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やっと期末試験が終わった。
一か月前から少しずつ準備をして、テスト週間は毎日二時間ほどの睡眠で乗り切った。過去問で乗り切れる科目はほぼ一夜漬けだ。
有機合成がやや心配だが、なんとか追試は回避できたはずだ。
テストの一週間前からバイトは完全に休ませてもらった。もし追試になったら、また休みをもらわないといけなくなる。それは避けたかった。
そして、有聖ともほとんど連絡をとっていない。初めてのセックスをしてから一か月もしないうちに本格的なテスト勉強に入ってしまった。
――テストが終わるまでは連絡しないでおくね。しっかり勉強するんだよ。
最後に会ったのは二週間以上前だ。こんなに有聖と会わないのは初めてかもしれない。
学生の本分は勉強、と言われては翔もわがままは言えない。それに、最初は寂しさもあったが、テストが迫ってくると、その寂しさよりも落単できないプレッシャーが勝った。結果的に、有聖に会わなくて良かったのかもしれない。
(会ってたら、絶対テストどころじゃなかったよな……)
会っていたとしても、テストを疎かにするようなことは有聖が許さなかったと思うが、翔の方が集中できなかっただろう。
乳首をいじられ、お尻にスパンキングされ、それ以外にも……。まだお試しとはいえ、言葉には到底できないような卑猥なことをされてきた。有聖に会えば、それを思い出してしまって、全く勉強に集中できなかったと思う。
「なぁー、翔は飲み会来ないの?」
同じゼミに入った同期が、研究室のデスクで荷物をまとめる翔に声をかけた。
「んー、今回はやめとく。すんげぇ眠い」
「俺、全部追試の予感しかしねぇよ。合成、やばかったよな? 過去問にあんなの載ってた?」
「あーあれね、過去問にはなかったけど、類題が教科書の総合演習にあったよ」
「マジかぁ。ほぼ過去問しかやってなかった……。やばい、単位落とすかも」
「まだ追試あるしさ。追試は本試験の問題が三割出るっぽいから、まだ諦めるな。今年落単すると自動的に留年だし」
がくりと項垂れた同期の肩をぽんぽんと叩いて励ました。かく言う翔も有機合成はやや自信がない。手ごたえとしては、ぎりぎり六十点はいったような気がする。
四年に上がるまでに所定の単位が取れていないと事前実習が受けられない。一、二年で落とした単位は三年で再履修可能だが、三年生で単位を落とすと来年取り直すことになり、事前実習が受けられないのだ。
「答案返ってきたら、見してな。まじ頼む」
「オッケー。きっと大丈夫だよ。……じゃ、お先ね」
ひらひらと手を振り、翔は研究室を後にした。
(あー、ご飯どうしようかな。作るのはめんどい。コンビニでなんか買うか……。いっそFでなんか食べさしてもらおうかな)
リュックを背負い自転車に乗ろうと思ったとき、お尻のポケットに入れたスマホが鳴った。
画面を見て、思わず口元が緩んだ。
「あ、有聖さん?」
『翔くん? テスト、お疲れ様。今、大丈夫?』
「うん。今、ちょうど帰ろうかなって思ってたところ」
『そっか。今日はFには来ないんだっけ?』
「一応、今日まで休みもらってます。明日からまたいつも通りって感じになると思う」
『そうなんだね。じゃ、今からうちに来ない? テストを頑張った翔くんにごちそうするよ』
嬉しくて笑みがこぼれた。
「やった! じゃ、今から家に寄ってから、有聖さんの家に行くね」
『迎えに行こうか?』
ほんの少し考えて、翔は迎えを断った。
『じゃ、待ってるよ』
「はーい」
通話がきれたスマホをポケットに押し込み、うきうきと自転車で家へと急いだ。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「翔くん、疲れてるね。大丈夫?」
「んー、平気。テスト終わってほっとした」
リビングのソファに座って有聖が淹れてくれたコーヒーをすする。
「テストは大丈夫そう?」
「ちょっと心配な科目はあるけど、たぶん大丈夫だと思う」
「そうか。えらかったね。結果はいつわかるの?」
「追試かどうかは来週中にはわかるよ」
点数は答案を取りに行かないとわからないが、試験に通ったかどうかはオンラインで確認できる。
「翔くん、僕との約束、覚えているよね?」
耳元に有聖の吐息がかかって、翔は思わず首を竦めた。
――翔くん、頑張って勉強しなきゃダメだよ。
最後に会った日のやり取りを思い出して、かぁっと頬が熱くなる。
――もし追試になったらお仕置きするからね。
「覚えてるみたいだね。結果がでたら、ちゃんと教えてね」
「は、い」
大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせる。手ごたえとしては悪くなかった。ボーダーの六十点は取れたはずだ。
どきどきと心臓の音がうるさい。
「翔くんなら大丈夫そうだね」
そう言われると、信じてくれているようで嬉しかった。
「何か食べたいものある? 疲れているなら少し休憩してから、どこか食べにいこう」
なんでもいいよ、と言われると、逆に困る。
うーん、とひとしきり悩む翔の横で、有聖はにこにこと笑みを浮かべた。
「今日はコンビニか、一眠りしてからFでご飯食べてもいいかなって思ってたんだけど……。今はあんまり食べたいって気もしない。有聖さんは?」
「僕は何でもいいよ。Fに行きたければそれでもいいし」
「じゃ、そうしようかな」
「少し寝たら? 起こしてあげるよ」
「あ、うーん、でも……」
眠いことは眠い。有聖に会えると喜んできたのはいいが、体は疲れている。でも、なんとなく目が冴えてしまっているし、せっかく有聖の家まで来たのに眠ってしまうのはもったいないような気がした。
