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第九話
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香奈姉ちゃんの家に着き、僕はとりあえず玄関の呼び鈴を鳴らす。
香奈姉ちゃんの家族のうちの誰かが出るだろうと思って、しばらく待ってみる。
ところが、反応はない。
たぶん香奈姉ちゃん自身は寝ているだろうから、出るわけがないし。
鍵も開いているかと思うんだけど。
う~ん……。ここは思い切って中に入ってみようか。
いや、誰かが出るまで待つべきだ。
僕はそう思い、そのまま待つことにする。
しばらくすると、玄関のドアが開く。
「はい、どちら様ですか?」
出てきたのは、なんと香奈姉ちゃんだった。
風邪引いてるからなのか、寝間着姿だ。
香奈姉ちゃんは、見るからに具合悪そうな面持ちでこちらを見る。
「香奈姉ちゃん。…僕だよ」
「楓? どうして……?」
僕がやってきたことにびっくりしたのか、香奈姉ちゃんはハッとした様子で僕を見る。
「僕の母さんから聞いたんだよ。香奈姉ちゃんが風邪を引いたみたいだって……」
「そうなんだ……。なんだか心配させちゃったみたいだね。…でも、もう大丈夫だよ」
「とりあえず、香奈姉ちゃんは寝てていいよ。今日は、僕が何か作るからね」
「うん。ありがとう」
香奈姉ちゃんは、礼を言うと僕を家の中に招き入れてくれた。
とりあえず、先にやるのは皿洗いだ。
僕は、真っ直ぐに台所に向かう。
一応、何か食べたみたいだけど、今の香奈姉ちゃんの体調じゃ、大したものは作れないだろうな。
僕は、失礼を承知で冷蔵庫の中を確認する。
あくまでも、香奈姉ちゃんのために作る料理のためだ。
「冷蔵庫の中の食材は、好きに使っていいから」
と、香奈姉ちゃんがそう言ってくる。
「ありがとう」
僕は、素直に礼を言った。
別にご馳走を作るってわけじゃないんだけどな。
今の香奈姉ちゃんが食べられそうなものを作るだけなんだけど。
比較的、栄養のあるものを…だけどね。
これは、お粥しかないかな。
卵を加えた味噌仕立てのお粥がいいだろう。
そうと決まれば、さっそく準備しよう。
「さてと……。それじゃ、腕によりをかけて作りますか」
僕は、近くにかけてあったエプロンをして、調理を始めた。
出来上がった味噌仕立てのお粥を、香奈姉ちゃんの部屋まで持っていく。
「お待たせ。…お粥ができたから持ってきたよ」
「ありがとう」
少しの間、寝ていたんだろう。
香奈姉ちゃんは、ゆっくりとベッドから起き上がる。
僕は、作ったお粥を香奈姉ちゃんの前に置いた。
「香奈姉ちゃんの口に合えばいいんだけど」
「楓が作るものに限って、口に合わないなんてことはないよ」
そう言って、香奈姉ちゃんはお粥が入った器の蓋を開ける。
「わぁ。美味しそう」
「熱いから、気をつけて食べてね」
僕は、微笑を浮かべてそう言うと、香奈姉ちゃんの部屋を後にした。
香奈姉ちゃんのことは心配だが、台所の片付けがあるから、そっちを終わらせないといけない。
