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第十二話

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もう寝る時間か。
メイド服姿で僕の部屋のあちこちをテキパキと掃除をする香奈姉ちゃんを見てて、もうそんな時間になってしまったんだなとしみじみと考えてしまう。

「さてと。他にすることは…と」

香奈姉ちゃんは、ふぅっと一息吐いてそう言って、最後に僕を見てくる。
僕は、寝間着に着替えようと机から立ち上がった。
学校から出された課題は終わったから、もう寝ようと思ったのだ。
香奈姉ちゃんは、僕の行動の意図を察したのか一足早く僕に近づいてくる。たぶん時計を見たんだろう。

「さぁ、ご主人様。寝間着に着替えましょうね。私がお手伝いをしますね」
「え、いや……。そのくらいは、自分で──」

と、僕は言いかけたところで、口を閉ざす。
なぜ口を閉ざしたかというと。
香奈姉ちゃんが、今にも泣きそうな顔をしていたからだ。
いくらなんでも、その顔は反則だよ。

「…お願いします」

僕はすっかり観念してしまい、そう言った。

「はい! それでは、上着から脱ぎましょうね」

香奈姉ちゃんは途端に笑顔になり、僕の上着を脱がそうとしてくる。
逆らったらダメだ。
ここは、香奈姉ちゃんの言うとおりにするんだ。
僕は、香奈姉ちゃんに手伝ってもらいながら上着を脱ぐ。

「次はズボンの方を──」

香奈姉ちゃんは、流れるような身体の動きで前屈みになりズボンに手を伸ばす。

「ズボンは、自分で脱ぐから」

僕はそう言って、ズボンを脱いだ。
こんなところを母や兄に見られたら、間違いなく誤解されるだろうな。
いや、付き合っているから、誤解されてもいいのか。
でも、メイド服を着て僕にご奉仕してるから、何かしら文句は言われてしまうかもしれないな。
それも、しょうがないよね。
香奈姉ちゃんは、ベッドの上に置いてあった僕の寝間着の下を手に取ると、そのまま僕に手渡してくる。

「ご主人様。寝間着です」
「あ、うん。ありがとう」

僕は、香奈姉ちゃんから寝間着の下を受け取り、そのまま穿いた。
寝間着の上は、どうするつもりなんだろうか。
香奈姉ちゃんは、寝間着の上を手に取るとゆっくりとこちらに近づいてきて、頬を赤くする。

「寝間着の上は、私がお手伝いしますね。さぁ、ご主人様」
「………」

寝間着くらい、自分で着れるんだけどな……。
試しに、香奈姉ちゃんが手にしている僕の寝間着に手を伸ばすと

「ダメです! 私がお手伝いしますから、じっとしていてください」

そう言って、寝間着を奪われまいと身を翻すくらいだった。
これは……。
素直に香奈姉ちゃんに任せた方がいいのか。

「うん……。じっとしているね」

僕は、香奈姉ちゃんの言うとおり何もせず、じっと立つことにした。

「わかればいいんです」

そう言うと香奈姉ちゃんは、嬉しそうな顔をして手に持った寝間着を僕に着せてくる。
こうして見ていると、ホントにメイドになりきってるな。
こんなことをいつまで続けるつもりなんだろうか。

「ところで、今日はどうするつもりなの? 泊まっていくの?」

僕は、ふとそんなことを訊いていた。
香奈姉ちゃんは、当然と言わんばかりに答える。

「もちろん、泊まっていくつもりですよ。…ダメだなんて言わせないんですからね」

期待どおりの返答というかなんというか。
次の日の学校の準備は、もうできてるみたいだしね。

「ダメとは言わないけれど……。どこで寝るつもりなの?」
「それは……。ご主人様の部屋で寝ようと思いまして」

香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうに頬を染めてそう言った。

「僕の部屋で?」
「ダメかな?」
「別に構わないよ。ただ──」

まぁ、僕の部屋に泊まっていくのはいつものことだから、それは別にいいとして。

「ただ? 何ですか?」
「エッチなことは、無しでお願いできるかな」

僕は、キッパリとそう言った。
香奈姉ちゃんは、ハッとした表情で僕を見てくる。

「エッチなこと…しないんですか?」
「いくらメイドになりきっているからって、そんなことまではしないよ」
「それだと、ご主人様にご奉仕することが……」
「ご奉仕って、何をするつもりだったの?」
「エッチなこと以外なら、例えば添い寝をするとか……」
「僕と添い寝……」