やっと期末試験が終わった。
一か月前から少しずつ準備をして、テスト週間は毎日二時間ほどの睡眠で乗り切った。過去問で乗り切れる科目はほぼ一夜漬けだ。
有機合成がやや心配だが、なんとか追試は回避できたはずだ。
テストの一週間前からバイトは完全に休ませてもらった。もし追試になったら、また休みをもらわないといけなくなる。それは避けたかった。
そして、有聖ともほとんど連絡をとっていない。初めてのセックスをしてから一か月もしないうちに本格的なテスト勉強に入ってしまった。
――テストが終わるまでは連絡しないでおくね。しっかり勉強するんだよ。
最後に会ったのは二週間以上前だ。こんなに有聖と会わないのは初めてかもしれない。
学生の本分は勉強、と言われては翔もわがままは言えない。それに、最初は寂しさもあったが、テストが迫ってくると、その寂しさよりも落単できないプレッシャーが勝った。結果的に、有聖に会わなくて良かったのかもしれない。
(会ってたら、絶対テストどころじゃなかったよな……)
会っていたとしても、テストを疎かにするようなことは有聖が許さなかったと思うが、翔の方が集中できなかっただろう。
乳首をいじられ、お尻にスパンキングされ、それ以外にも……。まだお試しとはいえ、言葉には到底できないような卑猥なことをされてきた。有聖に会えば、それを思い出してしまって、全く勉強に集中できなかったと思う。
「なぁー、翔は飲み会来ないの?」
同じゼミに入った同期が、研究室のデスクで荷物をまとめる翔に声をかけた。
「んー、今回はやめとく。すんげぇ眠い」
「俺、全部追試の予感しかしねぇよ。合成、やばかったよな? 過去問にあんなの載ってた?」
「あーあれね、過去問にはなかったけど、類題が教科書の総合演習にあったよ」
「マジかぁ。ほぼ過去問しかやってなかった……。やばい、単位落とすかも」
「まだ追試あるしさ。追試は本試験の問題が三割出るっぽいから、まだ諦めるな。今年落単すると自動的に留年だし」
がくりと項垂れた同期の肩をぽんぽんと叩いて励ました。かく言う翔も有機合成はやや自信がない。手ごたえとしては、ぎりぎり六十点はいったような気がする。
四年に上がるまでに所定の単位が取れていないと事前実習が受けられない。一、二年で落とした単位は三年で再履修可能だが、三年生で単位を落とすと来年取り直すことになり、事前実習が受けられないのだ。
「答案返ってきたら、見してな。まじ頼む」
「オッケー。きっと大丈夫だよ。……じゃ、お先ね」
ひらひらと手を振り、翔は研究室を後にした。
(あー、ご飯どうしようかな。作るのはめんどい。コンビニでなんか買うか……。いっそFでなんか食べさしてもらおうかな)
リュックを背負い自転車に乗ろうと思ったとき、お尻のポケットに入れたスマホが鳴った。
画面を見て、思わず口元が緩んだ。
「あ、有聖さん?」
『翔くん? テスト、お疲れ様。今、大丈夫?』
「うん。今、ちょうど帰ろうかなって思ってたところ」
『そっか。今日はFには来ないんだっけ?』
「一応、今日まで休みもらってます。明日からまたいつも通りって感じになると思う」
『そうなんだね。じゃ、今からうちに来ない? テストを頑張った翔くんにごちそうするよ』
嬉しくて笑みがこぼれた。
「やった! じゃ、今から家に寄ってから、有聖さんの家に行くね」
『迎えに行こうか?』
ほんの少し考えて、翔は迎えを断った。
『じゃ、待ってるよ』
「はーい」
通話がきれたスマホをポケットに押し込み、うきうきと自転車で家へと急いだ。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「翔くん、疲れてるね。大丈夫?」
「んー、平気。テスト終わってほっとした」
リビングのソファに座って有聖が淹れてくれたコーヒーをすする。
「テストは大丈夫そう?」
「ちょっと心配な科目はあるけど、たぶん大丈夫だと思う」
「そうか。えらかったね。結果はいつわかるの?」
「追試かどうかは来週中にはわかるよ」
点数は答案を取りに行かないとわからないが、試験に通ったかどうかはオンラインで確認できる。
「翔くん、僕との約束、覚えているよね?」
耳元に有聖の吐息がかかって、翔は思わず首を竦めた。
――翔くん、頑張って勉強しなきゃダメだよ。
最後に会った日のやり取りを思い出して、かぁっと頬が熱くなる。
――もし追試になったらお仕置きするからね。
「覚えてるみたいだね。結果がでたら、ちゃんと教えてね」
「は、い」
大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせる。手ごたえとしては悪くなかった。ボーダーの六十点は取れたはずだ。
どきどきと心臓の音がうるさい。
「翔くんなら大丈夫そうだね」
そう言われると、信じてくれているようで嬉しかった。
「何か食べたいものある? 疲れているなら少し休憩してから、どこか食べにいこう」
なんでもいいよ、と言われると、逆に困る。
うーん、とひとしきり悩む翔の横で、有聖はにこにこと笑みを浮かべた。
「今日はコンビニか、一眠りしてからFでご飯食べてもいいかなって思ってたんだけど……。今はあんまり食べたいって気もしない。有聖さんは?」
「僕は何でもいいよ。Fに行きたければそれでもいいし」
「じゃ、そうしようかな」
「少し寝たら? 起こしてあげるよ」
「あ、うーん、でも……」
眠いことは眠い。有聖に会えると喜んできたのはいいが、体は疲れている。でも、なんとなく目が冴えてしまっているし、せっかく有聖の家まで来たのに眠ってしまうのはもったいないような気がした。
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