とりあえず、台所での洗い物が終わったら、香奈姉ちゃんの部屋に戻るとしよう。
僕が戻った頃には、お粥は完食して、香奈姉ちゃんが一息吐いているところだった。
「あ……。楓。お粥、美味しかったよ。ありがとうね」
「よかった。食欲はあるみたいだね」
「楓が腕によりをかけて作ってくれたものだしね。無駄にはできないよ」
香奈姉ちゃんは、微笑を浮かべてそう言う。
元気そうに振る舞ってはいるが、顔がまだ赤い。
まだ完全に治っていないのは、見ればわかる。
「そっか。…無理はしないようにね」
もし吐きそうになったら困るので、早いうちに洗面器でも持ってこようかな。
水はお粥と一緒に持ってきているし、問題はない。
後は、僕が香奈姉ちゃんの看病をすればいいのかな。
そう考えていると、香奈姉ちゃんが口を開いた。
「ねぇ、楓」
「何かな? 香奈姉ちゃん」
「私、シャツと下着を替えたいんだけど……」
「うん。わかった。それじゃ、僕は部屋を出てるね」
僕は、そう言って立ち上がる。
すると香奈姉ちゃんは、いきなり僕の腕を掴んだ。
「待って」
「どうしたの?」
「ホントにシャツと下着を替えたいの。…だから手伝ってくれないかな?」
「手伝うって、何を?」
「下着を替えるのを手伝ってほしいんだよ」
突然、何を言い出すんだ。
たしかに汗をかいてるから、下着やシャツをそのままにするのは良くないことだけど。
「いやいや。そういうのは、せめて自分で──」
「無理」
香奈姉ちゃんは、そう言って再びベッドに横になる。
これは、意地でも自分でする気はないな。
「いや、『無理』って言われても……。どの下着とシャツを選べばいいのか──」
「タンスの中に入っているから、適当に選べばいいでしょ」
香奈姉ちゃんは、タンスの方を指差してそう言った。
ちょっ……⁉︎
香奈姉ちゃん。
本気で言ってるの?
僕が、香奈姉ちゃんの部屋のタンスを開けるの⁉︎
そもそも、開けていいの?
なんか、気まずい感じになってるのは僕だけか。
「はやくして……」
「う、うん」
香奈姉ちゃんに言われるがまま、僕は香奈姉ちゃんの部屋のタンスを開けた。
風邪を引いたら、女の子は甘えん坊になるって聞いたことあるけど、本当なんだな。
上から一段目には、下着はあった。
あったんだけど……。
下着は綺麗に並べてあったので、どれを手に取ればいいのかわからない。
「あの……。どれを?」
「楓に任せるよ」
「えっと……」
僕は、あたふたしながら一つの下着を手に取った。
──うん。
これにしよう。
次は、シャツか。
シャツなら、簡単だ。
僕は一つずつタンスを開けていき、シャツを探す。
シャツは上から三段目にあったので、適当に取り出した。
「──ほら。持ってきたよ」
「よくできました」
香奈姉ちゃんは、ベッドから起き上がるとさっそく寝間着を脱いで、再び横になる。
僕は、呆然とした表情で下着姿でベッドに横になる香奈姉ちゃんを見ていた。
「あの……。シャツと下着…持ってきたんだけど……」
「うん。だから…ね」
香奈姉ちゃんは、無防備な姿を僕に見せる。
いや……。まさかとは思うけど、シャツと下着を替えるのまで僕がやるのか?
