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第八話

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とりあえず夕飯は香奈姉ちゃんの家で済ませることに決まったみたいなので、僕はキッチンに立ち、香奈姉ちゃんの言うとおりに料理を作っていく。

「なんかごめんね。夕飯作りを手伝わせてしまって」

香奈姉ちゃんは、申し訳なさそうにそう言ってくる。

「別に気にしなくてもいいよ。いつもの事だし……」

僕はそう言って微笑を浮かべる。
ホントにいつものことだし、気にしなくてもいいのになぁ。
まぁ、自分の家でも夕飯作りは大抵、僕がやってることだし……。
しばらくしないうちに、香奈姉ちゃんは僕の隣に立ち、料理を手伝い始める。

「手が空いたから、私も手伝うよ」
「ありがとう」

僕は、野菜などを調理をしながら礼を言う。
こういうところは、しっかりと見てるんだな。香奈姉ちゃんって……。
まぁ、趣味がだいたい同じだから、香奈姉ちゃんとは話が弾むし、言うことないんだよなぁ。
兄の場合は、音楽だけの関係だし。
奈緒さんたちの分があるから、作るのは四人分だ。
僕の分は、家に戻って食べればいいし。
そう思って料理をしていると、香奈姉ちゃんはそれを感じたのか僕に聞いてくる。

「あれ? そういえば、楓の分は?」
「僕の分かい? 僕は、いったん家に戻って食べようかなって──」
「え? それじゃ、楓の分は作ってないってこと?」
「うん。やっぱり僕の分は、自分の家に戻ってから、作って食べようかなって思ってね」

僕は、微笑を浮かべてそう言う。
香奈姉ちゃんの家と僕の家の距離は、すぐ近くだ。
ちょっと行って戻ってくるくらいなら、問題ないはずだ。
しかし香奈姉ちゃんは、ムスッとした表情を浮かべる。

「なんでそういうことをするかなぁ~」
「せっかく女の子同士で集まってるんだから、僕のことなんか気にせず、楽しめばいいよ」

僕は、屈託のない笑顔を浮かべてそう言った。
香奈姉ちゃんは、不服そうな表情を浮かべる。

「だから楓がいないと意味がないって何回言えばわかってくれるのかな?」
「それは……。せっかくのパジャマパーティーを邪魔したくないっていうか、その……」

僕は、作った料理をお皿に盛り付けながらそう答えた。
すると香奈姉ちゃんは、さらにムッとした表情になり、言った。

「気にしすぎだよ。少なくとも私は、楓のことを邪魔だなんて思っていないよ」
「香奈姉ちゃんはそう思っていても、奈緒さんたちはそう思ってないと思うんだ。…きっと、僕がお泊まり会に参加すること自体、許していないと思う」
「もう……。どうして、楓はそうやって……」
「ごめん……」

僕は、謝罪の言葉を口にする。
だけど僕の意見を変える気はない。
やっぱり夕飯は、自分の家で食べるつもりだ。
香奈姉ちゃんは、仕方ないといった表情でため息を吐く。

「楓がそこまで言うなら、しょうがないか……。夕飯は、食べに戻ってもいいよ」
「ありがとう。香奈姉ちゃん」
「その代わり、夜になっても戻らなかったら、みんなで楓の家に行くからね」
「みんなでって……。その格好で?」

僕は、香奈姉ちゃんの私服姿を見てそう言った。
私服と言っても、それは外へ出歩けるような格好ではない。
一応ラフに決めてはいるが、ブラジャーがチラ見えできてしまうくらい際どいシャツに、下はミニスカートだ。
ミニスカートの方は、ちょっと風が吹いたらパンツが見えてしまいそうなほど丈が短い。

「何か問題ある?」

香奈姉ちゃんは、思案げに首を傾げてそう訊いてくる。
──本人に、その自覚はなさそうだ。

「いや、その格好で近所を歩くのはね。さすがに恥ずかしいでしょ?」
「別に恥ずかしくはないよ。私にとっては、これが一番楽な服装なんだから」
「そうなの?」
「そうよ。これは普段着であって寝間着じゃないんだから、恥ずかしいことなんて何もないよ」
「………」

どうやら、外へ出て歩ける格好ではないと思っていたのは僕だけのようだ。
香奈姉ちゃんからしたら、別に恥ずかしくもない服装なのか。今も、中の下着が見えているのに……。
香奈姉ちゃんって、寝る時は裸で寝るタイプの人間だから、羞恥心の基準がいまいちよくわからないんだよなぁ。

とりあえず自分の家に戻ると、僕はすぐに自分の分の夕飯作りをし始めた。
いつものことだけど、本日も母は、仕事でいない。
だから今日は、僕と兄の分の夕飯を作ることにする。
いや……。この際だから、母の分も作っておいた方がいいのかな。
仕事から帰ってきてご飯も何もないのは、母に悪い気がするし。
作るのは、ある程度、時間が経っても大丈夫なものにしておこうかな。
──うん。
そうしよう。

夕飯を作って、ちょうど食べるころに、兄が帰ってきた。

「ただいま~」
「おかえり」

兄のいつもの言葉に、僕は微笑を浮かべる。
兄は僕の顔を見て、少し驚いたような表情を浮かべた。

「いたのか、楓」
「うん。まだこれから用事があるんだけどね。とりあえず夕飯を食べなきゃいけないから、夕飯作りのために一旦帰ってきたんだよ」

僕は、そう言って微笑を浮かべる。
僕が料理を作るのは、いつものことだと思うんだけどな。
少なくとも、母はそのことを知っているはずだけど。
兄は、いつものことかと思ったんだろう。今日の献立を聞いてきた。

「そうか。それで、今日の夕飯は何にしたんだ?」
「とりあえず鯖があったから、鯖の味噌煮にしたんだけど……。ダメだった?」
「いや、問題はねえよ。ただ……」
「ただ? 何?」

首を傾げて僕がそう聞くと、兄は美味しそうな顔をまるだしで僕が作った鯖の味噌煮を見る。

「お前って、料理の腕前に関して言えば、プロ並みだよな」
「そうかな?」
「そうだよ。鯖の味噌煮なんて凝った料理、俺には作れないからな」

まぁ、兄の料理の腕前は、殺人的なのは知ってるけど。

「兄貴は、料理は苦手なんだもんね」
「ああ。料理だけは、どうにもな……」

兄は気まずそうな表情を浮かべる。
だから香奈姉ちゃんや僕が、兄のフォローに回っていたんだけどさ。

「まぁ、人には得手不得手があるから、その辺はしょうがないと思うよ」
「そうだな。そんな女々しいことで自慢されても、恥ずかしいだけだしな」

兄は、僕の顔を見てそう言った。
兄のその目は、僕を馬鹿にしてるつもりなんだろうけどさ。
料理下手っていうのはね。自慢できることじゃないと思う。
今の世の中は、男でも家事ができることは、一種のステータスになっているし。

「…とりあえず、母さんや父さんがいつ帰ってくるかわからないから、先に食べようか」
「そうだな」

兄は、しょうがないといった感じでため息を吐いてそう言った。
香奈姉ちゃんと料理を作るのって、結構楽しいんだけどな。
やっぱり料理が苦手の兄には、そういうのは理解できないんだろう。
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