僕は、つい想像してしまう。
香奈姉ちゃんが、僕の側で寝ている時を──
それって何にも変え難い、幸せな時間なんだろうな。

「私なら、きっとご主人様を満足させられると思います。どうですか?」

香奈姉ちゃんは、僕の側に寄り添ってくる。
いや。どうですかって聞かれても……。
香奈姉ちゃんの態度を見ていたら、添い寝する気まんまんだろうし。

「どうせ僕が嫌だと言っても、してくるんでしょ? それなら断っても無駄かなって思うんだけど」
「よくわかっていますね。たしかに、ご主人様が嫌だと言っても、添い寝をするつもりです」
「そっか」

僕は、そうとだけ答えた。
それ以外に返答しようがないのも、たしかだと思ったからである。
どうやら、僕に拒否権はないようだ。

「そういうことですので、私も着替えますね」
「わかった。それじゃ、僕は部屋の外に出てるよ」

そう言って、僕は自分の部屋を出ようとする。
しかし、香奈姉ちゃんが僕を引き止めた。

「そんなことしなくても大丈夫ですよ」
「え? それって……」
「はい。ご主人様の前で着替えますので、心配いりません」

その屈託のない笑顔がよけいに可愛く思えるんだよな。
こういう時の香奈姉ちゃんは本気だから、こっちとしてはなるべく香奈姉ちゃんを怒らせないようにしないといけない。

「わかった。それじゃ、着替えるまでの間、後ろを向いているから、終わったら声かけてね」
「ダメ……。ご主人様は、私の着替えを黙って見ていないといけないんです」
「そんなこと言われても……。香奈姉ちゃんの裸は、さすがに見れないよ」

僕は、緊張した面持ちでメイド服を脱ぐ香奈姉ちゃんのことを見ていた。
香奈姉ちゃんは下着姿になり、胸のところに手を添えながら訊いてくる。

「私の身体は、そんなに汚れてるかな?」
「そんなことは絶対にないけど。…でも、エッチなことはする気はないよ」
「どうして? 今がチャンスなのに……」
「たとえチャンスでも、エッチなことをする雰囲気じゃないし」

いくら下着姿が可愛いからって、そこまでするのはどうだろうか。
一度はセックスをした仲といっても、その時は雰囲気を大事にしたものだし。

「雰囲気…ですか? それなら、こういうのはどうですか?」

香奈姉ちゃんは、ゆっくりとブラジャーの方に手を掛けて、そのまま外していく。

「っ……⁉︎」
「どう? これなら添い寝しててもご奉仕できるでしょ?」

女の子の大きめなおっぱいを見せられて、感情が沸き立たない男なんていないと思う。
さらに言わせれば、パンツの方も脱ごうとしているのだから、何がしたいのか答えは明白だ。
僕は、すっかり焦ってしまいこう言っていた。

「ちょっと待って。さすがにパンツを脱ぐ必要は──」
「添い寝は、全裸でないと意味がないんです。だから、パンツも脱ぐんです」
「そんなものなの?」
「そんなものです」

香奈姉ちゃんは、頬を染めて胸とへその下を手で隠す。
僕はてっきり、寝間着に着替えるものかと思っていたんだけどな。まさか裸とは……。

「僕はてっきり、寝間着に着替えるのかなって思っていたんだけど」
「もちろん寝間着もありますよ」

香奈姉ちゃんは、笑顔でリュックの中から寝間着を取り出した。
寝間着があるのなら、どうしてそっちに着替えないんだろう。
わざわざ裸になる必要って……。
それに、いつからそんなリュックを用意していたんだろうか。

「寝間着があるのなら、そっちに着替えた方が──」
「いえ、大丈夫です。今日は、ご主人様にご奉仕するって決めてますので、これでご奉仕させていただきます」

そう言うと、香奈姉ちゃんはなんの迷いもなく抱きついてきた。
あ……。これはもう、何を言っても無駄だ。
なんでこんな時に、母は来てくれないんだろう。
僕は、うっすらと涙を浮かべて言った。

「…うん。よろしくね」
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