音楽のノートばっかり買っていくものだから、何書いてるのかなぁって──」
「いや、あの時は……。周囲の人の目も気にせずに歌詞や曲を書いてたから……」
「どんな曲を作っていたの?」
「それは……。言うのも恥ずかしいくらいのものだよ」
僕は、思わず苦笑いをする。
今、読み返したらポエムかと思うくらいに恥ずかしいものだ。
何であんなものが書けたんだろうと思うくらいに……。
千聖は可笑しかったのかクスッと笑い、訊いてきた。
「それって、私が描いてる漫画くらい恥ずかしいものなの?」
「どうだろう。千聖さんの漫画を見たわけじゃないからなぁ。何とも言えないや」
「私の漫画…かぁ。たしかに、今は持ってきてないから、見せることはできないけど。機会があったら、見せてあげるよ」
「ホントに?」
「そのかわり、楓君が作詞したものを見せてくれないかな?」
「え、いや……。さすがにそれは……」
「私の漫画、見たくないの?」
千聖は、甘えるような表情でそう言ってくる。
そう言われてしまうと見たいような気もするけど、交換条件に僕のポエム的なアレを見せなきゃいけないってなると話は別だ。
「やっぱりやめておこうかな」
僕は、千聖の提案を丁重に断る。
アレだけは、世に出したらいけない代物だ。
どんな条件を出されようと、のむわけにはいかない。
「え~。ダメなの? それなら、私の新作の漫画込みならどう? 見せてくれるかな?」
千聖は、どうしても僕が書いたアレを見たいのか、そう言ってきた。
どんなに良い条件を出されても、僕の意思は変わらないです。
「ごめん……。それだけは、勘弁して。兄貴や香奈姉ちゃんにすら見せたこともないものだから……」
「やっぱりダメか……。それなら、私が楓君の専属メイドになってご奉仕するっていうのならどうかな?」
「え……。ご奉仕って……?」
「言葉どおりの意味だよ。楓君にご奉仕するの」
「それは遠慮しておくよ。専属メイドなら、もう間に合ってるし……」
そう言いかけたところで、途中でやめる。
まさか香奈姉ちゃんが僕の専属メイドになっているだなんてこと、千聖さんには言えないし……。
「間に合ってるって、どういう意味よ?」
「いや、こっちのことです」
そう言って、僕は千聖から離れていく。
「ちょっと⁉︎ きちんと説明しなさいよ。逃げるな!」
千聖は、そう言いながら追いかけてくる。
やっぱり言えるわけがない。
千聖には悪いけど……。
僕は、先に文房具屋さんを後にした。
千聖は、自分の買い物を済ませると、不満そうな顔をして文房具屋さんから出てくる。
「…まったくもう! 楓君が先に出ちゃうもんだから、ゆっくり見てくることができなかったじゃない!」
「ごめん……」
僕は、謝ることしかできなかった。
あんな場所でメイドになるとかっていう話題を振られると、逃げたくもなる。
なにより、周囲の人の視線が痛いし……。
「まぁ、あの場所であんなことを言ってしまった私も悪かったんだけどさ……」
千聖は、恥ずかしかったのか頬を赤くする。
頬を染めて言う辺り、千聖にも自覚はあるんだろうな。
そんな彼女を責めるのは、どうにも憚られてしまう。
「頼むからあんな冗談は、絶対に言わないでね。勘違いしちゃう人もいるかもしれないから」
「半分は冗談なんかじゃないんだけどな……」
「え……。それって?」
僕がそう聞き返すと、千聖はなぜか物欲しそうな表情で僕を見上げてきて言ってくる。
「楓君が望むのなら、専属メイドにくらい、なってあげるよ」
「それは……」
僕は、はっきりと拒否できなかった。
その時点で、古賀千聖という女の子に魅入られてしまっているってことなんだろう。
でも、ここはハッキリと言っておかないといけない。
「丁重にお断りしておくよ」
「どうして? 私は、西田先輩みたいに奥手じゃないよ」
千聖は、そう言って僕の腕を掴んでくる。
千聖にとっては、香奈姉ちゃんってそんな風に見えてしまうのか。
しかし、僕は知っている。
積極的にエッチなことをしてくる香奈姉ちゃんの姿を……。
「香奈姉ちゃんは、あんな風に見えて、好きな男性にはけっこう積極的なんだ」
「なるほど。それで、西田先輩はあなたの専属メイドになっているってわけか」
千聖は、納得したようにそう言う。
ん……。
全部バレてる?
「あの……。千聖さん?」
「わかっていないと思ってた? 初めから全部わかっていたわよ」
「えっと……」
「初めから全部わかっていて、あなたの専属メイドになりたいって言ってるんだけど……。それでもダメかな?」
「ごめん……。気持ちは嬉しいんだけど。やっぱり無理があるって言うか……」
僕の専属メイドになりたいっていう気持ちはわかるんだけど、距離的に無理があるような気がするんだよな。
そもそも、どうして僕なんかの専属メイドになりたいって思うのか、そこら辺が不思議なんだけど。
「メイドが一人から二人になるんだよ。楓君にとっては嬉しいことじゃないの?」
「そういうのは一人で間に合っているかな。それに──」
「それに、楓の専属メイドは、私だけなんだから」
僕の言葉を遮るかのようにそう言ったのは他でもない。
メイド服姿の香奈姉ちゃんだった。
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