上 下
108 / 360
第十一話

12

しおりを挟む
教室に着くなり、千聖は子犬のようにやってきて僕に戯れついてきた。

「楓君。今日もよろしくね」
「うん。よろしく」

無邪気に腕を掴んでくる千聖を見て、僕は自然と苦笑いを浮かべる。
普通にしていたら、とてもいい女の子なんだけどなぁ。

「どうしたの? 楓君。ずいぶんとよそよそしいけど……」

千聖は、僕の顔を見るなり思案げに首を傾げていた。
よそよそしい? 僕が?
そんなこと、あるはずない。

「そうかな? いつもどおりだと思うけど……」
「ううん。絶対に、昨日よりよそよそしいよ。もしかして西田先輩に何か言われたでしょ!」
「『何か』って、何?」

全然心当たりがないので、僕は、千聖にそう訊いていた。
千聖は「う~ん……」と気難しい表情を浮かべて首を傾げる。

「はっきりとは言えないけど、ちょっと冷たい感じがするんだよね」
「そんなことはないと思うけど」

僕は、頬をポリポリと掻きながらそう言った。
いつもどおりだと思うんだけどなぁ。
千聖には、そんな風に見えるのか。
千聖を見て少し考えていると、教室に来栖先生が入ってきた。
言うまでもなくホームルームが始まるので、僕はすぐに自分の席に着く。

「おはよう、みんな。それじゃ、さっそく出席を取りますね」

来栖先生は、そう言うと一人一人の名前を呼んでいき、出席を取っていった。

共同実習の二日目は、さすがにみんな慣れたのか終始落ち着いた様子だった。
男子たちも、あまり女子たちと話をする機会はなくても、いざ話をすれば、すんなりといくみたいだ。
問題なのは、僕と千聖のところくらいか。
香奈姉ちゃんに言われたせいか、どうにもしっくりとこないのだ。
先程から、授業で些細なミスを連発してしまう。
ちなみに授業の科目は体育だ。競技はバドミントンで、僕と千聖がペアを組んでやっている。
千聖は、僕に

「落ち着いて」

と、言ってくれるのだが、そう言われてもどうにも落ち着かないのが本音だ。

「ごめん……。あまり調子が良くなくて……」
「ううん。気にしなくていいよ」

千聖は、笑顔でそう言った。
千聖はそう言うが、やっぱり気にしなくてもいいって言われても、どうしても気になってしまう。
そうしながらもペアでやっていると、千聖の方から言ってきた。

「さっきの話の続きなんだけど……。やっぱり、少し冷たい感じがするんだよね」
「そうかな? いつもどおりだと思うんだけど……」
「そう思っているのは、楓君だけだよ。私から見たら、あきらかに昨日とは全然違うよ」
「それは……」

どこが違うんだろう?
そう思ったが、千聖にはっきりと訊くことはできなかった。
もしかしたら、千聖が勝手にそう思い込んでいるだけかもしれないし。

「やっぱり、西田先輩に何か言われたからだと思うんだよね」

言われたって、何を?
三股四股とかのことかな。
どちらにしても、僕にはまったく関係ないんだけどさ。

「香奈姉ちゃんからは、特に何も言われなかったよ」
「そうかなぁ。なんか怪しいな。でもまぁ、楓君とはバイト先が同じだから、いいんだけどね」
「もしかして、あのバイト先を選んだのって僕がいたからなの?」
「さすがにそれはないよ。あそこを選んだのは、制服が可愛いからであって──」
「そっか。…それなら、よかった」

千聖の言葉に、僕はホッとなる。
千聖にストーカーの気はないみたいだから、安心したのだ。

「もしかして、楓君って自信過剰なところがあったりする?」
「どうして?」
「そんなことを気にするなんて、よほど自分に自信があるっていう人じゃないと、そうならないから」
「僕はそんな自分に自信があるっていうタイプじゃないな」

僕は、自分に問いただすようにそう言っていた。
冷静に自分の性格を自己分析をしても、自信過剰なタイプじゃないのは、よくわかってるつもりだ。

「そっか……」

千聖は、『なるほど……』と言わんばかりの表情を浮かべそう言った。
いや、むしろ少し残念そうな表情を浮かべているのは気のせいだろうか。

「どうしたの? すごく微妙な表情を浮かべているけど……」
「ううん、なんでもないよ。なんか意外だなって思っただけ」
「意外って?」
「西田先輩とバンドを組んでる人だから、もう少し自信のある人かなって思っていたんだけどな」
「知ってたの?」
「もちろん、知っていたわよ」