ないない。
それだけはない。
いくら付き合っているからって、下着を替えるのまでやるとかって……。
「あの……。香奈姉ちゃん……。さすがにそれは……」
「どうしたの? はやくして」
香奈姉ちゃんは、微笑を浮かべる。
今回は、仕方ないか。
「今回だけだよ」
僕は、香奈姉ちゃんが穿いている下着にゆっくりと手を伸ばした。
シャツと下着を替え終えると、香奈姉ちゃんは自分で替えの寝間着を着て、ベッドに入っていく。
「他に何かしてほしいことってある?」
僕は、香奈姉ちゃんにそんなことを聞いていた。
特にすることがないから、そう聞いただけなんだけど。
「う~ん。側にいてほしい…かな」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうな顔をしてそう言った。
こういう時って、なるべく言うことを聞いた方がいいんだったよね。
「…わかった。それじゃ、もう少しだけここにいるよ」
「ありがとう」
香奈姉ちゃんは、ホッとした表情を見せる。
何か嫌な予感がするな。
側にいるのはいいけど、香奈姉ちゃんの風邪が僕に感染らなければいいんだけど。
感染ったら、大変だな。
それだけが心配だ。
香奈姉ちゃんの家族のうちの誰かが出るだろうと思って、しばらく待ってみる。
ところが、反応はない。
たぶん香奈姉ちゃん自身は寝ているだろうから、出るわけがないし。
鍵も開いているかと思うんだけど。
う~ん……。ここは思い切って中に入ってみようか。
いや、誰かが出るまで待つべきだ。
僕はそう思い、そのまま待つことにする。
しばらくすると、玄関のドアが開く。
「はい、どちら様ですか?」
出てきたのは、なんと香奈姉ちゃんだった。
風邪引いてるからなのか、寝間着姿だ。
香奈姉ちゃんは、見るからに具合悪そうな面持ちでこちらを見る。
「香奈姉ちゃん。…僕だよ」
「楓? どうして……?」
僕がやってきたことにびっくりしたのか、香奈姉ちゃんはハッとした様子で僕を見る。
「僕の母さんから聞いたんだよ。香奈姉ちゃんが風邪を引いたみたいだって……」
「そうなんだ……。なんだか心配させちゃったみたいだね。…でも、もう大丈夫だよ」
「とりあえず、香奈姉ちゃんは寝てていいよ。今日は、僕が何か作るからね」
「うん。ありがとう」
香奈姉ちゃんは、礼を言うと僕を家の中に招き入れてくれた。
とりあえず、先にやるのは皿洗いだ。
僕は、真っ直ぐに台所に向かう。
一応、何か食べたみたいだけど、今の香奈姉ちゃんの体調じゃ、大したものは作れないだろうな。
僕は、失礼を承知で冷蔵庫の中を確認する。
あくまでも、香奈姉ちゃんのために作る料理のためだ。
「冷蔵庫の中の食材は、好きに使っていいから」
と、香奈姉ちゃんがそう言ってくる。
「ありがとう」
僕は、素直に礼を言った。
別にご馳走を作るってわけじゃないんだけどな。
今の香奈姉ちゃんが食べられそうなものを作るだけなんだけど。
比較的、栄養のあるものを…だけどね。
これは、お粥しかないかな。
卵を加えた味噌仕立てのお粥がいいだろう。
そうと決まれば、さっそく準備しよう。
「さてと……。それじゃ、腕によりをかけて作りますか」
僕は、近くにかけてあったエプロンをして、調理を始めた。
出来上がった味噌仕立てのお粥を、香奈姉ちゃんの部屋まで持っていく。
「お待たせ。…お粥ができたから持ってきたよ」
「ありがとう」
少しの間、寝ていたんだろう。
香奈姉ちゃんは、ゆっくりとベッドから起き上がる。
僕は、作ったお粥を香奈姉ちゃんの前に置いた。
「香奈姉ちゃんの口に合えばいいんだけど」
「楓が作るものに限って、口に合わないなんてことはないよ」
そう言って、香奈姉ちゃんはお粥が入った器の蓋を開ける。
「わぁ。美味しそう」
「熱いから、気をつけて食べてね」
僕は、微笑を浮かべてそう言うと、香奈姉ちゃんの部屋を後にした。
香奈姉ちゃんのことは心配だが、台所の片付けがあるから、そっちを終わらせないといけない。
とりあえず、台所での洗い物が終わったら、香奈姉ちゃんの部屋に戻るとしよう。
僕が戻った頃には、お粥は完食して、香奈姉ちゃんが一息吐いているところだった。
「あ……。楓。お粥、美味しかったよ。ありがとうね」
「よかった。食欲はあるみたいだね」
「楓が腕によりをかけて作ってくれたものだしね。無駄にはできないよ」
香奈姉ちゃんは、微笑を浮かべてそう言う。
元気そうに振る舞ってはいるが、顔がまだ赤い。
まだ完全に治っていないのは、見ればわかる。
「そっか。…無理はしないようにね」
もし吐きそうになったら困るので、早いうちに洗面器でも持ってこようかな。
水はお粥と一緒に持ってきているし、問題はない。
後は、僕が香奈姉ちゃんの看病をすればいいのかな。
そう考えていると、香奈姉ちゃんが口を開いた。
「ねぇ、楓」
「何かな? 香奈姉ちゃん」
「私、シャツと下着を替えたいんだけど……」
「うん。わかった。それじゃ、僕は部屋を出てるね」
僕は、そう言って立ち上がる。
すると香奈姉ちゃんは、いきなり僕の腕を掴んだ。
「待って」
「どうしたの?」
「ホントにシャツと下着を替えたいの。…だから手伝ってくれないかな?」
「手伝うって、何を?」
「下着を替えるのを手伝ってほしいんだよ」
突然、何を言い出すんだ。
たしかに汗をかいてるから、下着やシャツをそのままにするのは良くないことだけど。
「いやいや。そういうのは、せめて自分で──」
「無理」
香奈姉ちゃんは、そう言って再びベッドに横になる。
これは、意地でも自分でする気はないな。
「いや、『無理』って言われても……。どの下着とシャツを選べばいいのか──」
「タンスの中に入っているから、適当に選べばいいでしょ」
香奈姉ちゃんは、タンスの方を指差してそう言った。
ちょっ……⁉︎
香奈姉ちゃん。
本気で言ってるの?
僕が、香奈姉ちゃんの部屋のタンスを開けるの⁉︎
そもそも、開けていいの?
なんか、気まずい感じになってるのは僕だけか。
「はやくして……」
「う、うん」
香奈姉ちゃんに言われるがまま、僕は香奈姉ちゃんの部屋のタンスを開けた。
風邪を引いたら、女の子は甘えん坊になるって聞いたことあるけど、本当なんだな。
上から一段目には、下着はあった。
あったんだけど……。
下着は綺麗に並べてあったので、どれを手に取ればいいのかわからない。
「あの……。どれを?」
「楓に任せるよ」
「えっと……」
僕は、あたふたしながら一つの下着を手に取った。
──うん。
これにしよう。
次は、シャツか。
シャツなら、簡単だ。
僕は一つずつタンスを開けていき、シャツを探す。
シャツは上から三段目にあったので、適当に取り出した。
「──ほら。持ってきたよ」
「よくできました」
香奈姉ちゃんは、ベッドから起き上がるとさっそく寝間着を脱いで、再び横になる。
僕は、呆然とした表情で下着姿でベッドに横になる香奈姉ちゃんを見ていた。
「あの……。シャツと下着…持ってきたんだけど……」
「うん。だから…ね」
香奈姉ちゃんは、無防備な姿を僕に見せる。
いや……。まさかとは思うけど、シャツと下着を替えるのまで僕がやるのか?
ないない。
それだけはない。
いくら付き合っているからって、下着を替えるのまでやるとかって……。
「あの……。香奈姉ちゃん……。さすがにそれは……」
「どうしたの? はやくして」
香奈姉ちゃんは、微笑を浮かべる。
今回は、仕方ないか。
「今回だけだよ」
僕は、香奈姉ちゃんが穿いている下着にゆっくりと手を伸ばした。
シャツと下着を替え終えると、香奈姉ちゃんは自分で替えの寝間着を着て、ベッドに入っていく。
「他に何かしてほしいことってある?」
僕は、香奈姉ちゃんにそんなことを聞いていた。
特にすることがないから、そう聞いただけなんだけど。
「う~ん。側にいてほしい…かな」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうな顔をしてそう言った。
こういう時って、なるべく言うことを聞いた方がいいんだったよね。
「…わかった。それじゃ、もう少しだけここにいるよ」
「ありがとう」
香奈姉ちゃんは、ホッとした表情を見せる。
何か嫌な予感がするな。
側にいるのはいいけど、香奈姉ちゃんの風邪が僕に感染らなければいいんだけど。
感染ったら、大変だな。
それだけが心配だ。
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