102 / 105
番外編・青年カインの年上の恋人
9
しおりを挟む
カインが目を覚ますとニーナの腕の中だった。ニーナの体にはカインがつけた赤い痕が点々と残っており、カインは後ろめたい気持ちになった。
(昨日は……いや、もう今朝か。今朝はニーナと湯を浴びて……ぐしゃぐしゃになったシーツを変えてから着の身着のままで眠って……今は昼前か)
ベッド横の棚にある置き時計をチラリと見た。ニーナは半裸のままカインを胸に抱きしめて寝息を立てている。
(ニーナは本当にキレイだ)
ニーナの艶々とした肌や銀色の髪が窓からの日差しを受けて輝いている。カインは眩しさに目を細めた。
(こんな儚げな見た目なのに……性格は意外と豪快というか。行動力があって目が離せなくなる)
ニーナは地域紛争によって故郷と家族を喪い、大人になるまでずっと一人で生きて来たと言っていた。行動力があるのはそんな境遇もあってのことだろうとカインは一人嘆息した。
ニーナの故郷は東の大陸にある獣人の国ベスティクラだ。冒険者は他国に派遣されることもあるので、カインも名前を知っている国だった。
ベスティクラは先王の排他的な支配によって他国との武力衝突が頻発し、その余波を受けて国内情勢は酷い有様となっていた。
現王に代替わりしてからは諸外国との国交も回復し、平穏を取り戻しつつあるが、まだまだ小さな争いは絶えないらしい。
(幼いニーナが国のせいでそんな理不尽な目にあったことに心から憤りを感じるのに、それがなければ俺達は出会うことがなかったと思うと……運命というものは残酷だ)
獣人の集落が戦禍に巻き込まれなければ、ニーナは故郷で家族に囲まれて幸せに暮らし、国境沿いのあの娼館で働くこともなかった筈だ。カインは複雑な気分になってしまい、ニーナの胸に頬ずりをした。
「んー……こら……」
ニーナが薄目を開けてこちらを見た。まだ眠たそうな声をしている。
「カイン君……朝からいやらしいことしたらダメだぞ」
「いやらしいことはしていない。胸に頬ずりしただけだ」
「だから、それが……いやらしいんだって……」
ニーナはクスクスと笑ってカインの頭をギュウギュウと抱きしめた。
「おはよ……カイン……」
「おはよう、ニーナ」
身をよじって顔を上げ、挨拶を交わした。
「おはようって言う時間じゃないかぁ……起きてご飯食べよっか」
「ニーナ、体は大丈夫か?」
「うーん、カイン君、昨日はすっごく激しかったよねぇ」
ニーナは色っぽく囁いてカインの髪を撫でた。
「……ああ、昨日は……その、興奮し過ぎてしまって……ニーナの体に無理をさせた」
「ふふっ、大丈夫。オレも盛り上がっちゃったし」
昨日のことを思い出しているのかニーナが切なそうなため息を漏らした。
「体はダルいけど起き上がれない程じゃないよ」
「そうか……良かった。朝食……いや、昼食は俺が用意するのでしばらく横になっていてくれ」
「やだ、手伝う」
ニーナは起き上がろうとしたカインを引っ張った。
「カインの作るご飯は何ていうか……すごいことになるから。オレが制御しないと」
「……すまない」
「ううん、カインらしくて好き」
カインは仕事柄、野営せざるを得ない場合があるので調理スキルはあったが、家庭料理というものを実はほとんど作ったことがない。
「味は美味しいし問題は量だけだから。カインのご飯久しぶりだから、楽しみ!」
ニーナが「すごい」と言ったのはその点だった。普段、カインは野営用の炊き出ししか作ったことがなかったので、初めてニーナに手料理を振る舞った際にも作り過ぎてしまい、三日間は同じ料理を食べ続けることになった。
「ニーナが見てくれると、助かる」
「任せてよ」
ニーナは食堂の下働きをしていたこともあるらしく、料理の手際が良い。一緒に食事を作る際はニーナが分量を図り、方向性を修整してくれるのでカインは助かっていた。
「カインは飲み込みが早いから、すぐ丁度良く作れるようになるよ」
「そうだろうか……」
「そうだよ!」
ニーナは勢い良く起き上がって伸びをした。
「じゃ、一緒に一階に行こっか」
「ああ、抱えて降りなくて平気か?」
「大丈夫だよ! カイン君って過保護だよね」