千聖は当然だと言わんばかりに言う。
僕の存在はある意味、他の人には知られていないと思っていたので、知っていたのは意外だなって思ったんだけど。

「いつから知っていたの?」
「女子校で文化祭があった日だよ。その時に西田先輩がライブをやったじゃない」
「その時ってまさか……」
「うん。楓君ってば、まわりにバレないようにメイド服を着て演奏してたよね」
「やっぱりバレてたんだね」
「もちろんだよ! あんな特徴的な子は、女子校にはいないと思ったし」

特徴的って……。
千聖には、女装した僕がどんな風に見えてたんだろうか。
たしかに、ミニスカメイド服姿で女装してベースを弾いていたら目立つよね。

「そう言われると、すごく恥ずかしいな」
「そんなこともないんじゃない?」
「どうして?」
「ライブをやってた時のみんなの顔、とっても活き活きしていたし。特に西田先輩のあの姿は、今も忘れられないよ」

千聖は、キラキラした表情を見せる。
なんだかんだ言っても、香奈姉ちゃんのことが好きなんだな。

「そうなんだ」

僕は、そう言って相槌を打つ。
あの時のみんな…か。
たしかに活き活きしていたけど……。
僕も演奏中だったから、みんながどんなテンションで演奏していたかなんてわからないよ。
そこそこだったんじゃないかな…と思われる。

「…でも、楓君のことが好きな西田先輩は好きになれない」
「え……」
「楓君のことが好きなのは、私だけなの。それだけは、誰にも譲ることはできないの」
「そっか……」

千聖もそうだけど、香奈姉ちゃんの知り合いと思われる女の子たちは、こんな僕のどこがいいんだろうか。
それだけが謎だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~

いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。 橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。 互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。 そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。 手段を問わず彼を幸せにすること。 その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく! 選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない! 真のハーレムストーリー開幕! この作品はカクヨム等でも公開しております。

アニラジロデオ ~夜中に声優ラジオなんて聴いてないでさっさと寝な!

坪庭 芝特訓
恋愛
 女子高生の零児(れいじ 黒髪アーモンドアイの方)と響季(ひびき 茶髪眼鏡の方)は、深夜の声優ラジオ界隈で暗躍するネタ職人。  零児は「ネタコーナーさえあればどんなラジオ番組にも現れ、オモシロネタを放り込む」、響季は「ノベルティグッズさえ貰えればどんなラジオ番組にもメールを送る」というスタンスでそれぞれネタを送ってきた。  接点のなかった二人だが、ある日零児が献結 (※10代の子限定の献血)ルームでラジオ番組のノベルティグッズを手にしているところを響季が見つける。  零児が同じネタ職人ではないかと勘付いた響季は、献結ルームの職員さん、看護師さん達の力も借り、なんとかしてその証拠を掴みたい、彼女のラジオネームを知りたいと奔走する。 ここから第四部その2⇒いつしか響季のことを本気で好きになっていた零児は、その熱に浮かされ彼女の核とも言える面白さを失いつつあった。  それに気付き、零児の元から走り去った響季。  そして突如舞い込む百合営業声優の入籍話と、みんな大好きプリント自習。  プリントを5分でやっつけた響季は零児とのことを柿内君に相談するが、いつしか話は今や親友となった二人の出会いと柿内君の過去のこと、更に零児と響季の実験の日々の話へと続く。  一学年上の生徒相手に、お笑い営業をしていた少女。  夜の街で、大人相手に育った少年。  危うい少女達の告白百人組手、からのKissing図書館デート。  その少女達は今や心が離れていた。  ってそんな話どうでもいいから彼女達の仲を修復する解決策を!  そうだVogue対決だ!  勝った方には当選したけど全く行く気のしない献結啓蒙ライブのチケットをプレゼント!  ひゃだ!それってとってもいいアイデア!  そんな感じでギャルパイセンと先生達を巻き込み、ハイスクールがダンスフロアに。 R15指定ですが、高濃度百合分補給のためにたまにそういうのが出るよというレベル、かつ欠番扱いです。 読み飛ばしてもらっても大丈夫です。 検索用キーワード 百合ん百合ん女子高生/よくわかる献血/ハガキ職人講座/ラジオと献血/百合声優の結婚報告/プリント自習/処世術としてのオネエキャラ/告白タイム/ギャルゲー収録直後の声優コメント/雑誌じゃない方のVOGUE/若者の缶コーヒー離れ

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

W-score

フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。 優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…

処理中です...