困った風に笑ってニーナはカインの額に唇を落とした。
(昨日は……いや、もう今朝か。今朝はニーナと湯を浴びて……ぐしゃぐしゃになったシーツを変えてから着の身着のままで眠って……今は昼前か)
ベッド横の棚にある置き時計をチラリと見た。ニーナは半裸のままカインを胸に抱きしめて寝息を立てている。
(ニーナは本当にキレイだ)
ニーナの艶々とした肌や銀色の髪が窓からの日差しを受けて輝いている。カインは眩しさに目を細めた。
(こんな儚げな見た目なのに……性格は意外と豪快というか。行動力があって目が離せなくなる)
ニーナは地域紛争によって故郷と家族を喪い、大人になるまでずっと一人で生きて来たと言っていた。行動力があるのはそんな境遇もあってのことだろうとカインは一人嘆息した。
ニーナの故郷は東の大陸にある獣人の国ベスティクラだ。冒険者は他国に派遣されることもあるので、カインも名前を知っている国だった。
ベスティクラは先王の排他的な支配によって他国との武力衝突が頻発し、その余波を受けて国内情勢は酷い有様となっていた。
現王に代替わりしてからは諸外国との国交も回復し、平穏を取り戻しつつあるが、まだまだ小さな争いは絶えないらしい。
(幼いニーナが国のせいでそんな理不尽な目にあったことに心から憤りを感じるのに、それがなければ俺達は出会うことがなかったと思うと……運命というものは残酷だ)
獣人の集落が戦禍に巻き込まれなければ、ニーナは故郷で家族に囲まれて幸せに暮らし、国境沿いのあの娼館で働くこともなかった筈だ。カインは複雑な気分になってしまい、ニーナの胸に頬ずりをした。
「んー……こら……」
ニーナが薄目を開けてこちらを見た。まだ眠たそうな声をしている。
「カイン君……朝からいやらしいことしたらダメだぞ」
「いやらしいことはしていない。胸に頬ずりしただけだ」
「だから、それが……いやらしいんだって……」
ニーナはクスクスと笑ってカインの頭をギュウギュウと抱きしめた。
「おはよ……カイン……」
「おはよう、ニーナ」
身をよじって顔を上げ、挨拶を交わした。
「おはようって言う時間じゃないかぁ……起きてご飯食べよっか」
「ニーナ、体は大丈夫か?」
「うーん、カイン君、昨日はすっごく激しかったよねぇ」
ニーナは色っぽく囁いてカインの髪を撫でた。
「……ああ、昨日は……その、興奮し過ぎてしまって……ニーナの体に無理をさせた」
「ふふっ、大丈夫。オレも盛り上がっちゃったし」
昨日のことを思い出しているのかニーナが切なそうなため息を漏らした。
「体はダルいけど起き上がれない程じゃないよ」
「そうか……良かった。朝食……いや、昼食は俺が用意するのでしばらく横になっていてくれ」
「やだ、手伝う」
ニーナは起き上がろうとしたカインを引っ張った。
「カインの作るご飯は何ていうか……すごいことになるから。オレが制御しないと」
「……すまない」
「ううん、カインらしくて好き」
カインは仕事柄、野営せざるを得ない場合があるので調理スキルはあったが、家庭料理というものを実はほとんど作ったことがない。
「味は美味しいし問題は量だけだから。カインのご飯久しぶりだから、楽しみ!」
ニーナが「すごい」と言ったのはその点だった。普段、カインは野営用の炊き出ししか作ったことがなかったので、初めてニーナに手料理を振る舞った際にも作り過ぎてしまい、三日間は同じ料理を食べ続けることになった。
「ニーナが見てくれると、助かる」
「任せてよ」
ニーナは食堂の下働きをしていたこともあるらしく、料理の手際が良い。一緒に食事を作る際はニーナが分量を図り、方向性を修整してくれるのでカインは助かっていた。
「カインは飲み込みが早いから、すぐ丁度良く作れるようになるよ」
「そうだろうか……」
「そうだよ!」
ニーナは勢い良く起き上がって伸びをした。
「じゃ、一緒に一階に行こっか」
「ああ、抱えて降りなくて平気か?」
「大丈夫だよ! カイン君って過保護だよね」
困った風に笑ってニーナはカインの額に唇を落とした。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる